ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「ニャコ行くわよ。エロオヤジとエロガキはシカトする」
ウロンが眼鏡を直しながらニャコの腕を持って引っ張って行った。
「何だと眼鏡女。サシシ・ラーキさんの美しさは人類的な宝だ。貴様等ごときに伺い知ることの出来ない深遠な美しさを持っている」
トンガリ頭の長身の少年が腰に手を当てて見下ろしながら言った。
「よくぞ、言ってくれたジーウ。俺は舌っ足らずだからな」
ひげ面の戦士が頷いて笑いながらトンガリ頭の少年の肩をポンポンと叩いて言った。
「当然ですよ、こういう女達にはビシッと判らせてやらなければ駄目です」
トンガリ頭の少年が笑いながら、ひげ面の戦士に言った。
ウロンは肩をすくめてニャコと歩いてきた。
「切って置けば良かった」
楚宇那が腰の刀に左手をかけて言った。目が据わっていた。楚宇那は不機嫌になると、むすっとした顔になるのだ。
メルプルがゴールの方を見ると、ヒゲの戦士とトンガリ頭の少年はゴール近くからサシシ・ラーキを見ていた。
何か幸せそうだった。
でも端から見ると、ただのバカにしか見えなかった。
だけれど、あんなバカ達より、これからが重要だった。
パパに直に会って話をして、なんで、こんなダンジョンゲームを始めたか聞かなくてはならなかった。
パパが、こんな事を、するはずは無かった。
きっと何か事情が在るはずであった。 ステディ・ベアが言っていた事は本当なのだろうか。怪物が取り憑いているなんて、そんなおとぎ話みたいな事が在るのだろうか。今の時代、魔術の仕組みが大分解明されて、不老不死や、隕石落としなどの多くの魔術に関する噂は嘘であることがエターナルの魔術師達に否定的に証明されて一般に知れ渡っていたからだ。
ミドルン王国の国歌「ウダルの民」が吹奏楽団の演奏で流れていた。
「最高よスカイ。このダンジョン競技で一位になるなんて。凄いわよ。あなたは頭が良くて行動力と達成力のある男よ。惚れ直しちゃった」
ウロンは顔を赤くして表彰台の上で隣のスカイに言った。両手を前で組んで肩を振っている。
「コレは、オレ達の金貨だ。後で三人で山分けするんだ、しな作ってもやらねぇよ」
ふん、信用できるか女なんて。
スカイは醒めていた。
メルプルは一般人の娘じゃなくて貴族の娘だった。ずーっと騙されていた。
何で、俺みたいな一般人を男爵の娘が騙すのだ。
どうも女は信用できないな。
カネの方が信用できるかもしれん。
畜生、今頃になって腹が立ってきた。
ダンジョン競技の間は、やっぱり集中していたせいだろうな。
スカイは、ずっしりとした金貨がつまった宝箱を持ちながら思った。
良い重さだ。
「私を副賞で貰ってくれない。こう見えても料理は得意だし。パンもクッキーもケーキも焼けるし、料理は二百十一種類もレパートリーは在るのよ。フラクター選帝国に来てスカイ」
ウロンが言った。
確かに手を打ちたくなるような条件だった。
「一級市民っていうのはフラクターの貴族なんだろう?料理なんか自分でするのかよ」
スカイは言った。
ウソかもしれないからな。
フラクター選帝国は平等な民主主義とか言っているがスカイの知る限り一級市民に二級市民に奴隷と言う風に三つの階層があるのだ。いや、よく判らないが、幾つもの領土にも分かれて選帝侯がいるらしい。
「違うわよ。私は二級市民の両親から生まれたけれど、フラクター選帝国魔術師領、公設の学校に入って、一級市民になったの。それに一級市民は二世代までしか有効じゃないのよ貴族じゃないのよ」
ウロンが言った。
やっぱり、よく判らない説明だな。
そういや、ロザ姉ちゃんもフラクター選帝国の一級市民になれる学校に入って、色々な資格を取りまくって役人になったらしいな。
「お前、強引すぎて嘘臭いよ。何か裏が在るんだろう」
スカイは言った。
「やっぱり強引すぎるわよね。でも私の気持ちは本物だから。じゃあ、住所と電話番号を書いて置くから」
ウロンはメモ帳と万年筆を取りだして書いていた。スカイは万年筆とメモ帳にフラクターのエンブレムが付いているのを見つけた。
「まあ、山在り谷在り、苦難ばかり在りだったが、今、一位になってみると感慨深いモノが在るなスカイ。俺に、このトロフィーくれよ。部屋に記念品として飾っておく」
マグギャランは両手で持った。馬鹿でかい優勝トロフィーを見ながらスカイに言った。
「別に構わねぇよ。コロンはトロフィーいるか?」
スカイは優勝賞金の金貨が入った宝箱を持っている。
だがコロンはボーっとして首に、かけられた金メダルを見ていた。
吹奏楽団がスロプ王国の国歌を演奏し始めた。トランプ模様の服を着た衛兵がスロプ王国の旗を揚げていた。
「第二位は第八パーティー「黒鷹」」
ダンジョニアン男爵が二位のカップを持ちながら言った。バニーガールが銀メダルと宝箱を銀色の台車に乗せている。
頭まで、鎧で覆われた黒鷹がダンジョニアン男爵に近づいていった。
そして腰の剣を抜いた。
「ダンジョニアン男爵覚悟!」
そしてダンジョニアン男爵の胸を長剣で刺し貫いた。
いきなりの事で誰も動けなかった。いや、黒鷹が余りにも流れるように動いたのだ。
「パパ!」
メルプルの悲鳴が上がった。
ダンジョニアン男爵は黒鷹の鎧の肩を掴んだが力無く手が放れ前のめりに倒れていった。
黒鷹は剣を引き抜いて黒いマントで剣の血を拭って鞘に収めた。
メルプルはダンジョニアン男爵の、もとへと駆けていった。
「どうして!どうしてパパを殺したのよ!」
メルプルは涙を流しながら黒鷹に向かって叫んだ。ルル・ガーテンと東方人の娘と猫耳娘と金髪の女性がメルプルの周りに集まった。
ウロンは腕を組んで見ていた。そして片手を腰の銃に当てた。
「その男は、ダンジョン競技で多くの人間を殺してきている。そして、ケーブルテレビを使って大金の動く闇賭博を行ってコモンの各王国で莫大な収益を上げている。誰かが、この悪魔を殺さなければ、死ぬ人間や泣く人間が、これからも出たに違いない。私の国とて被害が出ているのだ」
黒鷹は言った。
「私の、たった一人のパパなのよ!」
メルプルが叫んだ。
「ダンジョニアン男爵に殺された者や泣かされる人間も誰かの父親であったり、誰かの母親であったりするはずだ。正義は常に無ければならない」
黒鷹は言った。
衛兵が集まってきた。皆トランプの模様の付いたマントを羽織って斧槍を持っている。
兵士の数は数えていたが、五十三人居る。
ジーウーは飛び出そうとした。
だが黒鷹が肩を押さえた。
「この場は魔術で逃げる。フラー!」
黒鷹が言った。
「判りました黒鷹。インビジブル・コート(透明化膜)の呪文を掛けます。みなさん私の周りに集まって下さい」
森人の魔術師フラーが言った。
第八パーティー黒鷹のメンバーが集まっている。そして透明になっていった。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道