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ゼルジーとリシアン

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 ゼルジーもちょっとのぞいてみて、すぐさまリシアンの意見に同調した。なるほど、着替え用の小さなチェストを挟んで、両脇にがっしりとした作りの、実用的な木製ベッドが置かれ、真っ白なシーツにありきたりな図案をほどこされた掛け布団と毛布。これじゃまるで、病院の個室だわ、とゼルジーは顔をしかめた。

 パルナンはといえば、ゼルジーとは正反対で、大人扱いされたことが、誇らしげな様子だった。
「シンプルなかっこよさってものがわからないなんて、やっぱりゼルは子供だな」パルナンはそう言って鼻で笑った。
 リシアンの提案で、彼女の子供部屋に折り畳み式のベッドを運んでもらい、そこで一緒に寝ようということになった。
「なんていい思いつきかしら。あなたってば天才じゃない?」ゼルジーは本心からそうほめちぎった。
「そう広くはないけれど、ベッドもう1つ分くらいなら、むしろちょうどいいわよね。わたし達、どちらかが眠りに落ちるまで、存分に楽しい計画を練ることができるわ。ああ、今からもう、寝に行くのが待ち遠しいくらいっ!」とリシアン。
「わたしもよ。いつもは、寝る時間が近づいてくるだけで憂うつな気分になったものだけれど」

 実際、その夜は、ふだんならとっくに寝息を立てている時間にもかかわらず、のぼせ切ってしまい、いつまでも眠らず、おしゃべりを続けたのだった。
 それでもやがて、会話がとぎれとぎれになり、しばし沈黙が続いた後、どちらともなく、ふっと夢の世界へと旅立っていったのである。


3.リシアンの秘密の場所

 小鳥達のさえずり、ざわざわと賑やかなセミの鳴き声にせかされて、ゼルジーは目を醒ました。
 ぼんやりとした目が慣れてくるに従い、見慣れない白い天井が浮かび上がってくる。つかの間、自分がどこにいるのか思い出せなかった。やがて、そうだ、ここはソームウッド・タウンで、リシアンの子供部屋なんだわ、と記憶が蘇ってきた。
 かたわらのベッドを見ると、すでにそこはもぬけの殻で、きれいに畳まれた寝間着が置いてあるきり。
「リシアンたら、もう起き出して、どっかへ行ったんだわ」ゼルジーはつぶやいた。壁掛け時計に目をやると、まだ6時をちょっと回ったばかりである。

 子供部屋の窓をコンコン、と叩く音が聞こえた。窓の外でリシアンが手招きをしている。
「まあ、リシアン。あんたって、ずいぶん早起きなのねっ」ゼルジーは窓を開け、そう言った。
「眠っていたから、起こさないでおいたんだ。ねえ、ゼルジー。着替えて、ちょっといらっしゃいよ。わたしの秘密の場所に連れて行ってあげるから」
「秘密の場所ですって?」ゼルジーはたちまち有頂天になった。「秘密」という言葉ほど魅力的なものはない。眠気などすっかり吹き飛び、急いで着替えを始めた。

 ブラウスのホックをとめながら、ゼルジーは庭へ駆け出る。
「素敵ね、秘密の場所だなんて。わたしなんかに教えちゃってもいいの?」ゼルジーは聞いた。
「あら、もちろんよ! だって、あんたはもう、わたしの大親友なんですもの」リシアンは真っ黒な瞳をキラキラと輝かせて言った。
 大喜びのゼルジーは思わず両手を揉み絞り、
「ねえ、あなたのこと、リシーって呼んでいい? そのほうが、ずっと親しげに聞こえるんですもの」
「なら、わたしもあんたをゼルと呼ぶわ。さあ、行きましょう。とっときの場所へ」

 2人は丘を越えた森の中へと入っていった。
「この森はね、ウィスターさんとこの持ち物なのよ。でも、あの人ってば、かなりのお年だから、手入れをすることもできなくって、すっかり荒れ放題なの」リシアンはそう言いながら、藪の間にかろうじて残る道を、先に立って進んだ。
「こんなに木がたくさんあるところなんて、わたし、これまでに見たことがないわ」ゼルジーは感嘆の溜め息をついた。「公園には木立があったけれど、あれだって林と呼ぶのははばかられたわ。ここは紛れもなく『森』なのねっ」

 ほどなく、沼が見えてきた。そのすぐ脇に、たいそう古く大きな桜の木が立っている。春にはきっと、見応えのある満開の花が見られたであろう事は、いっぱいに広がった枝と青々とした葉からも、容易に想像がついた。
「ほら、あれよ、ゼル。あの桜の木が、わたしの秘密の場所」リシアンが指差した。桜の木は、大人が両手を広げてもまだ足りないほど太く、幹にはぽっかりとうろが空いていた。
「なんて立派な桜の木なんでしょうね。それに見て、リシー。こんなに大きな穴が空いている。わたし達2人が中に入っても、まだ余るくらいっ」ゼルジーは思わず駆け寄った。
 中をのぞくと、節くれだったコブが、ちょうど腰掛けのような案配になっていて、居心地がよさそうだった。

 リシアンがまずうろの中へ入り、ゼルジーにも来るよう、促した。
「いらっしゃいな、ゼル。ほら、そっち側のコブが座りやすいわよ」
「おじゃまするわね、リシー。あら、中は涼しいじゃないの。不思議だわ」ゼルジーは周りをぐるっと見回してみた。薄暗い中を、外からの光が差し込んで、朽ちた木の壁をうっすらと緑に染めている。
「夏でも、過ごしやすいのよ。冬は冬で、風を遮ってくれて、割と温かいんだから」とリシアン。「わたし、1人のときはいつもここに来るの。1日中、空想をしてね。この中にいると、なんだか自分も森の一部になったような気がするのよ。家にいるときよか、考え事もずっとはかどるわ」
「物思いにふけるには、とっても具合がよさそうね」ゼルジーはうなずいた。

「ここからだと、外の景色もなんだか違って見えるのよ。ほら、すぐ向こうにこんもりとした小山があるでしょ? わたし、あそこのてっぺんにお城が建っているって、よく空想するの」
「お城は無理だとしても、家くらいは建ちそうね」ゼルジーがそう言うと、
「ううん、ぜんぜん。ほんとはずっとちっぽけな山なの。丘と言ってもいいくらいだわ。10歩で登り切れるくらいなんだから」
「まあ、そうなの? こうして見ると、大きく思えるんだけれど」ゼルジーは試しにうろから出てみた。すると、リシアンの言う通り、ずいぶんと低いことがわかった。「本当だわ。確かにあれじゃ山とは呼べないわね」

「ねえ、ゼル。あの小山に登ってみよっか」リシアンが提案した。
 ゼルジーはちょっと考えるそぶりを見せ、こんなことを言い出す。
「リシー、あの小山、実は見た目ほど簡単には登れないわよ」
「なんで?」リシアンはきょとんとしてゼルジーを見た。「わたし、あそこなら、今までにも何度か登ったことあるわよ」
「それは、まだ魔法がかかっていなかったからだわ。でも、今は違うの。よく見て。どこか妖しげな雰囲気が漂っていない? あれは魔法よ。もう、誰も登ることなんかできやしないんだわ」
 リシアンはすぐに察した。すでに空想の世界へ入り込んだのだ。

「わかったわ、ゼル。登れるかどうか、試してみましょうよ」
「そうね、そうするのが一番だわ。どんな魔法が掛けられているのか、わたし達で突き止めましょう」
 2人は藪をかき分けて、小山に向かった。
 なだらかに盛り上がった小山は、間近で見ても、やはり低く見えた。リシアンの言う通り、10歩で登れそうである。
作品名:ゼルジーとリシアン 作家名:夢野彼方