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ダンジョニアン男爵の迷宮競技

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 ジーウーが顔を赤らめながら言った。
「何、女の前で赤くなって居るんだよ。ダサェよ、お前」
 スカイは意地の悪い笑いを浮かべてジーウーの脚を蹴飛ばしながら言った。
「黙れ、お前。キュピンさんの前で失礼だろう」
 ジーウーはスカイの脳天に拳骨を落とした。
「イテェな。バカヤロウ」
スカイは言った。ジーウーの脚を蹴飛ばした。
 「俺の全身は凶器で武器で芸術品なんだよ。お前如きが蹴っぽって良い訳はないだろ。そんな事も判らないのか」
ジーウーはスカイの脳天に更に拳骨を落とした。
 「イテェな」
 スカイはジーウーの脇腹を肘で小突き返した。
「第三パーティーは「戦斧隊」です。このダンジョン競技の常連さんです。何時も全滅していますが。今日はどんな抱負で参加しますか?やっぱり、いつもと同じですか?リーダーのテホーさんどうぞ」
シキールが頭のてっぺんを残して刈り込んで、残った部分を後ろに纏めて垂らしている腰布一枚の人間の男に聞いた。ボディビルダーの様な筋肉をしている。並のボディビルダーではない。筋肉が膨れ上がって丸くなっているのだ。いや、後ろにいる、巨人族、小人族、鬼族、牛頭人族、岩巨人族も全員白い腰布一枚で、丸くビルド・アップされた入れ墨だらけの異常な筋肉を持っている。そして手には全員が、それぞれの体格に合わせた巨大な戦斧を持っている。
「我々は、暗黒王国によってもたらされた偽りの平和と戦い続ける!混沌の大地の亜人類達は現在も暗黒王国によって抑圧を受けている!」
 人間の男が筋肉を波うたせて戦斧を振り上げて言った。
「はい、重い話は、そこまで。ササッと置いておいて次のパーティーに行きましょう。第四パーティーは「ワイズメン」です。戦斧隊とは対照的に魔術師だけのパーティーです。抱負をどうぞ。リーダーのゴトル・メドラ教授さん」
 シキールは中年の小太りの女にマイクを向けた。
「私は、魔術都市エターナルの教授ゴトル・メドラ。魔術は万能です。あらゆる問題を解決します。今回、この馬鹿らしい迷宮競技に参加する理由は、ただ一つ。この迷宮競技のダンジョンを魔術の力で、ねじ伏せる事です。私達は一位通過する事を約束しましょう」
 眼鏡を掛けた中年の女性ゴトル・メドラが自信に満ちた口調で言った。
 おおっ、という、どよめきが上がった。
「そう言って何組ものパーティが全滅していきました。これがダンジョン競技の厳しい現実です。次は、第五パーティー「悪人同盟」です。皆さん。言わなくても判りますよね。でも言っちゃおうか。でも言わない。じゃあ早口で言おうか。レルキ・ヨツにゴブ・ハベ、ギカセ・セン、サシシ・ラーキ、バーリー・ゾーダー、キキロ・ハーゾ。みーんな死刑囚です。ですが、このダンジョン・ゲームでゴールに到達できると彼等には自由が与えられます」
観客席からブーイングが起きていた。
スカイは「悪人同盟」のメンバーを見て驚いた。全員、この半年の間に新聞の三面記事とタブロイド紙の一面を騒がせたメンツだ。テレビでもやっていた。
 レリキ・ヨツは若い女性ばかり襲う連続猟奇殺人鬼だった。手口は何時も同じで、刃の付いた殺人ピアノ線でバラバラ切り刻むのだ。ゴブ・ハベは毒殺魔で毒を混ぜたパンを売る殺人パン屋でパンに毒を混ぜるだけでは飽きたらず、猛毒のバタリで、通り魔殺人をやっている所を捕まった。ギカセ・センはヒマージ王国の偽造貨幣を大量に作って偽金フィーバーでインフレが起きてヒマージ通貨のグーの貨幣価値を下げた。唯一の女、サシシ・ラーキは殺人宗教「殺しの秘文字」教の邪神官だ。何故か顔には黒い覆面が付けられている。だが怪しい磁力のようなオーラを感じた。バーリ・ゾーダーはヒマージ王国の一部を支配した山賊グループ「闇の腕」のリーダーだ。キキロ・ハーゾはヒマージのギャング団シャブメロ一家で麻薬製造を行っていた。奴等は全員、両手首と両足に枷と鎖が付いて繋がれている。
 こんな奴等を遊びの迷路ゲームに参加させるんじゃねぇよ。
 スカイは思った。
 だが、コロンやメルプルみたいな町娘が、こんな奴等と一緒にダンジョンゲームに参加して大丈夫なのだろうか?
大体、最後まで完走できて、こんな重犯罪者の死刑囚達が自由になれるゲームとは一体何なんだ?
 スカイは段々と不安に見舞われてきた。
 どうも不味い所に居るようなことに気が付いてきた。
「はい、ドンドン、サクサクと進めましょう。次は第六パーティ「借金隊」です。彼等はダンジョニアン金融から借金をして返せなくなった。哀れな元ギャンブラー達です。観客の皆さん達のような勝ち組とは違う負け組です。運にもツキにも法律にも見放された彼等はダンジョン競技を、くぐり抜けて借金の帳消しが出来るのでしょうか?はい、抱負をどうぞ。リーダーのクブ・ザーハさん」
シキールがマイクを先頭の男に向けて言った。
 「タ、ス、ケ、テ!迷宮競技に出たら殺される。殺されてしまう!タ、ス、ケ、テ!」
先頭の男が叫んだ。
 この借金隊も手と足に手枷と足枷が付いている。
 観客達はゲラゲラと笑いだした。
スカイは自分とマグギャランの明日の姿のように思えてならなかった。多額の借金を負っていたからだ。
「あなた達には、強い力をダンジョニアン男爵様が与えています。その力で迷宮のトラップを乗りきって下さい。今日は一位通過できるかもしれませんよ」
 シキールが言った。
 ブーイングが起こり始めた。
「はい、第7パーティーの「ザ・ワイドハート」です。人気は最下位です。当然でしょう五人から六人向けの、この迷宮競技にたった三人でエントリーしたのですから。ハッキリ言いましょうバカです。そして彼等が進むルートは…」
 司会のシキールが笑いながら伸ばして言い。右手の小指と薬指を伸ばして手を挙げた。
 「アンラッキー・セブン!」
 観客席から一斉に返事が上がった。
 そしてアンラッキー・セブンと連呼が開始された。
 アンラッキー・セブンとは、いったい何だよ。普通はラッキー・セブンだろう。スカイは思った。
だか、観客達はスカイ達をバカにした顔でシキールの手の真似をして叫び続けていた。
 「そうだ。あなた達はアンラッキー・セブンに居るのです。判っていますか?自分達の置かれている差し迫った状況を?あなた達は明日の太陽を見ることは叶わないでしょう」
 シキールが先頭に居るスカイにマイクを向けた。
「うるせぇよ。何だよ、そのアンラッキー・セブンってのは」
 スカイはシキールに言った。
 観客席から笑いが吹き出した。
 「どうやら彼等は事情を知らないようだ。これは不味い、不味すぎるぞ「ザ・ワイドハート」。さあ何分持つかな?さあ、抱負をどうぞ。リーダーのスカイ・ザ・ワイドハートさん」
司会のシキールがマイクをスカイに向けた。
「ぶっちぎりで一位通過」
 スカイは人差し指を突きだして宣言した。
そうだ当然だ。有り金を全部、自分達の一位通過に賭けているのだ。だが、それでも借金の全額返済には程遠いが。
 だが、観客達は笑い出した。