ダンジョニアン男爵の迷宮競技
ニコニコ笑いながらルルはドラゴンに近づいていった。
いや、餌付けではなく餌にされて食べられてしまうに違いない。
「ヘロー!」
いや、それ以前に、ドラゴンは人間を殺すことを何とも思っていないのだ。
昔から恐れられている怪物の中の怪物だった。
ドラゴンから発する恐怖の圧力の前にメルプルは動けなかった。重いプレッシャーの様なモノをヒシヒシと感じていた。
だが、ルルは平然とドラゴンに近づいていった。
「ヘロー!」
ルルはドラゴンに話しかけていた。
スカイ達にコロンは呪文書を見せた。
「何考えて居るんだよ、コロン」
スカイは言った。
「俺達に、魔術の数式を見せても判らないぞ」
マグギャランは首を傾げて言った。
「…お城まで跳ぶ」
コロンは顔を赤くしてボソリと言った。
「どうしたのだ、ダンジョニアン城までは大体、百メートル以上も在るんだぞ。どうやって飛ぶのだ」
マグギャランは言った。
「…これ」
コロンは呪文書の数式を指してボソリと言った。
「魔術か?」
スカイは言った。
コロンは頷いた。そして、外を指さした。
「何、外に出るのか」
マグギャランは言った。
コロンは頷いた。
スカイとマグギャランはコロンに背中を押されて外に出た。
ダンジョニアン城の中庭の中でトランプ模様のマントを付けた怪物達は、そこら中で死んでいた。
「ひでえな。誰が、やったんだよ」
スカイは言った。
「さあな。取りあえず。危険が減ったことは減ったのだ」
マグギャランが言った。
コロンがマグギャランの背中を杖で、ひっぱたいた。
「うおっ?何するのだ!足から炎が吹き出して居るぞ!うぉおおおおおおお!」
マグギャランの足の裏から炎が吹き出した。そして、ダンジョニアン城目がけて飛び始めた。
「何だよ!あんな魔術見たことねぇ!」
スカイは炎を足から吹き出して空を飛んでいくマグギャランを見ながら叫んだ。
そして、スカイの背中に何かがぶつかった。
後を見るとコロンが杖でスカイの背中をひっぱたいたようだった。
と言うことは?
「俺もかよ!」
スカイは、ブーツを履いた自分の足の裏から炎が吹き出していくのを見た。そして身体が浮かび始めた。最初は、ゆっくりだったがドンドンと加速していった。
獄門惨厳塔の横を凄い勢いで通過していった。
だが…ダンジョニアン城に、ぶつかりそうになりながらギリギリの所を通って、ダンジョニアン城の屋上に到達した。
途端に、足から吹き出している炎が弱くなった。そして屋上の上で先に到達しているマグギャランの横に降りた。
マグギャランは頭を押さえていた。
「どうした」
スカイは言った。
「何か、目眩がした。いきなり空を飛んだんだぞ。心の準備が出来ていなかった」
マグギャランは言った。
コロンも最後に足から炎を出して飛んできた。
「獄門惨厳塔を越えて、ダンジョニアン城に来てしまったな」
マグギャランは言った。
「ああ、そうだよ」
スカイは言った。
「それでは、どうするのだスカイ。やはりダンジョニアンを、やつけるのか?」
「まあ、当然だよな」
スカイは頷きながら言った。
コロンも頷いていた。
「ダンジョニアン城の中に入るか?」
マグギャランは屋上に出るための階段を指さした。
メルプルは、一人で、ダンジョニアン城へと続くであろう階段を駆けて昇っていた。
みんなが居なくなったとき、たった一人であることに気が付いた。
サファお姉さん、ウロン、ニャコ、楚宇那、ルル…死なないで。
「何だよ、この部屋は」
スカイ達が扉を開けた広い部屋の中は、青と黄色とピンクで悪趣味な滅茶苦茶な模様で塗り分けられていた。
その中に白いテーブルクロスに包まれた巨大な細長いテーブルが在った。
そして、そのテーブルの向こう側に、ダイヤモンドや宝石で飾られた背もたれの高い椅子が在った。
「何だよ、ダンジョニアンの奴等、こんなにカネが在るのかよ」
スカイはパフェなのか、よく判らない溶け掛かったアイスが盛りつけられた器を見ながら言った。
「この部屋は、どういう部屋なのだ。さっきのホルマリン漬けの怪物や檻に入った怪物達が居た部屋とは、明らかに違う」
マグギャランは言った。
「確か、部屋の前に「ダンジョン競技の神の部屋」とか書いてあったな。前の部屋は「改造実験室」とか書いてあった」
スカイはテーブルの上に乗っかっている、
ダイヤル式のルーレットを見た。
これは……
「何だ、スカイ。これは第二迷宮ゾーンのルーレットと同じ物が書かれているじゃないか」
マグギャランが横からスカイが持っているルーレットを見ながら言った。
スカイはダイヤルを操作してみた。カチカチと音を立ててダイヤルが動いた。
「スカイ、コロン見て見ろ、こっちは、第三迷宮ゾーンの闘技場へ続く道が自在に変化するダンジョンの模型だ」
マグギャランが言った。
「ダンジョニアンの奴は、ここで、ダンジョンゲームを操作していたのか」
スカイは言った。
「あっちの方には、ダンジョン全体の模型がある」
マグギャランが言った。
「こっちの方には、何か、変な物があるな?、金属製の檻だ。エレベーターなのか?」
スカイは、部屋の奥にあるカーテンの影に隠れた鉄の檻の様な扉を見つけた。エレベーターらしく扉の上には階数表示が付いていた。そして、その上には「スタジアム直行」と書かれていた。
「ふむ、スカイ。俺は、この部屋に残るぞ。お前と、コロンでダンジョニアンを、やつけて来るのだ」
マグギャランは言った。
「何だよ、ここまで来たんだ、付き合えよ」
スカイは言った。
「俺は、さっきも言ったが、獄門惨厳塔の前で五十三匹の怪物達と戦って、十分に働いたのだ。後は、あの金髪美女とデートをするだけで良いのだ」
マグギャランは言った。
「仕方ねぇな。それじゃコロン行くぞ」
スカイは宝箱を持ち直して言った。
「おい、スカイ。宝箱を貸せ、預かっておく」
マグギャランは言った。
「確かに、ダンジョニアン達を、やつけるには、宝箱は邪魔か。持ち逃げするんじゃねぇぞ」
スカイは、マグギャランに宝箱を渡した。
「まあ、頑張ってくるのだスカイ」
マグギャランは宝箱の上に座って言った。
「おうよ」
スカイはコロンと一緒に、「ダンジョン競技の神の部屋」を出ていった。
マグギャランは宝箱の上に腰を下ろしていた。
エレベーターが動き出した、そして回数を示す矢印は上へと上がってきた。
「ズンチャ♪ブンチャ♪ズズゥーン♪ズチャズチャ♪」
おかしなリズムの鼻歌が聞こえてきた。
エレベーターの鉄格子の向こうにピンク色のモーニングにハート模様のタイツを履いた男が現れた。
シキールだ。
マグギャランは立ち上がった。
「待っていた」
マグギャランは鉄格子の扉が開いたエレベーターを見ながら言った。
「いやあ、僕の名前を知っているかい?」
シキールが葉巻を銜えた。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道