ダンジョニアン男爵の迷宮競技
マグギャランはコートの襟を立ててスカーフで口元を隠して、向けられているカメラに写さないでとリアクションをやっていた。コロンは顔を真っ赤にして、うつむいてフラフラしていた。
メルプルと目があった。メルプルは、慌てて目をそらした。
なんだよ。
スカイは思った。
司会のシキールがスカイの前で爪先立ちになってバレェを踊り出した。チークダンスに変わり、腰を振ると股間のカエルの口から舌が真っ直ぐに伸びた。
観客席からドッと笑い声が上がった。
「おい、バカにしているのかよ、この野郎」
スカイはシキールに言った。
だがシキールはスカイ達に腰を振ってカエルの舌を出していた。腰を振るごとに歓声がどっと上がった。
「はい、それでは第八パーティの「黒鷹」です。リーダーの黒鷹さん抱負をどうぞ」
シキールが言った。
「このようなダンジョン競技は良くない」
黒鷹は言った。
「みんな喜んでいますよ。大衆は我々ダンジョン競技運営委員会を自由意志で支持しているのです。当たり前ですよ、当たり前。これが今の当たり前なのですよ。そういうオヤジ臭い事言っていると女の子にモテませんよ」
シキールが言った。
「私はオヤジだ」
黒鷹は言った。
「それってオヤジギャグ?でもウケないからダメ」
シキールは腰を振りながら股間のカエルの顔から舌を出しながら言った。観衆が口笛を吹いたりホーンを鳴らしたりしている。スタジアムの椅子の上に立ってシキールに合わせて腰を振っている奴まで居る。
ダンジョニアン男爵の居城トラップ城には
白いテーブル・クロスで覆われた長いテーブルの端にダンジョニアン男爵が座っていた。そしてダンジョニアン男爵はアイスとソフトクリームとフルーツが沢山乗っかった青いガラスの器に盛りつけられたフルーツ・パフェを食べていた。
そして、その隣には美女のラビリーナがいた。
ダンジョニアン男爵の目の前にはフラクター製の十メートル四方の大画面のモニターがあり、出場者の紹介が行われていた。
「ダンジョニアン男爵様。今日も大入り満員御礼です。コモン中のギャンブラー達が財布の中身を空っぽにするために集まってきています。鴨がネギ背負って鍋の煮えくり返った湯の中に脚を入れているとも気が付かずにです。胴元の、あなた様の預金通帳の残高は増える一方という案配です」
ラビリーナがレポートを、めくっていた。
ラビリーナは、黒と紫色の裾を引きずるドレスを着ていた。黒い部分には赤い稲妻模様が走っていた。そして肘まである紫色の手袋をしていた。髪は複雑な形に結い上げられて色とりどりの珍しい宝石で飾られていた。
「ふむ、参加パーティーは、どうかね。私の迷宮芸術を満足させる顔ぶれと言えるかね」
ダンジョニアン男爵がアイスクリームを食べながら言った。
「それは、もう。あなた様の命を狙っているフラクター選帝国のモンスター達に、国庫金に手を出しているギャンブル狂いの国王を諫めるために、あなた様の命を狙っている家臣など、濃いドラマを背負っている面々を用意しております。どれも、最近稀に見る、ダンジョンゲームを盛り上げてくれる逸材揃いと私は自負しております。週に一回のダンジョンゲームですがコモン全域に設置した闇の場外券売場でケーブルテレビの中継を見せながらのトトカルチョを開催している人気競技です」
ラビリーナがダンジョニアン男爵の観戦室を見ながら言った。
「今回は、あなた様の実の娘も参加していますよダンジョニアン男爵の娘です。そして私が産みの親の実の娘です」
ラビリーナがダンジョニアン男爵に笑いながら言った。
「私の娘?私の実の娘か。フハハハハハハハハハ!面白い!実に面白い!盛り上がる!盛り上がるね!コレは一番濃いドラマかもしれんよラビリーナ君!」
ダンジョニアン男爵は笑い始めた。
「それでは第一パーティから説明します。
第一パーティーは、五人が十五歳の少女に一人が二十五歳です。戦闘能力は高いようには見えません。リーダーの人間の騎士ルル・ガーテンは最年少タイでコモン共通騎士国家試験に通った秀才のようです。それに加えて、人間で剣士の楚宇那。森人の血を引くクォーターの錬金術士のメルプル・シルフィード。人間で銃使いのウロン・ケサン。猫耳人で格闘家のニャコ。人間でスカウトのサファ・ナリックです。人気は三番人気です」
ラビリーナが言った。
「ふむ、戦闘能力は大したことは無いようでは在るな。だが、観客の人気は付きそうではないか券売所に顔写真を張っておく、システムのせいかな」
ダンジョニアン男爵が言った。
「もちろんですとも。馬鹿な痴情に駆られた男達が賭ける事は間違い在りません。彼女達はビジュアル的には強いですから」
ラビリーナは笑いながら言った。
「それでは、しばらくの間、生かしておいて、掛け率が上がってから殺した方が良いかな。どんな風に殺そうかね。腕の振るいがいが在るよ」
ダンジョニアン男爵はフルーツパフェの銀製のスプーンを取り出して、舌を出してぺろぺろ舐めながら言った。
「それはもう、あなた様の、ご自由になさって下さい。あなた様がダンジョン競技のルールそのものです」
ラビリーナは言った。
「司会のシキール君への直通の電話は何時でも掛けられる。全ては私の思うとおりにゲームが進んでいく。私がルールであり、このトラップシティの支配者であり、ダンジョンゲームの神だ」
ダンジョニアン男爵はフルーツパフェにデコレートされたウェハースを摘んでアイスの付いた端をぺろぺろと舐めていた。
「それでは第二パーティーの説明をします。リーダーの騎士で竜人族ガオーンが指揮するモンスターばかりのパーティーです。今回一番人気です。他のメンバーはスカウトで狼男のメレール・パレ。森人で精霊使いのシフー・レサ。岩巨人で戦士のオルル・モーア。翼人で精霊使いのスーロ・ウイングス。人間で忍者の羅刹。最後の忍者は人間ではないと思うので全員モンスターで男です」
ラビリーナが言った。
「一番人気か。彼等は、私が人身売買で買ったモンスターと人間を使って迷宮芸術を行っていることに抗議をしているフラクター選帝国からの回し者だね。私を殺そうとしているようだな。私は表彰式の時には三位までの入賞者に直に優勝賞金とメダルと、トロフィーを渡すからね。実に単純な連中だよ」
ダンジョニアン男爵は舐めたウェハースをソフトクリームに、ゆっくりと丁寧に差し込みながら言った。
「そうです。ただの冗談ゲームなのに。今日日、直ぐに傷ついて裁判を起こしたりする、被害者意識の強い、あの手の輩です。困ったものです」
ラビリーナが笑いながら言った。
「わたしの命を狙って来るんだ、それ相応の、おもてなしをしないと失礼だろうね。私は自分が痛い目に遭ったり、死ぬのは嫌だから、早めに殺そうかな。レベルの高そうな彼等には凶悪トラップのコンボで全滅させて、この世から、お引き取りを願うとしよう。場合によっては、ダンジョン・ストーカーズの彼等を使う」
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道