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Lost Universe 01

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 それでもこの道を選んだのは自分なのだと、暫し立ち止まって空を見上げていた青戸だったがやがてその足は一歩一歩とどこかへと歩き出す。
 エスカレーターで下り、それなりに混み合ったコンコース内を人の間を縫うように進む青戸は、改札口の手前にある窓口へと向かう。
 『西部入国管理局』とプレートのついた窓口の一つへ向かった青戸は、透明のプレートを挟んで座る受付の女性へとパスポートを差し出した。
 同じ国内なのに地方を行き来するのにはパスポートが必要で、そんな規則になったのは数年前の話だが、ずっと東部で生まれ育った青戸にとっては無縁のものだと思っていたので今回初めてパスポートを取得した。
「はい、名前と職業は」
 まだ二十代前半だろうか。どこか幼い顔つきの女性は規定の制服を着て青戸の目の前に座っていたが、差し出されたパスポートを受け取りつつもテンプレートに沿った言葉を発する。
 まずは本人とパスポートの顔写真が一致していること、そして氏名を確認しつつ、職業は単なるおまけにしか過ぎなかったが――ほんの数秒だけ考えた後、青戸はゆっくりと見知らぬ土地の空気を胸一杯に吸い込んだ。
「……青戸、駿……職業は、無職です」
「……」
 あまりにも青戸がリアリティな職業を述べたことで、受付の女性は声を失ってぽかんとした瞳で青戸を見上げ返してしまう。
 今までと幾多との入国希望者と同じやり取りをしてきたが、ここまで生々しい理由を述べる者は青戸が初めてだった。
「えっと……こちらへはご旅行ですか?」
「いえ、西部に移住しようと思って。今日まで無職で、明日からは一応肩書きが付きますけど」
 いくら本当のこととはいえ、無職は言い過ぎたかもしれない……パスポートを青戸へと返しつつも引きつった笑みの女性を前に、青戸はぎこちない笑みを浮かべた。



第一話 「上陸」



 この国は横長な国土を二分するように東部と西部に分かれている。
 しかし、その区分けはただの線引きではなく、“国境”でもある――この二つの地域は大分類では同じ国なのにも関わらず、それぞれで自治が行われている独特国家でもある。
 東部と西部、それぞれに首相がいて、政治組織があって、その下には何千万人との住人がいる……この国が分裂してしまったのも何十年か前の政治的な相違による地方間の仲違いから、そして五年前の決定的な事件から。しかし今にしてみればそんな理由は一つのきっかけにしか過ぎなかった。
 分かることと言えば、同じ国内なのにも関わらずパスポートがなければ反対側へ行けないこと、そして反対側に住む者は絶対悪だと学校教育で教え込まれていること。
 勿論事情があって反対側に引っ越さなければいけない者もいるが、そんな場合でも『反対側から来ました』なんて安易に言えるはずが無い。
 『同じ地方でも遠いところから来た』と、その日買ったばかりの広域地図を片手に遠そうな地域の名前を挙げる者も少なくないのだ。
 東部と西部に分かれた二つの地域はそのような特殊な事情はあるものの、それ以外は他の国と何ら変わりのない平和な場所だった。
 そしてここは西部地方の中ほどに位置した中都市のある中学校、その校内の一角に配置された女子サッカー部部室。
 プレハブ建てでさして広くも無い室内、一人の少女は部活を終えて慌てた様子で帰り支度を終えると鞄を手に引っ掛けていた。
 そんな少女の背中にチームメイトの一人が視線を向けたのは、彼女が部室を出て行こうと扉に手を掛けた直後。
「モッチー、帰っちゃうの?」
「うん、スタジアム行かなきゃ!今日はスカーレッツの試合があるからさ」
 チームメイトの問いかけに身体を止め、くるりと身体を返しながらも迷わずにそう叫ぶのは倉持真夏、中学二年生。
 小柄な体格と百五十センチない背丈、活発さを滲ませる黒髪のショートカット屈託の無い笑顔が印象的の女子生徒である。
 彼女は学校では女子サッカー部に所属し、ポジションはセンターバック。
 自軍ゴール前で身体を張るポジションということもあり、小柄な体格の彼女には不利にも見えるが持ち前のガッツで泣き言などは一切言わずに果敢にも身体を張っている。
 その懸命な姿が評価されて二年生ながらスタメンに抜擢されているが、練習のたびに彼女の身体は擦り傷だらけになっていた。
 今日もまた頬に真新しい絆創膏を貼っていたが、彼女はそんなことも気にすることなく溌剌とした笑顔を浮かべる。
 今日はただの放課後ではない。スカーレッツスタジアム――ここから三十分ほど自転車を走らせたところにあるサッカー場で試合があるからだ。
 真夏は自分でプレーするだけではなくプロの試合を見ることも好きなこともあり、地元チームでもあるスカーレッツを応援しているのだがチームメイトの反応は薄い。
「スカーレッツ?だってあのチーム、強くないし」
「そんなの分からないよ、今日は勝つかもしれないし……じゃあ、お先!」
 乗り気ではないチームメイトの言葉に口を尖らせながらも、真夏は一人部室を飛び出した。
 彼女は小走りで校舎の片隅に設置された駐輪場へと向かうと、荷物を前篭に詰めてハンドルを押して校舎の外へと出る。
「よっと」
 確かにスカーレッツは強いチームではない。二十チームが参加するプロサッカーリーグでも十位から十五位を漂い、上位進出には程遠い。
 今はまだシーズンが開幕して四試合、一勝二敗一引分という成績で胸を晴れる成績でもない。
 チームメイトは強いチームやビジュアルの良い選手などを好むようで、全国的な有名度を誇る選手のいないスカーレッツには興味が無い様子。
 それでも真夏は地元のチームという愛着故か、ホームゲームの時はこうして観に行ってしまうのだが……彼女は中学校からこの地へ引っ越してきた転校生だったので、幼い頃からスカーレッツのサポーターではない。
「皆もスカーレッツを観ればいいのに」
 真夏は寂しそうにそうぼやきながらも自転車をこぎ、田園風景広がる一本道をひたすらに進み続ける。
 彼女が進むたびに羽織っていたジャージの上着がバタバタと強く靡くが彼女は気にせずに進む。
 スカーレッツのホームである西部地方紅西地区は総人口が十万人ほどの中都市で、自然に溢れた長閑で住みやすい場所でもある。
 普段はしんとしていて、スカーレッツの試合があるときだけは他地区のナンバープレートを付けた車やツアーで来たらしきバスが列を作る。
 その光景は慣れたものだと思う一方、スタジアムで試合が行われる証だと思うとわくわくして来る――そうして真夏がスタジアムに着いたときには、既に試合が始まって前半が二十分ほど経過したときだった。
 いつもの場所に自転車を停め、駆け足で入場ゲートへと向かうとシーズン開幕前に手に入れたシーズンチケットをチケット係へと見せる。
 スカーレッツスタジアムはドーム型で、収容人数は五万人。それなりの規模を持つスタジアム内は座種ごとに一階から五階までと分かれている。
 真夏の持っているシーズンチケットはホーム自由席、つまり熱い同志が集まるゴール裏でもある。
作品名:Lost Universe 01 作家名:ねるねるねるね