ゼルジーとリシアン
何事かと思う間もなく崖崩れが起き、あっと言う間に入り口が塞がれてしまった。
「大変っ、閉じ込められてしまったわ!」リシアン女王は慌てて入り口に駆け寄る。
銀のローブの男が力一杯、岩を押してみたが、びくともしなかった。
「とにかく、奥へ行ってみよう。別の出口があるかもしれない」
炎の明かりを頼りに進んでいくと、ふいに岩に行き当たる。
「ここだけぽつんと岩がある」ゼルジーは不思議に思った。
「あら、これ化石だわ。人が座っているように見えない?」リシアン女王が気がつく。
「パルナン、火をもっと近づけてくれ。よく見えるようにな」銀のローブの男が言った。
よくよく見ると、それはローブに身を包んだ姿だった。
「やはり、そうか。これはおれの兄貴だ。長いこと座り込んでいたんで、化石になっちまったんだな」
「まあ、どうしましょう。わたしの治癒の魔法でも、化石を元に戻すことはできないわ」リシアン女王はうろたえた。
「なあに、掘り出してやればいい」金属の魔法使いは、虚空から大きな金槌を取り出すと、それを振り上げ、一気に叩き下ろす。
化石は粉々に砕け、中から金のローブの男が現れた。
「お前か。久しいな。よく、ここがわかったものだ」金のローブの男がのんきそうに口を開いた。
「あなたが土の属性の魔法使い?」リシアン女王は聞いた。
「うむ、いかにも。君たちはどなたかな?」
そこで、ゼルジーはこれまでのいきさつを余さず話した。
「なるほど、元素の魔法使いが再び5人集まったというわけだね」と金のローブの男。「では、ぐずぐずしてもいられまい。ここを出て、魔王を倒さねばな」
「でも、入り口が岩で塞がれてしまっているんです」リシアン女王が言った。
「どうってことはない」金のローブの男は、入り口まで行くと、花を手折るより簡単に、岩を押し退けた。「わたしは土の属性だ。力にかけては誰にも引けを取らん」
「それにしても、兄貴はこんなところで何をしていたんだ?」銀のローブの男が聞いた。
「マウンテンサウルスを見つけたのだよ」
「それって、どこにいやがるんだ?」パルナンは辺りを見回した。
金のローブの男はからからと笑い、
「ここはそいつの口の中だ。君たちが越えてきた山こそが、マウンテンサウルスの化石だったのだ」〕
うろから出てきた3人は、安堵のため息を漏らした。
「もう1人も見つかったわね」ゼルジーは興奮冷めやらぬといった様子だった。
「ついに5人そろったんだわ」リシアンも両手を胸で組んで感極まった声を洩らす。
そんな2人に、パルナンは言うのだった。
「これからが本番さ。魔王を探し出し、封印しなくっちゃならないんだからね」
14.ロファニーとベリオス
伝説の魔法使いが2人とも見つかって、ゼルジー達は一安心した。あとは、魔王ロードンを探し出し、対決するだけである。
「今日は焦って冒険をする必要はないわね」リシアンが言った。
「ええ、こっちは5人揃ったんだし、いくら魔王がすべての元素魔法を使えるって言ったって、人数が多い分、負ける気はしないわ」ゼルジーものんびりとしたものだった。
「久しぶりにゆっくり朝ご飯を食べて、お昼には帰ってこられるね」考え深いパルナンでさえ、そう答える。
テーブルに家族全員が着き、穏やかな朝食が始まった。
「あなた、今日は何時頃に出かけるの?」クレイアがダレンスに聞く。
「そうだなあ。10時過ぎに行けば、ちょうど向こうに着く頃だろう」
「あら、おじさん、今日はお仕事じゃないの?」ゼルジーはパンを食べる手を止めた。
「今日はね、ロファニーとベリオスがサマー・キャンプから戻ってくるのよ。だから、クルマで迎えに行くの」クレイアが言う。
「まあっ、今日だったんだわ!」リシアンが喜びの声を上げる。
「やっと会えるんだ」パルナンも、思わず顔を上げた。
ロファニーとベリオスは、しばしばロンダー・パステルへやって来ていた。そのため、パルナン、ゼルジーにとって、兄のような存在だった。
「お昼頃には、みんなを連れて家に戻れるだろう。久しぶりに、賑やかな食事になるぞ」ダレンスは陽気に笑った。
「ぼくたち、それまでにちゃんと戻ってくるよ。今日は、さしあたって急ぐ用事もないんだ」その割りにはそわそわとするパルナン。
食事を終えると、3人は森へ出かけた。
「さっさと魔王を倒してきましょう」ゼルジーが元気いっぱいに呼びかける。
「よーし、待ってろよ、魔王め」パルナンも、いつになく張り切っていた。
〔無事に「太古の森」から帰ってきたゼルジー、リシアン女王、パルナン、そして金と銀のローブの魔法使い。
「魔王はどこにいるんですか?」ゼルジーは金のローブの男に尋ねた。
「あやつは『影の国』にいる。そここそが、あやつめの住処なのだ」
「『影の国』って、何番目の扉だったかしら」リシアン女王は思案する。
「何番目の扉でもないさ」こう答えたのは銀のローブの男だ。「そこはこの『木もれ日の王国』からは行けない、別世界なんだ」
「じゃあ、どうやって行きゃあいいんだ」パルナンが言い返す。
「そこはだな――」〕
ゼルジー達はうろから出てきた。
「どこなのかしら、『影の国』って」リシアンが困ったように言う。
「パルナン、あなたは知っている?」とゼルジー。
「ううん、ぼくだってわからないよ。『木もれ日の王国』から行けないんじゃ、どうしようもない。てっきり、どこかの扉の向こうかと思ったんだけど」
3人は、桜の木の根元に座り込んで、あれこれと話し合った。けれど、いくら考えても解決の糸口さえ見つからない。
そうこうしているうちに、昼も近くなった。
「とりあえず、家に戻りましょ。お昼を食べれば、何か思いつくかもしれないし」リシアンの提案に反対する理由もなく、行きとはうってかわって、力なく引き返していく一同。
庭にはストンプ家のクルマが駐まっていた。
「あら、おじさん、もう帰ってきたんだわ」ゼルジーは言った。
「お兄ちゃん達も戻ってるわね」
「早く行こうよ」パルナンは小走りになる。
家に入ると、長男のロファニーがベリオスとテーブルで雑談をしていた。
「お兄ちゃん、お帰りなさい」リシアンが飛び付く勢いでロファニーのもとへ駆け寄る。
「やあ、リシアン。元気にしてたかい?」ロファニーはリシアンのほほに軽くキスをした。「パルナンにゼルジー、君たちも元気そうじゃないか」
「ロファニー兄さんもベリオス兄さんも、すっかり日に焼けて真っ赤だね」パルナンもテーブルに着いた。
「リシアン、お前、また空想ごっこでもしていたんだろ」こうからかうのはベリオス。「ウィスターさんとこの森は、お前のお気に入りだもんな」
「そうよ、わたし達毎日、空想の世界で冒険をしてたの」リシアンは素直に答える。
「へえー、ゼルジーはともかく、パルナンも一緒だって言うのか?」ベリオスは意外そうな顔をした。
「うん。ぼくも、初めのうちはカブトムシ採りばっかりしてたんだけど、空想には別の面白さがあるって、気がついたんだ」
「リシーはね、これまでの冒険をノートに付けてるの。ねえ、ロファニー兄さん、よかったら読んでみない?」そうゼルジーがすすめる。