ダンジョニアン男爵の迷宮競技
コロンが杖の先端に作った火球がシャワーの様に上から広がった。そして消えていった。
スカイの横に居たマグギャランが消えていった。
「消えたぞ。マグギャラン居るか?」
スカイは見えなくなったマグギャランに言った。
「うむ、スカイ。消えたが近くに居るようだな」
マグギャランが答えた。
怪物達が、キョロキョロと辺りを見回し始めた。
「どうやら効果は抜群だ」
マグギャランが言った。
「取りあえず、怪物達の間を通って、あっちの城門の方に歩いて行くぞ」
スカイは言った。
「スカイ。城門の方ではだめだ。この獄門惨厳塔の丸い塔の回りを回って後に逃げ込むのだ」
マグギャランは言った。
そのとき、スカイは、マグギャランの剣の先が中程から出ていることに気が付いた。
「おい、マグギャラン、剣がインビジブルコートの範囲から出て居るぞ」
スカイは言った。
「何、どうやら、この呪文は有効範囲が、かなり狭いみたいだな」
マグギャランは言った。
剣の先端が消えた。
「それじゃ、コロンが俺達の背中を押して、獄門惨厳塔の裏手の方へ回り込んで逃げるのでどうだ」
スカイは言った。
「たしかに、現状では、他に方法が在るまい。良いか、コロン?」
マグギャランは言った。
「…判った」
コロンはボソリと言った。
そしてスカイ達は右往左往している怪物達と、ぶつからないように気を付けて獄門惨厳塔の裏側の方へ歩いていった。
裏側には馬小屋が在った、そして、幾つもの馬車が並んでいた。
スカイ達は、馬小屋や、馬車が並んでいる場所に入って隠れた。
コロンは、しゃがみ込んで呪文書を開いて万年筆で何かを書いていた。
「酷いことしやがる。元は人間なんだろう」
スカイは言った。
「そうだが。今は、ただの化け物だ。だが、どうも変な化け物だな。必ずしも、見た目通りの力を持っている訳ではないようだ。触角が付いていても、俺達を探し当てることが出来なかった」
マグギャランは言った。
「そうだな。変な感じだな。だが、どうするんだよ。俺達はダンジョニアン城の敷地の中の壁に囲まれていて出ることも出来ないし、獄門惨厳塔の中に入ることも出来ない」
スカイは言った。
「獄門惨厳塔に入ってどうするのだスカイ」 マグギャランは言った。
「決まっているだろ。ダンジョニアンを、やつける」
スカイは言った。
「俺達は、十分働いたではないか。怪物五十三匹を、たった三人で相手にしたのだ。仕事はコンプリートだ。後は、あの金髪美女とデートをするだけだ」
マグギャランは言った。
「だが、俺はメルプルに約束しちまったんだよ、ダンジョニアンをやつけるって」
スカイは言った。
「お前も変な、ところに律儀な奴だな」
マグギャランは言った。
「ふむ、第十四師とはいえ。女を切ることは嫌なんだな。恩義も在るし。でも仕事でも在るんだよな。悪いな、ここは通せないよ。あんた等通らないでくれ。お引き取りを願う」
ラッキョウ頭の剣士が腕を組んで真面目な顔で言った。
「ここを通さないなら戦うしかない。あなた達は先に行って。この男は、あなた達の手には余る相手よ」
サファお姉さんが。剣を抜いて。金属製のトランプを数枚取りだした。
「でも、サファお姉さん一人で大丈夫なの?」
ルルが言った。
「私は先に行きなさいと言ったのよ。もう戦いはタビヲン王国の一騎打ちの習いによって開始されたのよ。早く先に行きなさい。ラメゲ・ボルコ。一騎打ちを申し出るわ」
サファお姉さんは言った。
「まあ、女とはいえ、一騎打ちを所望されては一人以外とは戦えないよな。俺はタビヲンの男だ。他の嬢さん達は通りたければ通ってくれ。そうか、その手があったか。ずるい手だな。オヤジが、女は口が上手いから気を付けろと言っていたが本当だな」
ラッキョウ頭の剣士は腕を組んだまま頭を上げて溜息を付いて言った。
「それじゃ十本剣の一の剣から始めるか」
ラッキョウ頭の剣士が背中から先端にトンカチの付いた奇妙な形の剣を抜いた。
「父親と同じ武器を使うんだな」
「ウチは剣しか出来ないからね。だから万年男爵の家系なのさ。生まれつき超人のタギャクイ伯爵とか、魔術と剣の天才の血を持つクトイハ伯爵とは違う。でも今は六と、七と、八の剣は折れて居るんだよな。飛ばして先へ進むのも嫌なんだが。あんたなら九か十の剣ぐらいまで行くかな。だが、それは不味いんだよな」
サファお姉さんはラッキョウ頭の剣士と間合いを詰めていた。
メルプルはルル達と共に走って闘技場の反対側にある階段に辿り着いた。
「一の剣を抜こう。トンカチ頭蓋殴殺四肢切断流剣術と、この流派で使われるハンマーソードだ…」
ラッキョウ頭の剣士の声が聞こえてきた。
サファお姉さん死なないで。
祈るようにメルプルは思った。
「何だ、この怪物達は」
黒鷹は言った。
五十人ぐらい居るトランプ模様のマントを被った怪物達がダンジョニアン城の中庭には居た。
「これは、見たことのないモンスターです」
森人の魔術師フラーが言った。
「君達も来てくれたのかい。盛り上げに来てくれたんだね。さあ、か弱い女の子達が君達の助けを待っている。男なら燃えるシチュエーションだよ!さあ頑張れ!まずは、この五十三匹の怪物達を倒して進むんだ」
中庭の巨大なテレビでは子供に抱かれたクマ人形が踊りながら言った。
メルプルはルル達と先を急いで走っていった。
階段を昇った先にはロボットが居た。3・二五メートルぐらい在りそうだった。
「私はメマシー博士の弟子のイッチー・ワーデルだ。最強メカ・ボトルシェイカーの二代目パイロットとして魔術都市エターナルの魔術科学力を見せてやる!」
ロボットが喋った。
「ふん、フラクターの科学力をバカにしては駄目よ。こんなロボットは私がフラクターの威信で壊す」
ウロンが眼鏡を直しながら前に出てきてレーザー・ブラスター取りだした。
そして腰のガンベルトに吊されているフラクター製の高性能爆弾を取りだした。
「食らいなさい!」
ウロンは左手でロボット目がけて爆弾を投げつけた。
大爆発が起きた。
メルプルの髪が根っこから引っ張られるように物凄い爆風と轟音が辺りに走った。
「うぎゃあああ!」
ロボットの左腕が吹き飛んだ。
「さあ、先に行きなさい。私が、ここを食い止めるから。直ぐに追いつくから気にしないで。弱点は、もう分かったわ。あの馬鹿でかいエネルギーコードが弱点よ」
ウロンが言いながらレーザー・ブラスターの出力を調節した。
そしてレーザー・ブラスターでエネルギーコードを焼き切った。
「ふふふ、エネルギーコードが切れたぐらいで動かなくなると思うのか?甘いぞ!甘い!魔術都市エターナルの元助手の実力!学力!魔術力!科学力を見せてやる!超難関クローシュート!」
ロボットから巨大なハサミがウロン目がけて飛んできた。
ウロンは避けた。床の石畳を巨大なハサミが砕いた。
高速で巻き上げられていった。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道