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ダンジョニアン男爵の迷宮競技

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隣のコロンもムッとした顔で頷いていた。
「騎士の方ですね。あなたは深い悲しみの中に居ますね。心を突き動かすのは復讐心。ですが今のあなたには力がない。で、取りあえず女にかまけてポルノ雑誌を集めていると。特に好きなポルノ雑誌は「夜遊びナイト倶楽部」」
 サシシ・ラーキは言った。
 「どうして「夜遊びナイト倶楽部」だと判るのですかレディ……」
 マグギャランは動揺した顔で言った。
 確かに、アイツが、よく読んでいるエロ雑誌だった。
「痛いですね。強く手を握っています」
 「これは失礼を、レディ」
 「あなたは下半身は不実ですが、上半身は、かろうじて誠実な方のようです。頼みがあります。騎士の方」
 「頼み?頼みとは何でしょうかレディ」
マグギャランは言った。
「実はですね。時間が来ているのですよ。
騎士の方」
サシシ・ラーキは細い秀麗な眉を曇らせた。
 「時間、シンデレラの魔法の様な時間なのですかレディ。魔術が解けても、あなたの美しさは変わりませんよ」
 マグギャランは適当な事を言った。
 それにしても歯が浮くような恥ずかしい台詞だ。どこから出てくるんだよ。
 やっぱりエロ本なのか?
 「私は、これより、口にするのも、はばかれるような、恥ずかしい、どカマトトになってしまうのです。殺しの秘文字教の神官サシシ・ラーキから、戦の秘文字教の神官ルシルスになるのです。そのあと、わたしが無事に外へ出られるように便宜を図って貰いたいのです」
サシシ・ラーキは言った。
 おい、何人も殺しておいて自分の命は大事なのかよ。
スカイはムカついた。
 「ああっ・来た!」
サシシ・ラーキは頭を抱えて蹲った。
「あああああああああああっ!」
身もだえしていた。
 ムチャ色っぽかった。
 だが、殺人宗教の神官なんだよな、この女は。
騙されてはいけない。
スカイは腕を組んで頷きながら見ていた。
神秘的な目が、厚ぼったいアンニュイ感じの瞼になった。いや、同じ顔なのだが何となくトローンとしているのだ。全体的に、ほのぼのとした感じの雰囲気に変わった。
そう、極悪人の筈のサシシ・ラーキが、ほのぼのとしたのだ。
 何が起きたんだ。
 そしてダンジョンの床にペタンと腰を下ろした。両手でグーを作って口の前に置いて上目遣いでキョロキョロと回りを見ていた。
「ここは何処です。嫌!こんなダンジョンに誰が連れ込んだのです?」
サシシ・ラーキが言った。
 スカイは頭が痛くなった。余りにも甘ったるいキンキン声で喋っていた。これが地声なのか?本当かよ?こんな女が居るのか?
 「あなたですか?いやん!手を握らないで!エッチ!」
 まだ、サシシ・ラーキの手首を持っていたマグギャランはサシシ・ラーキに両手で突き飛ばされた。
「うおっ!」
 マグギャランの悲鳴が上がった。
 身体が文字通り爆発的に吹っ飛んだ。
5メートルぐらい吹き飛ばされて壁に、ぶつかった。
「なんじゃい。これは」
 スカイは驚いた。サシシ・ラーキは細身の身体だ、手なんか指が長くて細い。今白い服の袖口から見えた腕も真っ白で細い。何処に、こんな力が在るのか謎だった。
「ご、御免なさい、軽く押したら吹き飛んでしまって、でも、わたしは貞節の誓いを立てた「戦の秘文字」教の神官なのです。見ず知らずの殿方と手を繋ぐなど出来ませんったら、出来ません」
サシシ・ラーキはマグギャランに首を横に振って言った。
「ああん!大変です!わたしが眠っている間にママや、お姉さま達に内緒で、悪い子の、わたしが、こんな得体の知れない場所に連れてきたんです!きっとそうです!ああっ大変です!わたしは、か弱い女の子なのに!大変ですったら大変です!」
サシシ・ラーキは胸に両手を当ててキョロキョロしていた。
マグギャランは壁に背中を貼り付けたまま見ていた。
「なんだ、全然違うではないか。あの濃厚な心中を遂げたくなるような危険な匂いが無くなって、ただのガキんちょではないか…いかん、いかん、だが、顔と胸を見てはいかん。胸に磁力のような強い力を感じる」
マグギャランは言った。
 確かに全然、話し方が違った。
雰囲気はトローンとしてはいるが、とてつもない美人であることには間違いはなかった。
近づけば近づくほど美人に見えるようだ。
それと同時に骨抜きになるような感じの怪しいオーラ感じた。オーラが吹き出しているのだ。ルル・ガーテンも強いオーラを持っているが、どうも種類は別物のようだ。
 何かの新手の妖術かもしれなかった。
「あのう、ここは何処ですか。何処の国なのでしょうか…コモン語にも訛が感じられます」
「ここは、ヒマージ王国のダンジョンニアン男爵のトラップシティだ。知って居るんだろうサシシ・ラーキ」
 スカイはサシシ・ラーキに言った。
「え?わたしったら、何て遠い所まで来ているのでしょう。お家に帰るのも大変です。お金は…ああっ!お財布が無い!在りません!セルラ、お姉さまが作ってくれたベロンバの、お財布が無い!いつも外出するときは持っているはずなのに!」
サシシ・ラーキは白い服の懐を探っていた。
 くーん
くーん
 と、子犬のような鳴き声出して涙を流していた。
「それじゃ、オレ達は一位にならねばならないんだ、先に行くからな。来いよマグギャラン、コロン」
スカイは右手でマグギャランに合図をした。
「確かに、こんな風にガキンチョに変わってしまうとなると、急に元気が無くなるな。俺は基本的に大人の女性が好きなのだ」
腕を組んでいたマグギャランはスカイの方へ歩いていった。
「一人にしないで!わたし、恐がりなんです!ダンジョンで迷子のわたしを、お家に帰らせて!」
サシシ・ラーキが慌てた声で言った。
「だって、お前は殺人宗教の「殺しの秘文字」教の神官サシシ・ラーキだろ。何人、今まで人間を殺してきて居るんだよ。俺は人生でゼロだぞ。これが普通なんだよ。常識だよ、常識。じゃあな」
 スカイは言った。
「見殺しでも殺人ですよ!」
 サシシ・ラーキは床に片腕を付いて、もう片方の右手を伸ばしてスカイ達に助けを求めている。
何か、さり気なくスカイの痛いところを突いてきた。
「俺は若干、殺した事はある。昔の仕事は騎士だったし」
 マグギャランは口元にスカーフを上げて隠して手を挙げた。
コロンは大きく首を横に振るっている。
「わたしはサシシ・ラーキでは在りません!あれは悪い子の、わたしなのです!いまのわたしは清く、楚にして、ひ弱く、直ぐにイジメられるグズでドジでドベな人生を送る、か弱い女の子なのです。だから助けてください!わたしの名前はルシルスです!サシシ・ラーキとは別人です!」
と、サシシ・ラーキことルシルスは言った。
本当かよ。
「でも、今さっきまでサシシ・ラーキだったじゃん。ウソだよ、お前」
 スカイは言った。
 「あの人格移転には周期があるのですよ。判ってませんね」
いつの間にか正座したルシルスが右手で人差し指を立てて、ちっちっと横に揺すりながらジト目で言った。