D.o.A. ep.58~
Ep.66 情報屋
「自作…自演…って、あの!?」
「あまり大きな声を出さないで」
レリシャの語った衝撃の舞台裏に、ライルは二の句が継げない。
酒なんて飲んだことないと言ったライルに、口当たりのいいシャンディガフを勧めてくれたマスターも、犯人一味ということになるのか。
そしてわざわざ自分の店を使って、事件を起こしたということになる。
目出し帽をしていたのは、顔が分かれば繋がりがあると一目瞭然だからなのかもしれない。
彼らの要求は、同胞の解放と言っていた。
夜明けまでに従わなければ人質の命はない、とも。
そう告げられた兵士たちは、人質救出に右往左往していた。
しかし自作自演となれば、話は全く変わってくる。
「あのさ、助けるって言った手前アレなんだけど、…別になんにもしなくてよくないか。人質と犯人が仲間だったら殺される心配なんてないんだし」
黙って見ててもさして問題はないのでは?と楽観視に持っていこうとすると、レリシャは暗い顔でかぶりを振る。
「違うわ、ライルさん。…あの人たちはおふざけでやっているわけではないのよ。ナファディ卿が要求を拒否したら…命を絶つわ」
「……それじゃあ、」
「確かに自作自演よ。――けれど人の命がかかっていることには違いない。あの人たちは、本気なの」
ああ。だから彼女はそんなにも冷静さを失っていたのか。
ライルの心にも、俄然、焦燥が再び息を吹き返してくる。
しかし気持ちばかりが焦っても、彼には情報がなかった。
「事を起こさないとナファディ卿は取り合わない、って考えるのはわからなくもないけど…なにも死ぬことは」
「自作自演のことも、死ぬつもりのことも、逃がしてもらう直前に知ったわ。どんな計画を立てていて、どういうつもりなのか…何も。わたしは疎外されていた」
「じゃあ訊くけど、同胞、っていうのは、やっぱり、10日前に裏通りで大量検挙されたって人たちなのか」
「よく集まって自分たちを示す時、その言葉を使っていたから、間違いないと思う」
命を本気でかけるところから見ても、非常に仲間意識の強い集団らしい。
同胞というからには仕事仲間以上の絆があるのだろう。―――たとえば、血であるとか。
日陰に生きている者は、個人主義で孤立主義な連中に違いない、と決めてかかっていたが、恐らくトリキアスの印象が強すぎたせいだ。
「っていうかさ、そもそもなんで逮捕されたんだ?」
「わからない。わたしは彼らを知っているけれど、陽気で親切で…悪いことをする人たちとは到底思えないもの。それに叫んでいた。これは不当逮捕だ、冤罪だって」
レリシャも、大して情報を持っていないらしかった。
不安げに柳眉を陰らせる彼女に、なにかいい提案をしたいと知恵を絞るが、生憎地頭はよろしくない。
なにか行動しようにも情報がないわけで、情報を得るためにはどうすべきなのか。
確か、この町には知る人ぞ知る情報屋がいると―――
「…ビャクダン!ビャクダンなら、きっと知っているはずだわ」
レリシャが声を上げる。
ビャクダン?誰それ?などと尋ねる間もなく、レリシャは彼の手首をつかんで走り出す。
「ちょ、っと、…っ、どこへ?」
「トーゲンキョー!」
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作品名:D.o.A. ep.58~ 作家名:har