ダンジョニアン男爵の迷宮競技
ダンジョニアン男爵は口の中にサクランボウを二つ丸ごと入れながら言った。そして口をもぐもぐさせ始めた。
ラビリーナは美しい顔に残酷な笑いを浮かべた
「それでは第三パーティを説明します。第三パーティは戦斧隊です。暗黒王国と呼ばれるタビヲン王国と戦う為に結成された戦斧隊ですが。戦争はタビヲン王国が混沌の大地を併合するという形で終結したので行き場を失った彼等はダンジョン競技に参加して自分達の存在をアピールしようとしています。頭の悪い戦士達です。精神的なトラウマを負った従軍した軍人達ですが、今日日、美形でないのでウケも同情も取れません。全員白い腰布一枚に盛り上がった筋肉と、戦斧を持って、入れ墨で仲間意識を高めている以外は何の取り柄もありません。何時も全滅する常連ですから判っていますよね。リーダーの人間、テホーが今回の戦斧隊のリーダーで戦斧戦士。後は、巨人族で戦斧戦士のギガテラ。小人族で戦斧戦士のギドール。牛頭人族で戦斧戦士のドラン。鬼人族で戦斧戦士のガル。岩巨人族で戦斧戦士のウゴル。人気は最下位一歩手前の七番人気です。戦士の筋肉だけでは迷宮の罠は突破出来ませんからね」
ラビリーナが言った。
「まあ、何時もと同じ殺し方で良いかな。
第四チェックポイント前まで引っ張っておいて皆殺しで全滅だ。だが邪戦斧隊との遺恨試合もマンネリ化しているから。今日はアドリブで変えるかな。常に新しい切り口を大衆達は求めているのだよ。私は期待に答えなくてはならない」
ダンジョニアン男爵は口からサクランボウを取り出した。二つのサクランボウが蝶々結びになって結びついている。それをソフトクリームの先端に載っけた。ソフトクリームがへっこんで載っかる。
「第四パーティーは、沿海岸州連合王国の沖にある魔術都市エターナルから、わざわざやって来た魔術師達です「ワイズメン」とは、また随分と傲慢な名前です。リーダーは魔術師の中年女の教授、ゴトル・メドラ。魔術師の准教授で三十ジャストの女リハ・ヤテラ。ロイド眼鏡にヒゲの初老の教授シバン・ゴンレー。准教授の男の魔術師リビ・ホレー。助手の女魔術師リビーナ・アッツ。助手の男の魔術師グド・ボーバー。人気は彼等の意気込みとは裏腹にシビアな六番人気です。肩書きと学歴に弱い連中が賭けているのでしょう」
ラビリーナが笑みを浮かべながら言った。
「どうやら、彼等の参加は私が雑誌で挑発したことが原因かな」
ダンジョニアン男爵はニヤニヤと後を引く笑いを浮かべた。
カットされたメロンの切れ目を舌でぺろぺろと舐めながら言った。
「それは、もう当然ですとも。「エターナルの魔術師の頭脳では、私のダンジョンはクリアー出来ない」とか「ダンジョンの過酷な環境では今のエターナルの魔術師は生存できない」とか「昔の伝説の魔術師達は絶滅した」とか格式在る政治雑誌「ガバメント・ガバナーズ国際版」で言っちゃいましたから」
ラビリーナは笑いながら言った。
「エターナルの魔術師は、魔術師の間では主流派だが、世の中色々なモノが在る。闇の淀みに潜む者達がいることを知らぬようでは、この迷宮競技では直ぐ死ぬことになる」
ダンジョニアン男爵は舌の先でメロンの果肉をすくって食べた。
「第五パーティは迷宮競技を後援しているヒマージ王国から迷宮競技のプレイヤーとして渡された犯罪者達です。彼等は全員が死刑囚です。ダンジョン競技で生還すると自由を手に入れられるという触れ込みで口説き落としています。リーダーはダンジョニアン男爵様の、ご命令どおり、百八人の女性を殺した連続猟奇殺人鬼レリキ・ヨツです。レリキ・ヨツも含めて、全員が盗賊として登録しています。他は、百三人を毒殺した毒殺魔のゴブ・ハベ。偽造貨幣を大量に製造した経済テロリストのギカセ・セン。紅一点の美女で殺人を功徳とする宗教を上流階級の間にまん延させた「殺しの秘文字」教の邪神官サシシ・ラーキ。ヒマージ王国の一部を占領した山賊団「闇の腕」のリーダー、バーリ・ゾーダー。麻薬製造工場のボス。キキロ・ハーゾと言ったところです。彼等の顔と名前を見れば誰だか判ります。人気は4番人気に付けています。最近は悪党に人気が集まりますね。酷い世の中です」
ラビリーナが笑いながら言った。
「可愛い悪党達じゃないか。だが真の悪党とは安全な場所で指示を出して手を汚さない人間だよ。私のようにね。だが本当の悪党は合法的に金銭的、名声的、地位的に成功して尊敬を受けている、社会の上にいる善人顔の偉い人と呼ばれる人間かな。私は汚いビジネスでカネを得ている分、それ程悪党では無いのかもしれないな。きっと善人だよ」
ダンジョニアン男爵は蝶々結びのサクランボウを食べた。そして種ごと飲み込んだ。
「それはもう、よく承知しております。こんな楽しいダンジョン・ゲームをコモン中のオーディエンス達に提供できる人間は善人に決まっています」
ラビリーナが笑いながら腰を曲げて挨拶しながら言った。
「腕が鳴るね。今日も腕が鳴るよ。私がダンジョンゲームをコントロールして大衆達を熱狂させて、興奮させて、財布の中身をスッカラカンにしてあげないとね!」
ダンジョニアン男爵が腕を振り回すとコキコキと関節が鳴り出した。
「第六パーティーは「借金隊」。これは我々が何時も用意するダンジョニアン金融への借金で身動きが出来なくなった首を吊るか迷宮競技に参加するかの、どちらかしかない奴等です。見せしめの為に出していますが破産する馬鹿者が後を絶ちません。最近マンネリ気味ですが。コイツラにはダンジョニアン男爵様の、ご命令どおり、ミュータント・シードを身体に植え込んでいます。大概は見せしめの為、アンラッキー・セブン行きで時短スピードクジで処刑するのですが、本日は、もっとダメなパーティが参加しているので今日は別扱いです。ダンジョニアン男爵様が操っていることは常連達は知っていますから人気は穴狙いの五番人気です。たまに一位通過させることも在りますからね。リーダーがクブ・ザーハ。他は、シダミ・オーベ、オコ・メーオン、チョバ・ハータン、コーシ・ウネー。オーバン・バスコです。全員男で、借金まみれなだけの一般人です」
ラビリーナは言った。
「一位で通過して借金が帳消しになっても彼等はミュータントから元には戻れないのだがね」
ダンジョニアン男爵は肩をすくめて言った。
「ゴキブリのミュータントになって家に帰って家族に刺し殺されたという話もあります。確か血の色は緑色だったそうです」
ラビリーナは笑いながら言った。
「まあ、家族も愛想を尽かしたという所だろう。借金は良くないと言う極めて教育的な話だ。貸す以上は利子を付けて取り返さないとダンジョニアン金融の経営が、成り立たんのだからね。借りる人間が長期的には損することによってダンジョニアン金融のような高利貸しは成り立つのだよ。こんな簡単な事も判らないから、大衆と愚民はイコールの関係に在るのだ。つまりはバカだ」
ダンジョニアン男爵は言った。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道