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D.o.A. ep.58~

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「―――…くん! ら、ライルくん!はよ起きっ、もう、こんな時にっ!」
「…う、ん」

額の奥の鈍い痛みを手のひらで抑えながら、ライルは呼び声に反応する。
テーブルに突っ伏して、いつの間にか意識を失ってしまったらしい。
寝起き直後でぼんやりする視界を、数度のまばたきで確かにしていく。
「ん…どう、した」
周囲を確認すると、いつになく焦った海賊団の面々、どよめくその他の客たちの姿が見える。
「あ。もう、演舞終わったのか」
「なに暢気なことゆーてんねん、これでもぶっかけたろか」
レリシャの舞い姿が、なぜだか全く記憶にない。心の底から残念そうに呟くと、苛立ったエルマンが冷水のコップを思わず掴もうとした。

「―――おい!そこのお前、なにをしている!?」
「……ちっ」
ステージの方から発せられたがなり声に、彼の動きがぎくりと止まる。
「不審な動きをすれば、人質の命は保障しないといったはずだ!!」
「え、なに」
その怒声でライルの意識は覚醒し、一気に現実へと引き戻される。
人質?一体なんのことだ。自分が気絶していた間に、一体なにが起こっているというのか。
「人質以外は全員店外へ出ろ…後方の者から順にな!」
事態をよくのみこめていないライルと違い、周りの者の動作は命令に従順だ。
次第に、何者かによる立てこもり事件が勃発しているのがわかってきたが、逃がしてもらえるなら下手にかかわらずに立ち去りたいということだろう。
入り口に近い席の人間たちから徐々に立ち上がっていき、両手を上げながら外へと歩いていく。
だれぞ果敢に立ち向かうものはいないのか、と歯噛みした時、

「―――ふざけるな!この、治安を乱す賊どもめ…ッ」

ざわめく前方の客を掻い潜り、ステージの正面で声を張り上げる男がいた。
クリーム色の特徴的な軽鎧を身につけた、アルルーナの青年兵のようだ。
彼が動いたことにより、人の間に隙間ができて、前方の様子を垣間見る。
各々武器を携え、目元だけを露出したマスクをかぶる数名の男たちが、ステージ上に陣取り、怯え顔の従業員を固めていた。
ふとカウンターの方を振り返ると、あのマスターの姿がない。よく見えないが、あそこで人質として捕われているのだろう。
そうなると、舞台の上で踊っていたはずのレリシャも―――

「お、お前たちっ。こんな事が許されるとでも思っているのか!人質を解放して早々に投降したほうが身のためだっ」
「我らの要求に肯くだけの立場だということがわかっていないようだな」

「…要求?要求だと?!」
若く場数も少ないであろう青年兵を奮い立たせるのは、民を害する悪に対する義憤のみである。
民の安寧を守るという使命のもと、彼は若干震えた、しかしよく通る声で必死に叫んでいた。
先程がなっていた男とは違い、リーダー格らしい男は戦斧を掲げ、左様、と静かに告げる。

「要求はただひとつ。わが同胞の解放である。夜明けまでに要求に従わねば、人質の命は無いものと思え」

「ば、バカな…わが同胞なんて…そもそもお前たち、何者だ!そんな要求を、誰に向けてせよと…」
「決まっているだろう?」
やれやれ、と肩をすくめ、リーダー格の男は一歩踏み出す。
憎々しげに眼を細めながら、戦斧の先をぴたりと青年兵の鼻先へ突きつけた。

「ナファディ=ラジアン。―――あの卑劣で薄汚い咎人に、だ」


作品名:D.o.A. ep.58~ 作家名:har