「夕美」 第九話
「お母さん、夕美は幸せです。父を亡くし、母を亡くし、兄弟が途方に暮れていたあの時を思い出すと、こうしてみんなが暮せていることが信じられないような思いです。これからもずっと仲良くして戴けると嬉しいです」
「夕美・・・大森さんのお世話になってあなたは成長したね。私は今までの遅れを取り戻さないとね。負けていられないわ」
「そんな・・・私なんかまだまだ子供です。教えてほしいことたくさんありますから」
「そうね、夕美は美人だからモテると思うわ。この頃そう感じられる。体がずいぶん大人になってきたものね」
「恥ずかしいです。やらなければいけないことがたくさんありますので、今は勉強と家のことに集中していたいです」
「うん、由美子さんや隆一郎さんに不自由をかけないで、頑張るのよ。あなたの年齢でここまで頑張っている女子高生はいないから、きっと将来そのことが自分の身を助けると思うよ。いつでも私たちは応援するから。だって母親と父親だからね。ねえ?誠一郎さん」
傍で聞いていた誠一郎は雅子と夕美の会話に引き込まれるようになっていた。
そして数か月前の自分が抱いていた妻への思いとは逆の気持ちを改めて確認していた。
「そうだよ、夕美。これからも困ったときは雅子に相談すればいい。女同士だから体のことや、その・・・恋愛のことも話せるぞ」
「お父さん、恋愛なんて・・・早すぎます。自分はまだまだ学ばないといけないことがありますから」
「お父さんか・・・いいなあ。息子はこの頃連絡もしてこないから本当に寂しいよ。夕美が本当の娘のように感じられるよ」
「ありがとうございます。たくさんの御恩は忘れることはないです。これからも助けてください」
夕美はこんなに早く自分と雅子が打ち解けあえるだなんて信じられなかった。俊之との関係はいけないことだと思いながら、自分の方へ気持ちが向いてくれたことは亡くなった俊之に感謝しなければいけない事なのかもしれないと雅子を許す気持ちに変わっていた。