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ダンジョニアン男爵の迷宮競技

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ステディ・ベアが腕を振ってジャンプして言った。そしてメルプルの方を向いて続けた。
「良いことを教えるよ。メルプル・ブルーリーフ、良く聞くんだ。君の父親のダンジョニアン男爵には魔物が取り憑いているんだ」
 ステディ・ベアは言った。
え?
メルプルは顔が強ばった。
 何を言い出すのかと思ったら魔物?
 一体何なの?
でも、このステディ・ベアも魔物であることは間違いない。
 でも魔物が人間に乗り移れるなんて信じられなかった。
 「ふふふふふふふ、それではまた会おう。その時に、君達をボコってダンジョンの床に転がしてあげるね」
 ステディ・ベアは空気を入れて膨らませた風船が手を離して勢い良く飛んでいくようにピョンピョンと天井や床に跳ね返りながら奥の方へ飛んでいった。そして、その奥の方には耳の尖った七歳ぐらいの女の子がいた。
「あ、女の子が居るよ」
 ルルが言った。
 「あれもダンジョン・ストーカーなのじゃない?」
 ウロンがレーザー・ブラスターを触りながら言った。
 プラチナ色の巻き毛が背中まで伸びている様だった。その女の子の腕にステディ・ベアーが抱かれると。床が、せり上がって来て女の子とステディ・ベアはその中に入った。
 あの女の子は?
 何となくメルプルのパパとママに似ていた。
 まさか!
 メルプルは、自分の妹のマルプルが成長した姿に間違いないと思った。
だが、声を上げるよりも先に、せり上がった床は閉じていってしまった。
「どうしたのメルプル」
 ルルが言った。
「あれが妖怪ステディ・ベアなのルル」
メルプルは話を、そらした。
 「わたしだって初めて見たから、よく判らないよ。でもステディ・ベアって不幸にしない場合も在るんだよ」
 ルルが人差し指を顎に当てて考えながら言った。
「ただの怪物じゃない。あの喋り方」
 ウロンが眼鏡を直しながら言った。
「違うの。ステディ・ベアは気に入った女の子は幸せな結婚まで手伝ってくれたり、貧乏だったら、お金持ちにしてくれたりと幸福にしてくれたりするんだけど、気に入らない女の子には、とてつもない考えようもない様な不幸に陥れるのよ。それが酷すぎてどんなに恐ろしいかは誰も知らないんだって」
ルルは思い出すように上を見ながらで人差し指を顎の下に当てて考えていた。
「私達、嫌われているみたいね。さっき青タンを作るとか言っていたし」
 メルプルは言った。
クマ人形にまで嫌われるようなら、お終いだ。
 でも、あの女の子がメルプルの妹のマルプルなら、あんなに大きくなったんだ。最後に見たときは、はいはいしていたときだったのに。
 


「いかんね。ステディ・ベア君が暴走しているよ。ダンジョン・ストーカー、キリングランキング3位としての自覚が彼には足りないね」
ダンジョニアン男爵は言った。
「やはり彼女達が美少女としては欠陥品故に、やるせないのでしょうか」
 「君は物事の本質を見ることが出来ないねラビリーナ君。これはステディ・ベア君のストライク・ゾーンに入ったんだよ。彼は普通よりストライク・ゾーンの位置が少しばかり変わっているんだ」
 ダンジョニアン男爵は言った。
「はて、ストライク・ゾーンですか。奇怪な言葉ですね」
 「君も勉強が足りないよ。君は形而上学に凝りすぎているから形而下の事を見下す傾向がある。形而上の事と形而下の事は不可分なんだよ。二つに分けることは良くない」
「でも私はやっぱり、哲学者ですから。公共の通念的道徳を破壊することにより人間社会の再生の糸口を見いだしているのです。まずはサル山の道徳から、やり直して始めましょうと言うことです。所詮人間は少し賢いサルでしかないのですよ。今の人間は生物として間違った所に居ますからね。ただのサルがブランド品を身につけて札束をくわえて、携帯電話を持っている、サルの三人家族の家族団欒の姿を想像すれば、そのバカらしさ、勘違いの程という物がよく判るという物です。我々のように理性に従っている一段と高い、猿の壁を越えた存在とは違うのですよ」
 ラビリーナが笑いながら言った。



ダンジョンの通路に白いドレープの掛かった服を着た腰まである長い黒髪の女が居た。
サシシ・ラーキだ。
 「あっ、そこの美女。ダンジョンの片隅でお困りのようですね。ここは紳士な、わたくしめがエスコートをせねば」
マグギャランは一人たたずんでいるサシシ・ラーキにヘロヘロと、よたついた足取りで近寄っていった。
 革のコートのポケットから勝負用の香水「ゴロジ」の小瓶を出して首の回りに掛け、口にもローズミント系のブレスケアをシュッシュッとやっている。そして手鏡を取りだして髪型をチェックした。
ヤツは本気も本気の大マジのようであった。
「だらしがないですね。山賊の頭や、毒殺魔、ギャング団の若頭ですら、邪戦斧隊に敵わないのですから。私一人が勝つとは嘆かわしい話です。最近の男性は駄目ですね」
サシシ・ラーキは振り向いた。
 こぼれるような優しい笑いを浮かべている。
 確かに近くでみると飛んでもない美人だ。
 誰だって認めるだろう。
瞼が少し厚ぼったいが、それが魅力の源泉かもしれない。
 だが、この女は殺人宗教「殺しの秘文字」教の邪神官だ。騙されてはいけない。
 スカイは一人頷いていた。
「マグギャラン!食われて殺されるぞ!近づくな!」
 スカイはマグギャランに叫んだ。
 「バカを言うなスカイ!殺されても良い女性が居るとすればズバリ彼女だ!俺は冒険に行く!愛と勇気が騎士道さ!モロ、フェロモン!ビンビン!あのドレープの付いた服の上から見える胸は、ただごとではないぞ。人類の未踏峰を確かめねば!オレは冒険家だい!」
マグギャランはサシシ・ラーキに近づいていった。確かに何故かサシシ・ラーキの胸は、そこに視線を集めるような怪しい力があった。特に目立って胸が大きいわけではない。大体ドレープの付いた白い服では胸の大きさなんか判るはずは無かった。
なんなのだ、この怪しい力は。
スカイは頭を振った。
「駄目だ!マグギャラン!近づくな!逆に精気を吸われてミイラにでもされるぞ!あれは人間じゃねぇ!行くな!」
スカイは叫んだ。
 確かに、そんな危険な匂いがプンプンする女だった。
 だが、マグギャランは雄々しく前に進んでいった。
ああっバカ!
 だから、あんなに沢山のエロ本を読むなって言ったのに!
コロンはスカイの横で腕を組んで首を傾げていた。
いきなり、マグギャランは膝を付いてサシシ・ラーキの手を取って白い手袋の手の甲にキスした。
 「レディ。こんなダンジョンの中で、連れもなく、お一人とは、さぞ、お困りでしょう。この無所属騎士の小生めが、後ろに控えている従者二人と共に、レディの、お悩みを解決いたしましょう。何て素敵な手なのでしょう。握るだけで幸せになれます。ああ幸せだ」
マグギャランは幸せそうな顔で言った。
その顔はサシシ・ラーキの周りにいた極悪人達と同じような顔だった。
 「誰がテメェの従者達だよ!俺は誰の従者にもなったことはねぇよ!」
スカイは叫んだ。