ゼルジーとリシアン
「そいつはえらいことをしちまったな。だが、魔王ロードンを倒すには、あと1人足りないな。おれの兄貴なんだが」銀のローブの人物が言う。
「2番目の扉に行っちまったんだろ? あんたを探し出したら、次はそいつを見つけなきゃなんねえんだ」パルナンが急いた。
「そこって石の国ですよね」とゼルジー。「前にちらっと覗いたことがあるんですけど、石と岩ばかりの寂しい場所でしたわ」
「石の国か。なるほどな。だが、あそこは『太古の森』と言うんだ。まあ、行ってみればわかるがな」
こうして、伝説の魔法使いの1人が仲間に加わった。〕
3人は、ほっとしながらうろの中から出てきた。
「とりあえず、1人は見つかったね」パルナンが言った。
「あと1人。今度は石ばかりの国だから、厚着をしなくて済むわ」リシアンもほっとしたような声を出す。
「そうね、現実の世界は真夏、もう夕方だというのに、まだこんなに暑いんですもの。あんなかっこう、ごめんだわ」ゼルジーは、空っぽになったバスケットを腕にかけた。「そろそろ帰りましょう。明日も、また早いんだし」
13.太古の森
翌朝も3人は朝早くに起き、簡単な朝食を済ませると、バスケットにサンドイッチを詰めて出かけた。
「今日行くところは『太古の森』って言ったわよね?」リシアンが確認する。
「そうよ、リシー。石ばっかりのつまらない国。でも、あの魔法使いは、なんだか含みを持たせていたわね」
「まあ、いいさ。『氷の国』みたいに危険はないだろうし、行ってみれば、どんなところかわかるんだからね」パルナンは言った。
いつものように、うろの中へと入っていく。
〔リシアン女王、ゼルジー、パルナン、そして金属の魔法使いは、2番目の扉の向こうへと出発した。
「どこもかしこも石ばかりだわ」ゼルジーの言う通り、すべてはコンクリートのように灰色の世界だった。ごつごつとした岩の塊があちらこちらに転がり、遠くには岩棚のようなものが広がっている。
「あれが太古の森だ」と銀のローブの男が言った。
「森だって? あれがかい? どう見ても、ただの石の山じゃねえか」パルナンは言い返す。
4人がそこまで行ってみると、確かにそれらは樹木なのだった。
「驚いたわ、石でできた木なのね」リシアン女王は感嘆の声を上げる。
「正確には化石だ」と銀のローブの男。「ここにあるすべてのものは化石なんだ」
「ああ、だから『太古の森』なのねっ」ゼルジーは合点した。
「するってえと、大昔は本物の木が立っていたんだな。いったい、どうしたわけでこんなになっちまったんだろう」パルナンは首を傾げた。
「この国の寿命が来たのさ。生物は死に絶え、人々からも忘れ去られた。永い永い年月が経ち、そのまま化石になっちまったんだ」
よく見ると、木ばかりではなく、転がっている石や岩も、かつての形を残していた。
草であったり、三葉虫だったり、小動物もあった。
「それにしても、何もかも灰色で、どう進んでいいかわからないわ。あなた、わかる?」リシアン女王は銀のローブの男に尋ねた。
「さあな、おれもここは詳しくない。兄貴は、退屈しのぎに、マウンテンサウルスの化石を探しに行くと言っていた。そいつがどこにあるのかさえわかればなあ」
「名前からして、ずいぶん大きそうね。こんなうっそうとした森に、そんな恐竜なんか住んでいたかしら」ゼルジーは疑問を投げかける。
「そうね、小さな恐竜ならともかく、大きな生き物は、もっと広い場所にいたはずだわ」リシアン女王もうなずいた。
「そもそも、この森はどこまで続いてるんだろう。行けども行けども、同じような風景ばかりで、なんだかうんざりしてきちまったよ」パルナンはふうっとため息を漏らす。
気が滅入っているのは、何もパルナンだけではなかった。口にこそ出さなかったが、リシアン女王もゼルジーも、早くこの森から抜け出したいと思っていた。
動くものひとつなく、ただしんと静まり返った、文字通り死の森だった。心まで暗くなるのも当然である。
いくら歩いても、これといった変化が見当たらず、まるで同じところをぐるぐると回っている気さえした。
そんな4人の気持ちが通じたのか、突如として森が拓けた。
「どうやら、ここはかつて湖だったらしいな」銀のロープの魔法使いが言った。
すっかり干上がった湖底には、大きさも形も様々な生き物達が、そのままの姿で化石となっていた。
「あの中に、マウンテンサウルスがいるんじゃないかしら」ゼルジーは希望を言葉にする。
「いいや」銀のローブの男は否定した。「マウンテンサウルスはとにかくでかいと聞く。見たところ、そこいらに転がっているのは、大きくてもせいぜい、中型の恐竜ばかりだ」
「あなたのお兄様、せめて何か記しでも残してくれたらよかったのに」リシアン女王は思わず口にする。
「とにかく、湖に降りて、何かないか調べてみようぜ」パルナンが駆け出した。
ほかの3人も、差し当たってすることがないので、パルナンの後についていく。
広い湖を散らばって探索していると、ゼルジーが声を上げてみんなを呼んだ。
「ねえっ、これは何かしら?」
リシアン女王達が集まってくる。ゼルジーの指差すものは、脆くなって崩れた化石の1つだった。
「人の踏んだ跡のように見えない?」とゼルジー。
「ああ、言われてみれば確かに」銀のローブの男もうなずく。
「ここを通ったんだ」パルナンは叫んだ。
「足跡は南の方に向いているわ。ほら、ちょうどあの山よ」
「よし、あそこへ向かってみよう」銀のローブの男が言った。
行き先がわかったとあって、一同はがぜん、やる気が湧いてきた。
相変わらず殺風景な森が続いたが、少なくとも登り道であり、多少の変化があった。
「けっこう登るな。見た目よりも、ずいぶんと高い山だぞ」パルナンが1人、つぶやく。
「もうちょっとよ、パルナン。ほら、そろそろてっぺんが見えてきたわ」ゼルジーはそう言って、先の方を促した。
ほどなく山頂にたどり着き、一同はほっと一休みする。
「上まで来たが、何もなさそうだな」銀のローブの男は、辺りを見渡しながらつぶやいた。
「きっと、この山を越えて向こう側へ行ったんだわ」リシアン女王がそう推測する。
「あっちも、果てしなく化石の森が続いているわね。取りあえず、降りていってみましょう」ゼルジーが促す。
どんどん降りていくと、崖に行き当たった。仕方なく、回り道をして下っていく。
平坦な森に立って振り返ると、崖にはポッカリと大きな穴が空いていた。
「怪しいな、あの洞穴。絶対、何かあるに違いない」パルナンが言い出す。
「中を見てみましょう。どうせ、ここは死んだ森なんだし、怪物なんて出たりはしないと思う」このゼルジーの意見に全員が同意し、洞窟へと入ってみることにした。
「暗いわ。パルナン、火を灯してちょうだい」リシアン女王が言うと、
「よしきたっ」指をパチンと鳴らし、炎を出現させる。
がらんとして、何もない洞穴だった。岩肌はつるんとしていて、虫1匹見当たらない。それどころか、道中、どこにでもあった化石すらなかった。
入り口からほんの10メートルばかり進んだところで、ごろごろという地響きを耳にする。