ゼルジーとリシアン
「でも、これは本当のことよ。わたし達、何もかもすべてしっくりいったんだわ。パルナンの言う通り、やっぱり魔法なのよ。いい魔法使いがどこかでわたし達を見ていて、幸せの呪文を唱えたに違いないわ」
「ソームウッド・タウンに行ったとき、そこにあるはずの森がないことを想像して、とっても悲しかったんだ。でも、やっぱり見慣れた景色がそこにはあるんだね」
「そうよ、パルナン。もう悲しまなくっていいの。うるさいばかりの道路なんか通らないし、カブトムシだっていつも通り楽しく暮らしていけるんだから」
待ちに待ったその日がやって来た。
「じゃあ、2人とも留守番を頼むわね」セルシアは、駅までリシアン達を向かいに出かけるのだ。
残されたゼルジーは、ソファーに座ったり、また立ったりとそわそわしている。
「少しは落ち着けよ、ゼルジー」そう言うパルナンも、赤々と燃える暖炉の前で、もう十分火種があるのにもかかわらず、次から次へと薪をくべていた。
「あと何分くらいで来るかしら。20分くらいかなぁ、それとも30分はかかるかしら。もしかしたしら、途中でどこかへ寄るかもしれない。そうだとしたら、うんと待たされるに違いないわ」
「まっすぐ帰ってくるさ。そうだなあ、せいぜい15分といったところだよ」
パルナンの読みは見事的中し、ちょうど15分後にドアノブががちゃりと回る音がした。
「帰ってきた!」パルナンとゼルジーは同時に立ち上がると、玄関に駆けていく。
「さあさあ、外は寒かったでしょ? 中に入ってくつろいでね」セルシアがまず入ってくる。
「お邪魔します」ロファニーが続き、
「こんにちは」とベリオスの懐かしい声が聞こえてきた。
しんがりを務めるのはリシアンで、赤いコートに身を包んだ姿でドアの前に立っていた。
ゼルジーを見つけると、顔をぱっと輝かせて飛び付いてくる。
「ゼル、ゼル。どんなにか会いたかったことか、あんたにはわからないでしょうねっ」
ゼルジーもきつく腕を回し、
「わたしにわからなかったですって? とんでもないわ。来る日も来る日も、あなたのことをずっと待ってたんだから。あなた、元気にしてた?」
リシアンは腕をそっと振りほどくと、顔を曇らせた。
「あのね、ゼル。わたし、あんたに言わなくちゃならないことがあるの」
ゼルジーの頭に、さっと不安がよぎった。
「まさか、やっぱり森は切られて、道路が出来るっていうんじゃないでしょうね? だってあなた、手紙では工事は中止になったって、言っていたじゃないの」
「ううん、わたし達の森は無事よ。桜の木もね。そうじゃないの。もっと大変なことが起こったのよ」リシアンは、いったん言葉を切った。「『木もれ日の王国』に恐ろしい怪物が現れたの。あの魔王ですら小さな子供に思えるほどのね。もちろん、わたしとロファニー、それにベリオスで戦ってみたわ。でも、ぜんぜん歯が立たないの。お願い、ゼルジー、パルナン。もう1度、あんた達の力を貸してちょうだい!」