小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ゼルジーとリシアン

INDEX|14ページ/26ページ|

次のページ前のページ
 

 そっと階段を降りていくと、戸棚からシリアルを出し、牛乳をかけて食べる。
 そのあと、食パン入れを取り出すと、冷蔵庫にあるハムやチーズ、ジャム、マーガリンをたっぷり塗って、バスケットに詰めた。
「お昼は要らないって、断っていった方がいいんじゃない?」ゼルジーが言った。
「メモを書いていこうよ。テーブルの目に付くところに置いとけばいいじゃないか」とパルナン。
 リシアンはうなずくと、自分の部屋に取って返し、ボールペンで紙に「今日は夕方まで帰りません。お昼ご飯は、ちゃんとサンドイッチを作ったから要りません」と書き、そのメモを持って降りてきた。
「じゃあ、行きましょうか」ゼルジーはバスケットを抱えた。

 外はようやく明るくなってきたところだった。朝のすがすがしい空気が3人の鼻をくすぐる。
「こんなに早く起きたの、初めてよ」リシアンは両手をいっぱいに上げ、伸びをした。
「ぼくもさ。いつも、あと3時間は眠っているからね」
「わたし、まだちょっと眠いわ」ゼルジーがあくびをした。「でも、そんなことを言っている場合じゃないわね。何しろ、『木もれ日の王国』の危機なんですもの」
 桜の木に着くと、1人ずつ順番にうろの中へ入っていった。

〔リシアン女王とゼルジー、それにパルナンは、クローゼットで着替えを選んでいた。
「これから行く『氷の国』はひどく寒いから、十分に厚着していかなくちゃね」リシアン女王はフード付きの茶色いコートを着込みながら言った。
「おいらはどうすりゃあいいんだ。着るもんを貸してくれよ」パルナンには、今着ているものしか服がない。
「あんた、これがいいんじゃない?」ゼルジーが手渡したのは、真っ赤なダウン・ジャケットだった。「火の属性なんだから、派手な色の方がお似合いでしょ」
 パルナンは服を吟味した。リシアン女王の体格に合わせて作ってあるので若干小さかったが、着られないというほどでもなさそうだ。
「確かに燃えるような色をしているな。それに、よけいなアップリケもついてないし」しぶしぶながら着込む。少なくとも、寒さに震えるよりは、ずっとましだ。
 ゼルジーは厚手の青いマントを身にまとい、その上からやはり青いペチ・コートをはおった。

 全員の着替えが済むと、さっそく「扉の間」へと向かう。
「さあ、行くわよ。『氷の国』へ」ゼルジーは、2人の覚悟を確かめるように振り返った。
「ええ、いいわ。金属の魔法使いを探し出しましょう」リシアン女王が力強く答える。
「いいぞ、ゼルジー。寒さなんて、吹っ飛ばしてやらあ」
 ゼルジーは1番目の扉を開いた。
 ひゅうっと冷たい風が吹き込んでくる。思わずマントを絞り上げ、1歩踏み出す。
「ひえっ、どこもかしこも凍ってやがる。おい、みんな。滑って転ばねえよう、気をつけろよ」パルナンが注意をした。
「わかってるわ。でも、本当に用心しないとだめね」リシアン女王も、おっかなびっくり足を氷の上に乗せる。

 どこもかしこも氷の世界だった。林に立ち並ぶ樹木は、向こうがきれいに透けて見えた。枝も葉も、そして辺りに咲き乱れる花までも、すべてが氷なのだった。
 氷の草原を、時折ウサギやシカが駆けていく。その動物達まで氷でできていて、地面を蹴るコツン、コツンという音ばかりが聞こえてくる。
「ほんとに氷の世界なんだな」パルナンは呆然と見渡した。
「そうよ、ここには暖かい血の通った生き物なんていないの」ゼルジーがそう説明する。
 遠く氷の山に向かって、1本の道が続いていた。道と呼ぶより、アイス・リンクに溝を掘っただけ、と言ったほうがいいかもしれない。
「伝説の魔法使いは、きっとこの道を行ったんだわ。わたし達も、ここを通っていきましょう」リシアン女王が先頭に立つ。

 道は森を抜け、丘を越え、さらに洞窟へと入っていった。岩壁も氷なので、外の光が屈折を繰り返しながら差し込んでくる。
 天井にはつららが垂れ、氷のコウモリが群がりぶら下がっていた。
「これがふつうの洞窟だったら、さぞ気味が悪いことでしょうね」ゼルジーは言った。
「でも、こんなに明るいんですもの。かえって、きれいなくらいだわ」
「風が吹き込んでこない分、外よかあったけえしな」
 一同は、キラキラと輝く氷の洞窟を楽しみながら進んだ。

 ふいに洞窟が終わる。その先はなだらかな坂だった。
「ああ……」先を歩いていたリシアン女王が、落胆の溜め息をつく。
「どうされました、陛下?」ゼルジーも追いついて、リシアン女王と並ぶ。
「なんだ、なんだ。こんなところで休んでる暇なんかねえぞ」パルナンがやって来て、2人の肩越しにその向こうを見た。「なんてこった。崖っぷちじゃねえか。しかも、あっち側まで相当な幅があるぜ。これじゃ、渡るのは無理だな」
 ゼルジーがふと思いつく。
「わたしに考えがあるわ」振り上げた杖から、勢いよく水がほとばしる。対岸まで飛んでいくと、たちどころに凍り付き、即席の橋が出来上がった。
「さすがだわ、ゼルジー!」リシアン女王は手を叩いて褒める。
「こんな使い方があったとはなあ」さしものパルナンも、感心するしかなかった。
「さ、渡りましょう」

 無事に氷の橋を渡り終えると、上空に大きな影が現れた。
「あれって、ワシよね?」リシアン女王が見上げながら聞く。
「そのようですね」とゼルジーが答える間もなく、氷のオオワシはこちら目がけて急降下してきた。
「やばいっ!」パルナンが叫んだ。
「みんな、伏せてっ!」リシアン女王は急いで呪文を唱える。目の前に分厚い木の壁が立ちふさがった。
 たまらないのはオオワシのほうである。今さら方向転換もできず、そのまま壁にぶつかると、涼やかな音と共に砕け散ってしまった。
「間一髪だったぜ」パルナンは、ふうっと息をつく。
「素晴らしい機転でした、陛下」ゼルジーも、さっきのお返しとばかりに賞賛した。

 ようやくと氷の山の麓までたどり着いた一行。すると、氷ばかりの光景の中、銀色に輝くものを発見した。
「あれ、何かしらね」とリシアン女王。
「さあ……。でも、氷ではないようですわ」
 足許が滑るのもかまわず、駆け寄ってみる。なんと氷の中に、顔まですっぽりと銀色のローブに身を包んだ人物が眠っていた。
「きっと、こいつが金属の魔法使いに違いねえ」パルナンが断言する。
 リシアン女王もゼルジーも、うんうんとうなずいた。
「どうやったら助け出せるかしら」リシアン女王は腕を組む。
「わたしの魔法では、かえって凍らせてしまうばかりだし」ゼルジーも困ってしまった。
 パルナンが、わざとらしく咳をする。
「このおいらのことを忘れてやしませんかってんだ。見てろっ」パルナンは指を鳴らすと、得意の炎を出現させ、氷にぶつけた。

 氷はたちどころに溶け、銀のローブの人物がうーんと唸りながら、背伸びをする。
「ああ、よく眠った。お前達か? このおれを起こしてくれたのは」
「あなたが金属の魔法使い?」リシアン女王が尋ねた。
「そうだ。おれは確かにそう呼ばれていた。もしやと思うが、このおれに用があってきたんじゃあるまい?」
「ええ、実はそうなんです。わたし達、『木もれ日の王国』からやって来ました」ゼルジーは、これまでのいきさつを語った。
作品名:ゼルジーとリシアン 作家名:夢野彼方