ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「周期?」
マグギャランが腕を組んで目を細めてルシルスを怖い顔で見ながら言った。
ルシルスは急に怯えたような仕草をして白い神官着で顔を覆った。
何なんだよ、この女は。
「周期は大体二ヶ月から三ヶ月近くの間の七十五日なのです。七十五日ごとに、わたしは人格が変わってしまうのです。秘文字教の「戦の女神」が格好良かったので、グズでドジでドベな弱い自分を変えようかと一念発起を起こして「戦の秘文字」教に入信したのですが、実は裏では怖い「殺しの秘文字」教も平行して教えていたのですよ。そこで二つの宗派を平行して一緒に伝える神官にさせようという師匠のギリリ・ラーキによって人格改造を、されてしまって二重人格になってしまったのです。本来の私は今のルシルスの方なんです。わかりましたか?」
ルシルスが言った。
「フカシじゃねぇの。おかしな宗教に入っているから、そういう目に遭うんだよ。もう少しマシな宗教に入れよ」
スカイは言った。
コロンも頷いていた。
「事情は話しました、ここは理解して助けて下さい。わたしは可哀想な、ひ弱な女の子なのです」
ルシルスは胸の前で両手を組んで涙を流して懇願を始めた。
「事情ぐらいは説明してやるよ。今、オレ達はダンジョン競技というゲームに参加している。オマエも参加して居るんだよ。ルール上、余所のパーティの手助けは出来ねぇのさ。オレ達は第七パーティ「ザ・ワイドハート」で、お前は第五パーティ「悪人同盟」なんだよ」
「わたしのパーティの仲間は何処に居るのでしょう。でも、仲間が悪人というのは、ちょっと…」
ルシルスは口もとを右手のグーで隠して回りを見回していた。
「知らぬ。前見たときは四人居たが。今は居ないな。死んだのかもしれん。これは人の命を賭ける殺人ゲームなのだ」
マグギャランが言った。
「うぇん…殺人ゲームですか。わたしまだ十四歳なんですよ。眠って起きて気が付いたら、いきなり殺人ゲームの中だなんて酷すぎます」
ルシルスは泣いてハンカチで涙を拭いながら言った。
はあ?
スカイは絶句した。
コロンも固まった。
「う、うそだ。おれはロリコンじゃないぞ!みんな、そんな目で、おれを見ないでくれ!何処が十四の小娘だ!」
マグギャランは、思いっきり、うろたえて動揺していた。そして顔を手で隠して片手で見ないでとリアクションを、やっていた。スカイとコロンはマグギャランを見ていた。
「そうだよ。サシシ・ラーキは二十八歳だって新聞に載っていたぞ。どう見たって十四には見えないよ、お前」
スカイはルシルスを見ながら言った。
何故か胸に視線が行った。
なぜ胸に目が行くのだ。
ええい。
スカイは頭を振った。
顔見ても、やっぱり十四歳には見えない。
「うちの家系は老け顔なんですよ、お姉さま達は一人を除いて、みんな百八十センチ近くあるんです。わたしは背が低いんですよ百六十七センチしか在りません」
ルシルスが言った。
オレより背が高えよ。
スカイは思った。
「何、君には、お姉さんが居るのか。そう言えば、さっきセルラお姉さまとか言っていたな。当然二十歳を超えているんだね」
マグギャランの顔が変わった。
「姉は十二人居ますから。でも結婚している人が殆どですよ」
ルシルスはジト目でマグギャランを見ながら言った。
「お姉さん達は、みんな君と同じ様に美人なのか。これは重要な質問だからウソを言わずに正直に答えるように」
マグギャランが詰問するように言った。
「当然です。わたしは出来が悪くて不細工ですが、お姉さま達は全員美人です。二つから四つ上の、お姉さま達は女神三姉妹と呼ばれているぐらいに美人で、厳しくも優しい性格美人なのです」
ルシルスは言った。
「スカイ」
マグギャランは、さり気なく目を伏せながら呼んだ。
「なんだよ」
判っていたがスカイは答えた。
しょうがねぇ奴だな。
でもダメだぞ。
「サシシ・ラーキは年齢を詐称して人殺しを奨励する悪人だが、ルシルス君は良い子のようだ、お家に送り届けて上げないかね」
マグギャランが猫なで声で言った。
何かを捨てたヤツの目つきをしていた。
そう、コイツは今、人間として必要な、大事な何かを、捨てたに違いない。
「やめとけよ、何時サシシ・ラーキになるか判らない危険な女だぞ。どっかで殺されるよオマエ。この女はダンジョンの中で死んだ方が世の中の為になるよ」
スカイは腕を組んで言った。
「本当ですか!助かります!お家に送り届けてくれるんですね!あ、そう言えば、まだ、お名前を伺っていませんでしたね」
ルシルスはスカイの話を無視してニコニコしながら言った。
その笑顔に心臓がドキッとした。無茶苦茶可愛く見えた。美人顔だが可愛く見えるのだ。
スカイは何となく騙されているように感じていた。
角を曲がると扉が在った。
第四チェックポイントだった。
スカイは扉を開けた。
「あれ、コレなんでしょうか」
ルシルスは白い神官着の袖から節の沢山付いた棒の束を取りだした。引っ張っていくと先端に鞘の付いた曲刀のような物が付いていた。
「何だよ。変な凶器を隠し持っているんじゃねぇよ」
スカイは言った。
「うむ、何やら、見た感じでは、竿状武器を分解したような形の武器では在るな」
マグギャランが言った。
「はあ、実家には武器庫が在って沢山武器が在るんですよ。その中から持ち出したの、かもしれませんね」
ルシルスは首を捻って変な武器を、いじっていた。
何で実家に武器庫が在るんだよ。
どういう家なのだろうか。
スカイは深く考えずにタッチパネルに向かっていった。
「第四チェックポイントの通過順位は二位だ。一位は「黒鷹」。二位は俺達。三位は「悪人同盟」だ」
スカイはタッチパネルを見ながら言った。
「まあ、順調では在るな。だが、俺達が黒鷹達を次の第五迷宮ゾーンで追い抜けるかで、俺達の借金返済が出来るかが掛かってくる」
マグギャランはルール・ブックを取って見ながら言った。
「次は、どんなルールだ」
スカイは聞いた。
「うむ、次は根性と体力の迷宮だ。ルールは、いたって簡単「根性でトラップを潜り抜けて走り抜け」と書かれている」
マグギャランは言った。
「成る程、余り難しくは無いな」
スカイは言った。
「既に危険なアンラッキー・セブンを通過してきた俺達だ。これは逆に好機ではないのかねスカイ」
マグギャランが言った。
「確かに、そうだな、ここで「黒鷹」を抜いて一位を取るぞ」
スカイは言った。
「当然だぞスカイ」
マグギャランは大きく頷いた。
部屋の先の坂の向こうにゴールが見えた。ジーウー達、第8パーティが一番のようだ。赤い水着のバニーガールが左右でテープを持っている、ゴールのテープは、まだ切られていないようだった。
「待ちたまえ黒鷹君。君達は一位になることは出来ない」
ダンジョニアン男爵の声が鳴り響いた。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道