「夕美」 第九話
由美子の結婚生活は自分の体調への気遣いと子育てがすべての時間になっていた。
だから、隆一郎が大きくなっても癒される時間は感じられずに、そのことは夫俊之への申し訳なさと併せて自分の不満ともなっていた。
「おじさまは本当にお忙しくていらしたから仕方ないと思いました。隆一郎さんも同じようなことを話してくれましたから、自分はそんな大人になるのは嫌だとも聞かされました。私は貧しい家庭に育ってお金のことではみじめな思いをしてきましたから、忙しさがお金になるのならそれは我慢できると感じられます。
亡くなった母も時間に追われ体調を崩して幸せだったとは思えませんが、自分や弟妹たちの幸せを願って自分を犠牲にしていたことは後悔してないと思います。
自分が幸せだと思えることは、周りのおばさまや隆一郎さん、義母や義父が優しくしていただけることです。自分の望みは兄弟が仲良く暮らせること、それぞれが独り立ちできること、そのあとに私のような女を可哀想だと考えて結婚してくれる男性が現れたら、その人に尽くしたいと思っています」
「若いのにしっかりしてるわね。家族思いの夕美は立派だと思うけど、結婚は自分の幸せを叶えないと家族は幸せになれないのよ。わかる?」
「それはどのような意味なのでしょう?」
「あなたが自分が幸せと感じてないとその思いは子供には伝わらないということ。愛情とか人間性とかは教えることもあるけど、見て学ぶことなの。夕美が笑顔で夫婦仲良くしてないと子供は教わらないということなのよ」
「ええ、それはわかります。今の義母と義父を見て幸せそうだと感じられますから、自分も嬉しくなります」
「そうなの?仲が悪かったの?」