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無窮花(ムグンファ)~二度目の恋~【続・相思花】

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「よしよし、そなたにだけは教えてやろう。美しいスウォル、この屋敷の金蔵(かねぐら)にはお宝が山のように眠っておるのよ」
「まあ、では、そのお宝をお使いになるのですか?」
「違う違う、そのお宝は偽のお宝で、それを上手く使えば、本物のお宝をよりたくさん手に入れられる。その本物のお宝を取引に使うのだ、さすれば、都にも戻れる」
 妓生が無邪気な少女のように手を叩いた。
「素敵。流石は使道さまとなられるようなお方は私たちとは、ここの出来が違いますのね」
 と、自分の頭をつついた。
 ピルサムが名案を思いついたように頷いて独りごちた。
「よし、来年都に戻るときは、そなたも連れて参ろう」
 スウォルがピルサムにしなだれかかる。
「あら、都のご本宅には奥さまやご子息さまがおいでになるのでしょうに」
 ピルサムが呵々大笑した。
「皺だらけの老いた妻などに用はない」
「では、私は本宅に入れて正室にして下さいますの?」
「約束しよう、そなたを妻にし、いずれ、そなたが男子を産めば、その息子に家門を継がせてやる」
 妓生は更に豊満な身体を使道に押しつけた。
「嬉しい、スウォルはこれからは旦那さまに身も心も捧げてお仕え致します」
 ピルサムは恍惚と眼を閉じた。やわらかな女の身体を預けられ、何とも心地良いことか。豊かな乳房が衣越しにもはっきりと感じられる。彼の男の部分がこれ以上はないというほど張りつめた。
「スウォル、そろそろ良かろう?」
 問いかけるように言えば、妓生はまるで男を知らない小娘のように頬を染める。
 ピルサムがスウォルを軽々と抱き上げ、背後の扉を開けた。
 隣室には豪奢な絹の布団が整然とのべられている。ピルサムは隣室に脚を踏み入れ、スウォルを布団に降ろした。
 自分も傍らに陣取り、彼女の上衣の紐を解いてゆく。初夏のこととて、上衣を脱げば、胸許から続いたチマだけの姿になる。上半身のいつもは布を巻いている胸部分には黒布に深紅の牡丹が幾つも咲き誇っていた。その黒い身頃に蒼いチマが繋がっているのだ。上半身から続いているこの二段のチマはまるで西洋の夫人が纏うというドレスのようだ。
 豊かな胸許を覆う漆黒の布を見て、ピルサムの鼻息が更に荒くなった。手を伸ばし、漆黒の闇に咲き誇る紅い刺繍の花を指先でなぞれば、豊かな胸の頂はすぐに反応して固くなった。ピルサムはその感触を愉しむかのように、なおも執拗に指で女の乳首を布越しに嬲った。
 胸許を隠すその布は膨らみの半ばしか隠してはいない。外からはくっきりとした谷間が見え、少し布をずらしてやれば、彼の愛撫で固く凝った尖りがすぐに姿を現すはずだ。
「今宵は朝まで、そなたと桃源郷をゆるりとさすらおう」
 嫌らしげな手つきで露わになった胸の上部分を撫で谷間に指を挿し入れる。ピルサムがその黒布を更に押し下げようとしたその時、彼の身体がよろめいた。
 使道の身体はそのまま急速に力を失い、棒切れのように豪奢な夜具に転がった。
 スウォル―、色香溢れる妓生がその美しい面には似合わぬ舌打ちを聞かせた。
「やっと眠ってくれたわね」
 呟いたのと、室の庭に面した扉が開いたのは時を同じくしていた。
「ソナ!」
 ソンスは黒装束にすっぽりと身を包んでいる。頭も眼だけは覗いて頭巾で覆っていた。背中にはひとふりの長刀を背負っている。
「とにかく、早く服を着ろ」
 ソンスが視線をさまよわせ、あらぬ方を向いて言う。夜陰のせいで、耳まで紅くなっているのがソナに気付かれなくて、彼には幸いだった。
 ソナも使道に脱がされた上衣を手早く羽織った。紐を結び終えたところで、ソンスが初めて彼女を見た。
「危ないところだったな」
 ソンスの言葉に、妓生に化けていたソナがむくれた。
「もっと早くに出てきてくれなきゃ。なかなか酒に混ぜた眠り薬が効かなくて焦ったのよ」
 ソンスが憮然として言った。
「俺だって気が気がじゃなかったさ」
 そこで、彼は苦い薬を無理に流し込まれたような表情で思い出していた。
 使道がやに下がった顔でソナの身体を撫で回しているときは幾度飛びだそうと思ったことか。使道の淫らな視線だけでも許せないのに、その汚らわしい手がソナの身体をまさぐっているのを黙って眺めているのは拷問に等しかった。
 だが、酒に混ぜた眠り薬が完全に効いて使道が正体を失うまで、ソンスは出ていかないというのがソナとの約束だった。むろん、使道に一向に薬が効かず、ソナが身体を奪われそうにでもなろうものなら、そんな約束は端から無視して飛び出してはいっただろうが。
 幸いにも、そんなことにはならずに済んで良かった。
「用心深いのよ、この男。最初は幾ら酒を勧めてもなかなか飲もうとしなくて、困ったわ」
 ソナが肩を竦めるのに、ソンスが眉をつり上げた。
「それで、女の手練手管を駆使したというわけか? 随分と堂に入っていたな」
「それはどういう意味?」
 いつになく彼の口調に潜む皮肉げな響きに、ソナは敏感に反応した。
「別に深い意味はないさ。だが、俺にはお前の使道にしなだれかかる姿は本物の妓生のように見えた。―ただ、それだけのことだ」
 理不尽に侮辱された。ソナは苛立ちを抑え、ソンスを睨んだ。
「言い合いは後にしましょう。時間がないのよ、急がないと。あなたも聞いたように、使道が偽金を隠しているのは間違いなくこの屋敷の金蔵だわ」
 ソンスも今度は素早く頷いた。
「よし、急ごう」
 ソナは眠っている使道はそのままに室の扉を元どおりに閉めた。隣室の燭台の明かりをふっと吹き消し、また扉をきっちりと閉める。これで朝まで使道は妓生とお楽しみだと屋敷の使用人たちは思い込むことだろう。
 使道は女と過ごす夜は絶対に誰も寝所に近づけない。時には女を縛って犯したりと嗜虐的な性嗜好もあるため、人が近づくことを嫌うのだ。その分、不用心になるともいえる。
 問題は使道に飲ませた睡眠薬がいつまで保つかということだ。この薬は人によって持続時間が違うため、大体の目安はあれども、これといった確証はない。そのため、一刻も早くに金蔵を見つける必要があった。
 今は余計な言い争いをしているべきではない。ソナの思考の切り替えは速く、それはソンスも同様であった。
 今宵は月もない。夜の闇は深く、果てがないようにも思えた。庭を脚音を消して走りながら、ソンスが口早に問いかけた。
「金蔵のありかは聞かなかったのか?」
「残念ながら、無理だったわ。もうひと押しすれば何とか引き出せたかもしれないけどね」
 と、ソンスがまた余計なことを言う。
「お前があのやに下がった男に素っ裸を見せれば、聞き出せたかもしれないな」
「そうね、いっそのこと全部脱いでやれば良かったかも」
 自棄になってソナが言うと、ソンスが烈しい眼で睨んだ。
「馬鹿を言うな。あれだけでも、俺には許し難い」
 まるでソナについて自分の女のように独占欲剥き出しで言うことに、その時、彼もソナもまるで気付いてはいなかった。
 幸いにも、金蔵は直に見つかった。
 使道の役宅は広いが、探索に困るほどではなかった。母屋と離れが向かい合って建ち並ぶ庭の最奥部に蔵が二つ並んでいる。その右側に偽金は隠されていたのである。
「ここか?」
「みたいね」