ダンジョニアン男爵の迷宮競技
クマ人形を持ったまま、女の子が空中に浮かび上がった。
その時、携帯電話の呼び出し音が鳴った。
スカイの携帯電話ではなかった。
「はい、クマちゃん」
女の子がスカートのポケットから水色の携帯電話を取りだした。ストラップにはクマ人形の顔が付いている。
「ちょっと君達待ってて」
クマ人形が携帯電話を取って耳に当てた。クマ人形を持った女の子が空中から降りた。
「これは、ハイローゲーム様ですか。え、レビューが終わったのですか?で、ダンジョニアン計画は第二段階に入る?判りました」
クマ人形は携帯電話で話しをしていた。そして、携帯電話を閉じた。そして携帯電話を持ったまま、女の子の手から飛び降りた。
「どうしたのクマちゃん」
女の子は言った。
「マルプル、君は、これから、ぼくの手助け無しで一人で生きて、いかなければならない」
クマ人形は女の子に背中を向けて言った。
「え、クマちゃん、どっか行かないで」
女の子は言った。
「ごめんよ」
クマ人形は携帯電話を持ったまま走り出した。そして機械の後ろに在る三、四十?ぐらいの高さの小さい扉を開けて中に入っていった。
「クマちゃん戻って!」
女の子は叫んだ。
「うぇん…クマちゃんが、いなくなった…。うええん…」
女の子はしゃがんで泣き始めた。
「おい、お前、何で子供なのに、こんな所にいるんだよ。ここら辺は、バケモノ共がウロウロしているんだぞ」
スカイは女の子に言った。
「わたしの名前はマルプル・ダンジョニアンよ。「お前」なんて名前じゃないわ。あなた達も、わたしのパパとママを殺しに来たんでしょ」
女の子は言った。
「は?お前は、もしかしてメルプルの妹か?」
スカイは言った。
よく見ると、耳は尖っているし、何となく顔立ちが似ている様に思った。
「メルプルは、わたしの、お姉さんの名前よ。フラクター選帝国で立派なダンジョン・マスターになるための勉強をしているの」
マルプルは言った。
「俺達はメルプルに頼まれてダンジョニアンを、やっつけに来たんだよ」
「うぇん。サンダツだ…メルプル、お姉ちゃんが、うぇん…パパからサンダツしようとしてる…うえええん」
マルプルが泣きながら言った。
「俺も知らないような難しい言葉遣うんじゃねぇよ」
スカイは言った。
「うえん?サンダツも知らないの?」
マルプルは言った。
そして怪訝そうな顔でスカイとコロンを見た。
「知らねぇよ」
スカイは言った。
「クマちゃんが教えてくれたのよ。謀反も知らないの」
マルプルは言った。
「それは知っているよ。下克上の事だろう」
スカイは言った。
「うん、そうだよ」
マルプルは言った。
「何だよ、なんで、あんなクマ人形のバケモノと一緒に居たんだよ」
「クマちゃんの悪口を言わないで。クマちゃんはマルプルのパパとママの命を狙う悪い奴等を、やっつけてくれるのよ」
マルプルは言った。
「ところで、ダンジョニアンは何処に居るんだ」
スカイは言った。
「知ってどうするの」
マルプルは言った。
「ダンジョニアンを、ぶっ潰す」
スカイは言った。
「うえん……嫌だ、パパが殺される……」
マルプルが言った。
「俺は人殺しはしねぇんだ。ぶん殴って改心させるだけさ」
スカイは言った。
「信用できない」
マルプルが言った。
「何だよ、何、疑って居るんだよ」
スカイは言った。
「だって、パパは身体が丈夫じゃ無いから殴られたら、殴り殺されてしまうもん」
マルプルが言った。
「まあ、お前も、自分の家かもしれないが、この部屋に居ろ。鍵でもかけていたら安全だろ」
スカイは言った。そしてコロンを手で呼んだ。コロンは、やって来た。
「信用できない」
マルプルは言った。そしてスカイ達の後を付いてきた。
「君達のせいだ。君達のせいで、わたしは首を吊らなければならない。森人と人間の間に生まれ落ちたが故に日陰者として生きてきて最後は自殺」
ラビリーナがスカイとコロンの前で腕を振り回しながら言った。
「だまれ!ふざけんなよ!バケモノの仲間め!」
スカイは言った。
「わたしがバケモノの仲間ですって、ああっ、そんなことを言われるまでに、私は悲しい人生を送ってきた。しくしくしくしく」
ラビリーナは階段の手すりに寄りかかって芝居がかった口調と動きで泣き崩れながら言った。
「テメェ、何、嘘臭い芝居やっているんだよ」
スカイは言った。
「本当は、そんな日陰者とか本人は思っていないんですが。この身体を乗っ取るという能力は記憶も奪えるから本心が判って、逆に、つまらないという事も、よくある話なのです」
ラビリーナは笑いを浮かべて起きあがりながら男のような口調で言い始めた。
「どういうことだ」
「まだ、判らないのですか。君は頭が鈍いですね。この身体は、今、この、わたしが奪って操っているんです。このラビリーナの力を使って、ちょっと遊んでみましょう。ラビリーナは森人魔術を使う事が出来るのですからね」
ラビリーナの身体の回りに植物のツタが回り始めて、階段に向かって伸びていった。そして、巨大な莢に入った豆のような物が生え始めた。
「これは、バカ豆と言う巨大な豆です。奇形で大きくなっているので、一世代しか残りません。森人達は戦争を行う時に、投石機の様に使います。こんな風に」
ラビリーナが言うと、豆が弾けてスカイ目がけて飛んできた。
「アブネェ!」
スカイ横に跳んで巨大な豆を避けた。
スカイが居た場所に巨大な豆が落ちた。
コロンも横にジャンプして豆を避けた。
「うーん、残念。外れましたか。このラビリーナの身体の性能の中には視力が少し弱いという弱点が在るのですからね」
ラビリーナが言った。
そして、ラビリーナはドレスのポケットから眼鏡を取りだして掛けた。
「なぜ、マルプルが居るのにクマちゃんが居ないのですか」
ラビリーナは言った。
「ママ、クマちゃんはねハイローゲーム様から電話を受けたの、そうしたら突然、マルプルを置いて居なくなっちゃった」
マルプルは言った。
ラビリーナは紫色に銀細工が施された携帯電話を取りだした。そしてボタンを操作していた。
「ステディ・ベア君ですか?ラビリーナです。どうしたんですか?え?ダンジョニアン計画は第二段階に入ると。そして、処分命令が出たのですか?判りました」
ラビリーナは携帯電話を手の平に載せた。そうすると携帯電話が燃え上がって、見る見るうちに溶けて燃え尽きて消えていった。
「良いことを、教えましょう。ダンジョニアン男爵の弱点は、この階段を昇った左側の遊具室に在る二十面体のサイコロです。この赤いガラス製の二十面体のサイコロを破壊すると面白い事が起きます。ですが、君達にダンジョニアン男爵を倒せますか?」
ラビリーナは言った。
「何だと!何で、そんなこと教えるんだよ!テメェ!罠にハメようとしているだろ!」
スカイはラビリーナに叫んだ。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道