「夕美」 第九話
隆一郎が大学へ進学する春休みに夕美への自分の思いを告白した。
それはうすうす気づいていたことではあったが戸惑いを隠せなかった。
その日の夜に母親の由美子が部屋に呼んで夕美に願い事を話した。それは夕美にとって忘れられないものとなった。
「夕美、隆一郎の母親として話すのではなく、一人の女として話したいからそのつもりで聞いてね」
「はい、おばさま」
「私は幼いころから体が弱くて、男の人と話したり、遊んだりしたことはあまりなかったの。大学を出て就職もしないでいるところに、俊之さんとの結婚を持ち込まれた。結婚なんて考えていなかったからお断りしたんだけど、仕事関係で大切な人だから断れないと先方さんに口説かれて、両親も素敵な男性だから幸せになれるって後押ししてくれたから、それで従うことにしたの」
「そうでしたか、素敵なご縁があって羨ましいと思います」
「夕美、私は俊之さんが仕方なく上司からの紹介で承知したんだと思っていたのよ。それでも素敵な縁って思える?」
「結婚のことはよくわかりませんが、両親や周りから祝福されていることは素敵だったと思います」
「あなたは苦労してきたからそういう風に感じられるのね。私は、自分がこんな体で男性から好かれるだなんて思ったこともないの。俊之さんは立派な方だけどきっと不満がたくさんあったと思える。自分にはふさわしくないと結婚してすぐに感じたのよ。隆一郎が生まれたことは私の支えになった」
夕美は少し悲しくなってきた。