怪人と 1度もおまえに呼ばれなかった
2 不肖の息子
幸か不幸か
オペラ座で
怪人を見た
人曰く
「眼は落ち込んだ
ただのくぼみで
真っ黒な
2つの大穴」
「横から見ても
あるかないか
判別不能の
無残な鼻」
「歪んで閉じない
醜い唇
当然ながら
歯茎はむき出し」
「肉のない
その骸骨に
直にかぶさる
くすんだ皮膚
浮き出た血管」
「あれを髪だと
呼ぶとするなら
額の上と
耳の後ろに
わずかばかりの
茶色い毛の束」
身もふたもない
酷評なれど
当たらずとも
遠からず
どう贔屓目に
見たところで
人好きのする
容貌じゃない
女子供は
卒倒する
20年も
昔に死んだ
母親は
自分が産んだ
産物なのに
おぞましすぎると
最後まで
我が子を
毛嫌いした女
醜すぎるから
顔を覆えと
我が人生
最初の仮面を
幼い私に
放ってよこした
血も涙もない女
いい子でいると
お願いだからと
泣きすがっても
泣きすがっても
頬ずり1つ
キス1つ
とうとう死ぬまで
してくれようとは
しなかった
抱きしめられた
記憶すらない
町じゅうが褒める
美人だったが
母親と呼ぶ
気にもなれない
情のかけらも
ない女
そんな女を
誰が慕う?
愛された
覚えもないのに
死んだからって
どう恋しがる?
20年
経って未だに
死者を鞭打つ
不肖の息子は
それでもやはり
親不孝だと
そしられるのか?
作品名:怪人と 1度もおまえに呼ばれなかった 作家名:懐拳