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ダンジョニアン男爵の迷宮競技

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「わたしの声が指示する方向に進んで下さい。うっかりするとインビジブル・コートの範囲から出ます。気を付けて」
森人の魔術師のフラーが言った。
トランプ模様のマントの衛兵達は右往左往している。
「それでは前に進みます、そして正面の門を抜けます」
フラーは言った。



「盛り上がるねェ。ドラマだねェ。こうじゃなければドラマじゃないよ。私は本質的にはセンシティブなクリエーターだからね。琴線に触れる展開でないとね。ダンジョニアン男爵と呼ばれたブルーリーフ男爵は、今死んだのだよ。これは意外な展開だよ、スタジアムの観衆とコモン中の場外券売場のケーブルテレビを見ている観衆も呆気に、とられている筈だ。これこそ哲学に於ける精神的に優位に立つ自殺と言うものだよ。でも私は生きているけどね。でもオーディエンス達には偽装死も自殺も一緒だ。だが、ダンジョニアン男爵は次の世代、ネクスト・ジェネレーションへと受け継がれていく。これこそ一族物の大河ドラマの醍醐味だよ。ラビリーナ君、メルプル・シルフィードことメルプル・ダンジョニアンを壇上に上げてくれないかね。森人族の血を引いた美少女、女男爵の誕生だ。いいねぇ。いいよう。こうだよ、こうでなくてはいけないねぇ。そして彼女は父親を殺された恨みから今まで以上に、残忍なダンジョンゲームを行うようになってしまうんだよ。酷薄な美少女男爵の誕生だ。スリーサイズを調べてボンテージのコスチュームでも作らないとね。トラップ・シティの新たな支配者の誕生を祝おうではないか」
ダンジョニアン男爵は鼻息荒く興奮しながらダイヤモンド携帯を掛けていた。
「それでは、私が、メルプル・ダンジョニアンに寄生するとしましょうか。親子仲良く私の操り人形になって貰いましょう。このラビリーナの身体はゴミ箱にでも捨てて。今度は私がダンジョニアン男爵になる番です」
ラビリーナが自分の身体を叩きながら笑って言った。



シキールは壇上でハンカチで涙を拭う仕草をしながら笑みを浮かべてボソリと喋りだした。
 「なんて事でしょう。皆さんの愛するダンジョンゲームの発明者であるダンジョニアン男爵は、第8パーティの黒鷹の手によって暗殺されてしまいました。これはテロです許せません。テロリストは決して許してはいけないのです。
 しかしです、ダンジョン競技の気高い意志と崇高なる思いの火は途絶えては居ません。世知辛い世の中を渡っていくダンジョンゲーム愛好者の皆様方に、夢と希望と大金をせしめるチャンスを与えるダンジョン競技は永遠に不滅なのです。
 実は今日は皆さんに隠していた事があります。第一パーティ「ルルと仲間達」の錬金術士メルプル・シルフィードは、本名はメルプル・ダンジョニアン。つまりダンジョニアン男爵の実の娘だったのです。
 受け継がれる意志と人の思いとが交錯し、新たなるトラップ・シティの支配者を生み出します。バロネス・メルプルの登場です。皆さん拍手で迎えて下さい」
シキールは手で巨大なモニターを指し示した。
 そこでは、死んだダンジョニアン男爵の胸に覆い被さって泣いている耳の尖っている娘が映し出されていた。



メルプルは涙が止まらなかった。殺人ゲームを、やっているという悪い噂は留学先のフラクターの学校にまで届いていた。モンスターや人間を人身売買で売り買いしているとも聞いた。だから、こんな事になることも、おかしくはなかった。
 だけど。
 殺すことは無いでしょ。
その時、メルプルの身体が勝手に動き出した。
 身体が言うことを聞かない?
 足は勝手に壇上のマイクへと向かっていった。
どうして身体が勝手に動くの?
 どうして。
 メルプルは涙を流しながらマイクの前まで歩いていった。



 「君の特殊能力、遠隔操作の力は、なかなかの物だね」
 ダンジョニアン男爵は笑いながら言った
「たかが蚊に刺されたぐらいの小さい傷です。寄生肉芽を使って極細い三十六万本の双方向神経繊維を通して脳幹部と大脳を乗っ取っているだけです。難点は一度に一人しか操れない事ですか。その代わりに本人以上に微細な制御が可能となりますが。では涙腺を止めて置きましょうか。私のイメージする新ダンジョニアン女男爵のキャラクターは、力強く残忍でないといけませんからね。少しコミカルさが在るぐらいに無意味に残忍でないと今の時代のオーディエンスには受けませんから。ですから涙は不要です。さあ、それでは開始しましょう。私は、ダンジョニアン男爵の娘…」
 ラビリーナは指先をクネクネさせて踊りながら言った。



「私は、ダンジョニアン男爵の娘、メルプル・ダンジョニアンだ!私は、父親の作ったダンジョン競技の安全性を示す為に、自らダンジョン競技に参加した。だが、我が敬愛する父上であるダンジョニアン男爵は第八パーティ「黒鷹」のテロによって死亡してしまった。私は亡き父の意志を受け継いでダンジョン競技を続ける事を約束する!今まで以上に楽しいダンジョンゲームを提供することを観衆の皆に約束しよう!」
メルプルが壇上で腕を振って喋り始めた。
どういうことだスカイは唖然とした。
 これは一体。
とんでもないことをメルプルは喋っていた。
 「どういうことだよ。ウロン。メルプルはダンジョニアン男爵の迷宮競技を止めようとしていたんじゃないのか」
 スカイは隣のウロンに聞いた。
 「わからない。でも何か変じゃない。あんな風にメルプルは喋らないわよ。もっと無理して自信家のフリをして喋るはずよ」
ウロンは腕を組んで眼鏡を上げながら言った。



ジーウー達は大通りに来ていた。
「黒鷹、シー老師と合流してトラップ・シティを脱出してヒマージを抜けるぞ」
戦士のトトン・マーレが言った。



メルプルは突然身体の自由が戻った。
楚宇那がメルプルの両肩を押さえて頬を張った。
 「何て事を言っているのメルプル!」
 楚宇那が詰問した。
 「私じゃない…私じゃないの、口と身体が勝手に動き出した」
 メルプルは、やっとの事で言った。



「さあ、観客の君達。良いことを教えて上げるね。今日のダンジョンゲームは、まだまだ続くんだよ」
 若い女性の声が、し始めた。
 「何、まだ続くのか?こんな事は初めてだ」
 隣のギャンブラーYが言った。
 シー老師は席を立った。
 黒鷹達と宿屋「ルーレット」の横の路地で合流する事が目的だった。そしてヒマージ王国を脱出する。
 だが、ダンジョニアン男爵は娘に引き継がれてしまうようだ。これでは黒鷹達の目的は達成する事が出来ない。
 突然若い女の声がスピーカーから流れた。
「これからダンジョニアン城を舞台に凶陣拷羅五条殺が開始されるんだよ。ダンジョニアン城の五つの闘技場を守る守護者達との戦いだよ。実はダンジョニアン男爵は怪物に乗っ取られて居るんだ。さあ、皆さん、お立ち会い、お立ち会い。ホラ、ダンジョニアン男爵が映るよ。まだ生きて居るんだ。ラビリーナも一緒だ」
若い女性の声が言った。