ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「そうだろうな。我々は二番人気だ、このまま一位になっては、胴元の、お前は損をするのだろう」
黒鷹が言った。
「その通りだ。そこで取引をしないかね」
ダンジョニアン男爵は言った。
「条件は何だ」
黒鷹は言った。
「君達が欲しいのはポイズン・ガンの毒の解毒剤だろう。私は毒の解毒剤ごと彼の身柄を引き渡すという提案を持ちかける。この条件を飲めるかね?彼の身柄を引き渡す、ところに我々の誠意を認めて欲しい。下手人の彼に怒りを思う存分ぶつければいい。煮るなり焼くなり自由にするといいというわけだ」
ダンジョニアン男爵は言った。
「その為に一位を取った。もちろん、その条件を飲むさ」
黒鷹は言った。
天井が開いてロープに縛り付けられたポイズン・ガンが降りてきた。
「助けて!恨んでますって!殺されますって!助けて!」
縛り付けられているポイズン・ガンは叫びながら言った。
「ジーウー来い。ポイズン・ガンを押さえつけるのを手伝え。手間掛けさせやがって」
戦士のトトンが指をポキポキと鳴らしながら近づいた。
「判りました」
ジーウーは言った。
床に足が付くとポイズン・ガンは縛られたまま逃げだそうとした。
だが、ロープが張って逃げようが無かった。
「ひぃ!来ないで!殺さないで!」
ポイズン・ガンは叫び声を上げた。
戦士のトトンが首根っこを掴んで足を払って転がした。ジーウーも押さえた。
ジーウーは天井を見た。邪戦斧隊のバケモノがロープの端を持って筋力で降ろしていた。
「わ、私を殺したら暗殺者ギルドのバタン一族に殺されますよ!私もバタンの一族なのです!」
ポイズン・ガンは脅しを開始した。
「黙れ、この暗殺者め。その毒針を発射する空気銃で何人の人間を殺してきたんだ。この野郎」
トトンが拳で殴りつけた。
「百五人です。ちゃんと日記にも付けて供養もしています!ぶたないで!私は全身が知覚過敏なのです!」
ポイズン・ガンは叫んだ。
「キュピンを早く楽にするために薬を出させろ」
黒鷹が剣を抜いたまま言った。
「おい、オマエ、この野郎。解毒剤は何処だ」
戦士のトトンは殴りつけながら言った。
「痛い!殴らないで!私のベルトに付いているカプセルがそれです!」
ポイズン・ガンは言った。
「オレが取ります」
ジーウーはポイズン・ガンのベルトに付いているカプセルを取り外した。
「開け方が判らないな。どうやって開けるんだ」
ジーウーはカプセルを見ながら言った。
「俺に貸して見ろ」
スカウトのクア・フルトが言った。
ジーウーはカプセルを渡した。
スカウトのクア・フルトがカプセルを、いじっていると二つに割れて開いた。
中からガラス製の瓶が出てきた。
「それを飲ませれば毒は解毒出来ます。だから私は見逃して下さい!」
ポイズン・ガンは言った。
「お前みたいな暗殺者の言うことを信じられるか。キュピンが治るまで、お前を離す事などできん」
戦士のトトンがポイズン・ガンを殴りながら言った。
「フラー、キュピンを起こして解毒剤を飲みやすくしてやれ」
黒鷹は言った。
「判りました」
森人の魔術師フラーはキュピンさんを起こした。
クア・フルトが解毒剤を飲ませた。
暫く見ていた。
「ふー。直ったようね」
キュピンさんがアッサリと起きあがった。みるみると灰色になっていた肌の色が元の肌色になった。
キュピンさんは腰からモーニング・スターを取り出した。じゃらりと鎖が鳴った。
モーニング・スターにはトゲの付いた直径十五センチほどの鉄球が鎖で棒の先に付いている。
戦士のトトンがポイズン・ガンの首根っこを押さえている。
「た、助けて下さい!」
ポイズン・ガンが命乞いを始めた。
「どうするんだキュピン。コイツはただの小物だ。大物のダンジョニアン程重要じゃないぞ…まあ言うだけ無駄か」
トトンが言った。
「ふふふふふふ」
キュピンさんがモーニングスターを振るっていた。じゃらりと鎖が鳴った。
「あの毒は、とても苦しいのよ。息が出来なくなるし、熱と悪寒が走るし、胃が痛くなって吐き気がして。全身の関節が痛んで…」
モーニングスターの鉄球をグルグルと回し始めた。
「ふん!」
キュピンさんがモーニングスターを振るうとポイズン・ガンの右腕の3連空気銃がひしゃげた。手首の返しで帰ってきた鉄球を手で捕まえて身体の回りでヌンチャクのようにモーニング・スターを振り回し始めた。
「私には慰謝料を払う別れた妻と養育費を払う親権を失った子供が五人もいるのです!だから助けて下さい!」
ポイズン・ガンは両手のニードル・シューターを振り回しながら命乞いを開始した。
「この馬鹿者が!どれだけ苦しい思いをしたと思っているのだ!」
キュピンさんがモーニングスターをグルグルと振り回した。
「これは仕事なんです!ダンジョンの中でダンジョンストーカーというスポーツ種目の殺人アスリートとして肉体労働に従事していますが、私も仕事が終わればゴム服と仮面を脱いでタダの一般人の市民に戻るのです!税金も、ちゃんと納めています。スポーツの試合中に起こったアクシデントですよ。プロフェッョナルなスポーツに、ありがちな頭脳的なラフ・プレーでしかないのです!」
ポイズン・ガンは命乞いを、しながら後ずさった。
「問答無用!この卑劣な暗殺者め!」
キュピンさんのモーニング・スターがポイズン・ガンの脇腹に命中した。
「ああっ!いま肋骨がメリッといった!マジ、メリッという音が聞こえたって!」
ポイズン・ガンが脇腹を押さえた。
「甘いわ、このド外道め!我が怒りを知れい!」
キュピンさんのモーニング・スターがポイズン・ガンの肩に命中した。
「ああっ!鎖骨が折れた!」
ジーウーは思った。まあ当然の報いだな。
「この悪党め!こうしてやる!この馬鹿者が!」
キュピンさんはモーニング・スターで殴るのを止めて蹴飛ばし始めた。
「キュピン、殺さなくて良いのか」
トトン・マーレーが言った。
「ほら、もう良いわよ」
キュピンさんは邪戦斧隊に合図した。
ポイズン・ガンの、ぐったりとした身体は天井の穴に引っ張り上げられていった。
ゴールの前で黒鷹達がいた。
「おい、オレ達が一番のりじゃなかったのか」
スカイは落胆しながら言った。
「まあ、気にするなスカイ。余所の国に夜逃げをすれば全ての事は済むさ。そして一から出直せばいい。命が一個在れば良いこともあるさ」
マグギャランはスカイの肩を叩きながら言った。
「いや、一番乗りは我々であるが、我々の目的は一位になることではない。まだゴールのテープを切ってはいない。君達に借りがある。一位は譲ろう」
鎧を着た黒髪の灰色の瞳の中年の男が左腕に盾と兜を持ったまま言った。
黒鷹の素顔のようだ。
他の第八パーティ「黒鷹」のメンバーも皆、スカイ達を黙って見ている。
何か気まずいな。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道