ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「第七パーティーは「ザ・ワイドハート」です。どうやら何も知らずに参加したバカ者達の様です。6人でも生還の難しい、このダンジョン競技に、たった三人で参加したバカ達です。ダンジョニアン男爵様の、ご命令通り、アンラッキー・セブンに押し込んでおきました。アンラッキー・セブンで何分保つかの時短スピードクジを仕掛けて置きました。リーダーは戦士のスカイ・ザ・ワイドハート。今回の最年少の十四歳の小僧です。他のメンバーは騎士のマグギャラン。魔術師のコロナ・プロミネンス。人気は当然のごとく最下位の八番人気です」
ラビリーナが言った。
「やはり彼等はザコだよ。でも彼等に参加する意味が、あるとしたら、時短スピードクジで瞬殺する事だろう。大体、今は魔術の杖を持たない事が魔術師のモードなのに、時代遅れの馬鹿でかい杖を持っている眼鏡の女魔術師は何かね?ビジュアル的にも弱いよ彼等は。今の大衆は洗練されているから、もっとビジュアル的に強いモノを求めているのだよ。大衆だよ大衆。大衆のニーズに我々は応えるのだよ」
「それが間違っていても?」
ラビリーナが言った。
「もちろんだとも、そのニーズが間違っていてもカネになれば応えてあげなくてはならない。それが清濁を併せのむ大人の態度だよ」
ダンジョニアン男爵は笑った。
「第八パーティーは「黒鷹」。黒鷹と呼ばれるスロプ王国の騎士が率いるパーティーです。黒鷹は人間です。人気はメンバーのバランスが良いためか二番人気です。どうやら、黒鷹の目的はダンジョニアン男爵様の暗殺のようです。お得意さまのスロプ王国の賭博王スラーレル三世の遊び友達で側近のウカーレ伯爵からリークされた情報によりますと「黒鷹」は賭博王の目を覚ますために、家臣として身体を張って迷宮競技に参加してダンジョニアン男爵様の暗殺を狙っているようです。浪花節で泣ける話です。どうもスロプ王国のスラーレル三世は国庫の年間予算にも手を着けてダンジョニアン男爵様のトラップ・シティの迷宮競技へと金をつぎ込んでいるようです。道理でダンジョニアン様の預金口座の残高が増える一方というわけです。スロプ王国は豊かな国ではないのに酷い話です。実に悪い王様です。他のメンバーは、森人族の男性の魔術師、フラー・ソイラス。人間の女の治療術師、キュピン・パーキス。人間の男のスカウト、クア・フルト。人間の男の戦士のトトン・マーレ。人間の格闘家のシー・ジーウーです。以上の八パーティがダンジョニアン男爵の迷宮競技に参加します」
ラビリーナが言った。
「まあ、彼等、八つのパーティーには彼等なりの都合や参加する動機という理由があるのだろう。だが、そんなモノは、全て、この私が飲み込んで遊びの種とするのさ。この迷宮競技は最高の遊びだよ」
ダンジョニアン男爵はフルーツ・パフェを大口を開けて一気に飲み干した。
そしてゲップをした。
「フフフフフ…ハハハハハハハハハハハハハハハ!」
ダンジョニアン男爵は高笑いを始めた。
「それでは、このプロ・スポーツのルールを説明します」
司会のシキールの声がラッパ型のスピーカーから聞こえてきた。
「まず、この競技の試合場は五つの迷宮ゾーンに分かれており、各迷宮ゾーンは十五分間のインターバルを行うチェック・ポイントで連絡しています。この各、チェック・ポイントを通過するまでの制限時間があります。各迷宮ゾーンは突破するまでに3時間の制限時間を設けております。もし3時間以内にクリアーできないと自動的にゲーム・オーバーとなり死亡することになりますので注意して下さい。各、パーティーのリーダーにはフラクター製の腕時計を渡しますので常に時間の把握を行って下さい。
まず、ゲームの流れを罠の解除とモンスターとの戦闘、パーティ同士の遭遇の三つに分類して許可事項と禁止事項を説明していきます。
まず許可事項から説明していきます。
罠は、このダンジョン競技では無数に設置されています。チェックポイントを通過するためには幾つかの短いイベントと呼ばれる罠を解除する為のミニ・ゲームをクリアーする必要さえあります。罠は無数に在りますが。解除方法は情報交換で教える事は許可されます。
モンスターとの戦闘は。このダンジョン競技で、もっともエキサイティングなゲームの一つです。各迷宮ゾーンにはダンジョン競技運営委員会が設置したモンスター達が各パーティーの行く手を阻んで待っています。戦闘に際してモンスターからアイテムとダンジョン競技内でのみ通用する通貨ダンジョニアン銀行券を奪うことを許可します。通常のモンスターだけでなく、エリート・モンスターであるダンジョン・ストーカーズが各パーティーの行く手を遮る事も、ありますが、彼等もモンスターと同じ扱いで進んで構いません。ただしダンジョン・ストーカーズは罠を解除する鍵などを持っている事も在りますので各パーティーはダンジョン・ストーカーズの動向には十分注意して下さい。
パーティ同士の遭遇による戦闘は禁止します。情報交換はしても構いません。ウソの情報を与えることもルール上はOKです。
イベント・アイテムを奪うことは出来ません。
モンスターから奪うことは自由です。
各パーティーが装備する武器や防具、アイテムの持ち込みは、自由であります。
禁止事項を列挙します。
各パーティーの協力行為は情報交換の会話と通常のアイテムの交換のみを許可します。禁止事項は罠を解除するためのイベント・アイテムの貸与の禁止。他のパーティーへのトラップ解除の禁止。モンスターとの戦いに際し他パーティーへの支援攻撃の禁止。罠を解除するイベント・アイテムの貸与も当然のごとく禁止事項です。
ダンジョン内にある宝箱を管理するバニーガールへの攻撃も禁止となります…」
シキールの説明が終わった。
スカイ達は巨大なテレビの下にあるドアの中のパドック・ルームに放り込まれてシキールのルールの説明を聞いていた。
銅鑼の音と共にダンジョン競技は始まった。ラッパの形をしたスピーカーから放送が始まった。
「それではドアの施錠を解除しダンジョン競技を開始します」
女性の声がした。
ドアの方で施錠が解除される音がした。
「よっしゃ。行くぞ」
スカイは言った。
「何だ。スカイ。お前の話していた内容と大分違うではないか」
マグギャランが、ぼやいた。
「気にするなよ。とにかく、何か知らないが、この賭けゲームに優勝すれば優勝賞金が手に入る。絶対一位をとるぞ。いいな、お前達」
スカイはマグギャランとコロンを見ながら言った。
「やけに気張っているではないか」
マグギャランは言った。
ブルーリーフ男爵は、人が変わったのかもしれないな。スカイは思った。こんな大金の掛かった賭けゲームを、するようになると人が変わっても、おかしくはなかった。
「何となく嫌な予感がするんだよな。これは酷く嫌な予感だ」
マグギャランが首の後ろを、かきながら言った。
「コロンも行くぞ」
スカイは後ろを振り返った。
コロンは杖と魔術の本を持って、もじもじしていた
「おらよっと」
スカイは鍵の開いたドアを蹴飛ばした。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道