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ゼルジーとリシアン

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 光が次第に消えていき、かざしていた手をどけると、玉座には、小柄な老人がうつむいて座っているのが見えた。
「ねえ、あれってウィスターさんじゃない?!」リシアンがびっくりしたように指差す。
「本当だっ、ウィスターさんだわ!」
 5人は玉座に駆け寄った。
「ウィスターさん、あなたがどうしてここに?」ロファニーが聞いた。
「さあなあ、わしにもそこんとこがわからんのじゃ。気がついたら、こうしておる。ただ、これまでずっと忘れていたものがあった。なんと言うか、絆というものかな」
 その時、部屋中からみしみしという不気味な音が響いてきた。
「まずいぞ、塔が崩れるっ!」ベリオスが警告を発する。ゼルジー達は、慌てて階段を駆け下り、すんでのところで塔の外へと脱出した。
 暗黒の塔は、音を立てて崩れ落ち、瓦礫もやがて塵と化して消えてしまった。
 残るものといえば、かつて建っていた塔の影ばかりである。

 ゼルジーははっと目を開けた。隣ではパルナンが気持ちよさそうに眠っていた。
「夢だったんだわ。なんて不思議な、そしてなんて素敵な夢だったんだろう」
 夢の跡をたどろうと、ゼルジーはもう1度目を閉じかける。そこへセルシアが入ってきた。
「ゼルジーったら、こっちの部屋で寝てたのね。リシアンから電話よ。早く、下りてらっしゃいな」
 なんだろうと思いながら居間に下りていき、受話器を耳に押し付けるや、リシアンの心ここにあらず、と言った調子の声が、外にまで洩れてきた。
「おはよう、ゼル。あのね、わたしとっても奇妙な夢を観たのよっ。あんたやほかのみんなが出てきたの。あの魔王ロードンをやっつけたんだから! いい? 驚かないでちょうだい。魔王の正体はなんと――」
「ウィスターさんだったんじゃない?」とゼルジー。しばらくの間、受話器からはなんの音も聞こえてこなかった。

「あんた、なんでそれを知ってるわけ?」ようやく口がきけるようになったと見え、リシアンはそう尋ねる。
「不思議ね、わたしもそっくり同じ夢を観たの。たった今よ。なんて偶然なのかしら!」
 すると、後ろから半分寝ぼけた声が加わった。
「偶然なんかじゃないよ。それこそが本物の魔法なんだ」パルナンだった。「だって、ぼくもその夢を観たんだもの」


22.リシアンからの手紙

 11月も中頃を過ぎると、街路樹はすっかり葉を落とし、冷たい風が吹くようになっていた。
「もうすぐ冬休みだわ。いつもは、寒い季節になるのが嫌でたまらなかったの。厚着はしなくてはならないし、それにわたしは寒いのが大っ嫌いなんだもん」暖炉の前であぐらをかき、隣に座るパルナンにそう言う。
「そうだよなあ。ぼくも冬は苦手さ。雪が降るのは楽しいけど、遊んだあとは決まってあかぎれになっちゃうんだ。指の先まで痒くなるんだぞ。あんな不愉快なものって、ほかにはないよ」
「でもね、パルナン。わたし、今年の冬がとっても待ち遠しいのよ。なぜって、休みになれば、リシー達が来るじゃない? そしたら、デパートや大きな本屋を案内してあげるの。向こうじゃ、そうした店が一軒もないんですって。少なくとも、町へ行かないとね。だから、電話で話していても、そのことが楽しみで仕方ないんだって言ってたわ」

「おかあさんと一緒に、どこか喫茶店に行くって言ってなかったかい?」パルナンは聞いた。
「そうよ。『スズラン』に行くの。これは前からの約束でね、イチゴのたっぷり載ったパフェを2人して食べるのよ」
「ああ、あそこのパフェは確かにおいしいね。ぼくも何度か連れて行ってもらったことがあるけど」
「それからね、前にリシーからもらったノート、それを返さなくっちゃ。わたし達、みんな揃って同じ夢を観たでしょ? それをあの子に書いてもらうの。『木もれ日の王国物語』の結末を書くのは、リシーの役割だもの」
「不思議な夢だったなあ。もう1度言うけど、あれはやっぱり魔法だったんだよ。そうじゃなけりゃ、説明が付かないもんな」パルナンは言うと、かたわらに積んである薪を3本ばかり、ぽいっと暖炉に放り込んだ。「もう2週間ほどで冬なんだなあ。これはあてずっぽに過ぎないんだけど、今度の冬休みも、夏に負けないくらい、思い出深いものになる気がするな。退屈なんて言葉を忘れてしまうくらいにね」

 それから数日して、ゼルジーの元に一通の手紙が届いた。リシアンからである。
「あら、何かしら。用事なら、いつものように電話で済ませればいいことなのに」ゼルジーはテーブルに着くと、封を切った。読み進めるにつれ、その瞳がきらきらと輝きを増していく。
「まあっ、なんてことかしら! なんて素晴らしいんだろう!」パッと立ち上がると、その足でパルナンのいる部屋へと駆け上った。
「どうしたの? ゼルジー」驚いたように振り返るパルナン。
「たった今、ソームウッド・タウンのリシーから手紙が来たの。すっごく驚くようなことが書いてあったんだから! いい? 読んで聞かせるわ。聞いてね」
 手紙にはこう書いてあった。

「親愛なるゼルジーへ。

 ああ、ゼル。わたし、あんたにどうしても伝えたいことがあって、この手紙を書いてるの。電話なんかじゃもったいないわ。それに、興奮してしまって、うまくしゃべれないに決まってるもの。
 ブレアスさんのこと、覚えている? 都会へ出て行ってしまった、ウィスターさんの息子さんよ。あの人、こっちに戻ってくるんですって。
 おかあさんから聞いたんだけれど、ブレアスさん、ウィスターさんとちょっとしたことでいさかい合ってしまったんですって。それで出て行ってしまったのね。でも、ウィスターさんがふと考えを変えて、ブレアスさんと連絡を取ったそうなの。それで、すぐに仲直りが出来たんだって。素敵なことじゃない?
 わたし、ウィスターさんと会うことがあって、その理由を聞いたの。でも、『わしにもようわからん。ただ、そうしなくてはならない気がしたんじゃ』とだけしか教えてくれなかったわ。
 ブレアスさんは、都会での仕事をすっぱり辞め、ソームウッド・タウンで農場を引き継ぐことにしたのよ。
 ねえ、ゼル。これってどういうことだかわかる? つまり、ウィスターさんはここに住み続けるってことなの。だから、あの森も手放さなくて済むのよ。わたし達の森は、これからもずっと守り続けられるの!
 ほら、驚いたでしょ? こうしてペンを取りながらも、あんたのびっくりした顔が目に浮かぶようだわ。
 いつか休みの日にあんた達がこっちへ来ても、ちゃんと森はあるんですからね。また『木もれ日の王国』へ行きましょうよ。それが出来るんですもの。
 このことを知ってロファニー兄さんは大喜びだったわ。ベリオス兄さんは、ちぇっ、せっかくここいらも便利になるところだったのに、なんて口では言っているけど、内心ではほっとしているみたい。あの人はそう言う人だもの。
 わたし達、冬休みに入ったら、すぐにそっちへ行くわ。また、みんなして楽しい空想ごっこをしましょうよ。

あなたを心から愛するリシアンより」

「なんだか信じられないよ」パルナンは、まるで夢見るように言った。「夢の中では魔王を倒し、現実でもこんな素敵な結末が待っていたなんてさ!」
作品名:ゼルジーとリシアン 作家名:夢野彼方