ダンジョニアン男爵の迷宮競技
巨大スクリーンのモニターにはダンジョニアン男爵が巨大なアイスを食べていた。そして隣には、プラチナ色の髪をした、黒と紫のドレスを着た美しい女が居た。
何?まだ生きているのか。
「そして、シキールも実は怪物なんだ」
若い女性の声が言うとシキールはダンジョン競技のスタジアムの壇上で身をくねらせ始めた。
「うううっ」
シキールがマイクに向かって、うめき声を上げた。
スポットライトがシキールに当った。
そしてシキールが巨大なスクリーンに大写しとなった。
「み、見ないで、そんなに見つめられると、僕、僕、駄目になっちゃう。ああん」
そしてシキールの首はゆっくりと伸び始めた。だがそれは首では無かったムカデの胴体が伸びていったのだ。
その光景は巨大スクリーンのモニターに映し出されていた。
スタジアムから悲鳴が、上がり始めた。
「バケモノだ!」
叫び声が上がった。突然、スタジアムの上空に火の玉が幾つも上がり観客席に降ってきた。そして爆発が起きた。
叫び声と悲鳴が上がった。観客達は皆、逃げ出した。スタジアムの出口を目指して駆けだしたのだ。
巨大なテレビにシキールが映し出された。
シキールはスイッチを握っている。
そしてスイッチを押した。
そして急にスタジアムの観客席が斜めになって前倒しになった。
怒号と悲鳴と共に観客達が将棋倒しとなって雪崩をうって倒れてきた。
シー老師は軽身功で雪崩をうって前に倒れてくる観客達の肩に飛び乗った。
「助けてエエエエエエ」
ギャンブラーYは悲鳴を上げながら前に転がって行った。
「僕の、こんな恥ずかしい姿を見ないで!見たからこうなっちゃうんだ!えへへへへへへへ!」
シキールは笑いながらダンジョンの入り口の扉へと駆けていった。そして中に入った。
「ふ、何やら始まった様子。このままではまずい……スズメ、ツバメ。換金しに行くよ」
「了解ッス」
「ラジャーです」
隣のフラクターの娘達がシー老師と同じように観客達の肩を伝ってスタジアムの出口目指して駆けだした。
そしてシー老師もスタジアムの入り口へ向かって、転がっていく観客達を伝って走っていった。
「アイツは……まさか。こんな所で出会えるとは」
マグギャランは城の中庭の表彰台の横に据え付けられた十メートル四方のテレビを見ていた。壇上で身をくねらせて首が伸びているシキールが映し出されていた。
「どうしたんだよ」
スカイはマグギャランに言った。
「オレは、この日を待っていた」
マグギャランは呆然とした顔で何時までも首が伸びたままのシキールを見ていた。
「これは、どういうことだい、ステディ・ベア君。私のシナリオが上手く進まないじゃないか」
ダンジョニアン男爵はダイヤモンド・ケータイでステディ・ベアに言った。
「ゲームを楽しくしようと思って居るんだよ。これから凶陣拷羅五条殺を開始するからダンジョン・ストーカー達を殺に入れる命令を出してくれないかな」
ステディ・ベアは言った。
「君の酔狂なゲームは私の迷宮芸術の美学には反するのだよ。仕方がない。最終的にメルプル・ブルーリーフがダンジョニアン男爵になれば問題は無いだろう」
ダンジョニアン男爵はダイヤモンド携帯を、折りたたみながら言った。
「凶陣拷羅五条殺を開始するのですか?」
ラビリーナが言った。
「実に下らないシチュエーションの再現をステディ・ベア君は、やりたいだけなんだよ」
ダンジョニアン男爵は言った。
「それでは、ステディ・ベア君が作った凶陣拷羅五条殺計画のシナリオ通りに、私は階段で通せんぼをしなくてはなりませんね」
ラビリーナは言った。
「私は、あの部屋へ行くとするか」
ダンジョニアン男爵は言った。
そして画面が切り替わった。
メルプルの妹のマルプルに抱かれたステディ・ベアが映し出された。
そしてステディ・ベアは若い女の声で喋っていた。
「メルプル。君のお父さんは実は生きて居るんだ。そこで死んで居るのはニセモノだよ」
死んでいたダンジョニアン男爵は顔が別人に変わっていった。
「まさか。そんな」
メルプルは顔が別人に変わったダンジョニアン男爵を見ていた。
ダンジョニアン城の中庭の表彰台の横に据え付けられた十メートル四方のテレビにはステディ・ベアが映っていた。
メルプルは楚宇那に支えられたまま、見た。
「君が、お父さんを助けたければ、凶陣拷羅五条殺を突破して、ダンジョニアン城に昇らなくてはならない。だが、その為には凶陣拷羅五条殺に用意された五人のダンジョンストーカー達の守る五つの殺と呼ばれる闘技場に誰かを一人ずつ残して突破しなくてはならないんだよ。だから君一人にできるかな」
ステディ・ベアはマルプルの腕から飛び降りで短い腕を後ろに回して背中を向けながら、もったい付けた口調で言った。
「大丈夫!私が付いている!」
ルルが胸をドンドンと叩いて言った。
「そうよ、私もメルプルを手伝う」
楚宇那が言った。
「ムニィ。ニャコに任せるムニィ」
ニャコは言った。
「私も手伝って、あげてもいいわよ」
ウロンが眼鏡を上げて言った。
「私は、この子達の引率者だ、当然手伝う」
サファお姉さんが言った。
みんなありがとう。
メルプルは涙を流した。
「ほほう、良い友達だねメルプル。君の為に命を懸けてくれるなんて。なかなか、そういう友達はいないよ。でもダンジョニアン城に簡単には入れないんだ。凶陣拷羅五条殺の獄門惨厳塔がコレから姿を現すからね」
ステディ・ベアが言った。
突如轟音が轟き始めた。
ダンジョニアン城の中庭から見える本丸が上に昇り始めた。
目の前でダンジョニアン城がドンドンと上に昇り始めたのだ。
そして巨大な塔が、そびえ立った。
これが獄門惨厳塔なの。
あ、巨大な鉄の扉の上に「獄門惨厳塔」って書いてある。
「すごーい。格好いい家に住んでいるねメルプル。ウチの家も、こうだったらいいのに」
ルルが獄門惨厳塔を指を、さしながら言った。
「こんな、お城なんか私の元の家じゃ無いわよ。ただの古いだけの館だったんだから。知らない内に、お城に建て替えられていたのよ」
メルプルは涙を拭いながら言った。
「鉄の門は自動的に開いた。私達を誘い入れているようね」
ウロンが眼鏡を直しながら言った。
「しょうがねぇな、泣くなよメルプル。俺がダンジョニアン達を、やつけてやるよ」
スカイは言った。そして続けた。
「それじゃメルプル、カネを出せ」
スカイは宝箱を置いて言った。
そして手を出した。
「え、お金?」
メルプルは驚いた顔をした。
「そうだ。俺とマグギャラン、コロンの三人は冒険屋だ。仕事にはカネがかかるんだ」
スカイはマグギャランとコロンを見ながら言った。マグギャランは首筋を掻いて余所を向いていた、コロンは頷いていた。
「今、持ち合わせは、これだけしかないのよ」
メルプルは緑の財布を取りだした。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道