ゼルジーとリシアン
「そもそも、魔王を呼び出したのはパルナンじゃないの」ゼルジーはなじった。
「だから、あれは行きがかりじょう、仕方がなかったんだってば」申し訳なさそうに答える。
「でも、どうにかなるはずよ」リシアンが間に割って入った。「今までだって、なんとかやってきたじゃない。きっと、解決する方法があるはずだわ」
「うん、そうだね、リシアン。ぼく達でなんとかしようよ」
「じゃあ、行ってみる? 『木もれ日の王国』へ」とゼルジー。
「ええ、行きましょ。そして、魔王ロードンを倒す方法を見つけるのよ」
3人は森へと出かけていった。
〔「木もれ日の王国」は、昼間だというのに真っ暗闇だ。魔王ロードンの呪いに違いなかった。
「魔王を倒さない限り、この闇がずっと続くんだわ」リシアン女王は不安げにつぶやいた。
「魔王はいったい、どこにいるのかしら?」ゼルジーも気味悪そうに空を見上げる。
「おいらのじいちゃんなら、きっと色々と知ってるに違いない」とパルナン。
「あなたのおじい様って、妖精の森の長だったわよね」リシアン女王は思い出したように言う。西の森のさらに奥深く、妖精の森はあった。
「そうさ。とにかく、めちゃくちゃ長く生きてるんだ、知らないことなどないくらいにね」
「陛下、ここは妖精の長に会ってみる必要がありますわ」ゼルジーが提案した。
「そうね、有益な情報が聞けそうだわ」リシアン女王はパルナンに向き直ると、「パルナン、あなたのおじい様、妖精の長に会ってみるわ」
パルナンはうなずいた。
「ああ、行ってみようぜ。もしかしたら、魔王を倒す方法を教えてくれるかもしれねえ」
一同は、妖精の森を目指して出発した。
「それにしても暗いわ。これじゃ、迷ってしまうんじゃないかしら」リシアン女王が言うと、待ってましたとばかりにパルナンが指を鳴らす。
ぽっと青白い炎が頭上に浮かんだ。
「おいらが火の魔法を使えるってことを忘れてもらっちゃ困るぜ」炎が周囲を照らし出し、無数の木の影を揺れ動かした。「第一、森はおいらにとっちゃ庭みたいなもんさ。目をつぶってたって、たどり着けらあ」
灯りを共にすることができ、リシアン女王もゼルジーも、ほっと安心する。
パルナンの道先案内で、迷うことなく無事に妖精の森へと到着した。
「じいちゃーん、じいちゃんってばよーっ!」パルナンが呼ばわる。すると、暗がりの中から、ぬうっと老人が現れた。長く垂れた髪は銀色で、顔も髭ですっかり埋もれた、小柄な人物だった。
「なんじゃパルナン、騒々しい。この非常時だというのに、いったいどこをほっつき歩いておったんじゃ」老人はいらいらした声で叱りつける。
「こんにちは、長老」リシアン女王が一歩進み出た。灯りの中に現れたその顔を見て、妖精の長、リーランスははっとしたように会釈をした。
「これはこれは、女王様。こんなへんぴなところまで、わざわざおいでくださるとは。それに、そらちにおわすは、魔法使いのゼルジー様。そろって、いったいどうなされたんですかな?」
「実は、この闇のことで――」ゼルジーが言いかけると、
「そうなんですじゃ。実にゆゆしきことが起きたようで。よからぬ気配が漂ってますなあ」
「それなんですが、あのう――」今度はリシアン女王が話そうとする。
「まったく、いったいどこのどいつじゃ。こんな悪さをしでかすのは」
「それ、おいらのせいなんだ」パルナンが白状をした。
「やはり、おまえか、パルナンっ!」リーランスは拳を高く持ち上げて怒鳴りつける。「なるほど、そういうことでしたか女王様。このパルナンめが、またしてもとんでもないいたずらを。ええ、わかっとります。みっちりと灸を据えてやらねばなりますまい」
リシアン女王は困りながらも訴える。
「いえ、そうじゃないんです、長老。 確かに、きっかけを作ったのはパルナンですが、わたし達がいけなかったんです。『禁断の扉』を開いてしまったんですから」
「なんですとっ!」リーランスは腰を抜かさんばかりに驚いた。「あの扉を開いてしまったですと? すると、ロードンめの封印が解かれてしまった、そうおっしゃるんですな?」
「ええ、そうなんです」ゼルジーは力なく答えた。
「これはえらいことになったわいっ」リーランスは落ち着きなく、辺りをうろうろとし始めた。
「わたしとゼルジー、それにパルナンで力を合わせて戦ったんですけれど、まるで歯が立ちませんでした」
「そうでしょうとも」とリーランス。「奴は、5大元素の魔法すべてを操れるのですじゃ。立ち向かうには、5人の魔法使いがそろわなくてはなりませぬ」
「5人の魔法使い?」ゼルジーが聞いた。
「さよう。それも、ただの魔法使いではありませぬ。それぞれが5つの属性を持っていなくてはならないのですじゃ」
「あなたはなんの属性を持ってらっしゃるんですか?」リシアン女王が尋ねた。
「じいちゃんはただの魔法しか使えねえよ」代わりにパルナンが答える。
「そう、わしには元素の属性がないのですじゃ」リーランスは悲しげに首を振る。
「でも、あと2人どうしても必要だわ。金属と土よね。どこかにいないかしら、その属性を持った魔法使い」ゼルジーはすがるように言った。
「かつて、魔王ロードンを封印した5人の魔法使いがおりました」リーランスが語る。「なんせ大昔のことですからな。うち3人は常世の国へと旅立ってしもうた」
「残る2人はどうしたんだい?」パルナンが聞いた。
「2人は兄弟でしてな。土と金属の属性の魔法使いでしたじゃ。3人の死を見届けた後、金属の魔法使いは『扉の間』の1番目の扉、土の魔法使いは2番目の扉の向こうへと去って行きなさりました」
「じゃあ、その2人を見つければいいのね。それで、すべての元素が集まるわっ」リシアン女王はパッと顔を輝かせた。
「1番目の扉って、確か『氷の国』でしたね、陛下」ゼルジーは考え考え言った。
「よしっ、今すぐ行こうぜ、その『氷の国』へよ」パルナンが呼びかける。
「行きましょう、伝説の魔法使いを探しにっ」リシアン女王も声を合わせた。
「ええ、のんびりしてはいられないもの。すぐにでも早く見つけなくちゃね」〕
パルナンは腕時計を見てびっくりした。夕方の5時をとっくに過ぎている。
「もう、こんな時間じゃないか。今日は帰らなくっちゃ」
「まあ、大変。夕食の時間に遅れると、うちのおかあさん、すっごく怒るのよ」リシアンも慌てた。
「ああ、でも、その2人の魔法使いは簡単に見つかるのかしら」ゼルジーは心配でたまらなかった。
「そうね、この桜の木が切り倒されてしまったら、わたし達、もう2度と『木もれ日の王国』へ行けなくなってしまうんだもの」
「だからさっ」パルナンは力強く声をかけた。「ぼく達、頑張って探し出さなくちゃならないんだ。明日は、朝早くから出かけるとしようよ」
「パルナンの言う通りね。どんな困難が待ち受けていようが、きっと探し出すわ、伝説の魔法使いを!」
12.氷の国
翌朝、3人はスズメがさえずりだすよりも早く起きた。
「おかあさん達、さすがにまだ寝てるわね」リシアンが小声で言う。「キッチンへ行って、シリアルを食べましょ。それから、お昼に戻らなくて済むよう、サンドイッチを作っていきましょうよ」