ダンジョニアン男爵の迷宮競技
その時、背後からドタドタと近づいてくる足音を聞いた。
スカイは振り返った。フルフェイスの兜を被った騎士の黒鷹が先頭にいた。
「ポイズン・ガンを見なかったか」
黒鷹が言った。
「緑色の扉に入った」
マグギャランは言った。
「バカ、ジーウーのバカ野郎をラメゲにシメさせる事ができないだろう。奴等を赤い扉に放り込めば良いんだよ」
スカイはマグギャランに言った。
あのラメゲならジーウーをシメさせることが出来るだろう。スカイは悪巧みを考えていた。
「それは、余りにもセコすぎるぞスカイ。オマエの個人的な問題だろ。フェア・プレイ精神で行こうではないか」
マグギャランは言った。
「おいスカイ。オレは誰にも負けたことはないんだよ。そしてコレから先も負けることはない」
ジーウーがバカにしたような顔をした。
「助かる。君の名前は何だ」
黒鷹がマグギャランに聞いた。
「マグギャランです。一介の冒険屋です」
マグギャランは言った。
「そうか。私が、どうしても思い出せない人物とは違うようだな」
黒鷹が言った。
やっぱりマグギャランのヤツは存在感がそんなモノなのか。スカイは思った。
「おい、黒鷹。緑色の扉を開けるぞ」
ヒゲの戦士が言った。
「判った」
黒鷹が言った。
そして第8パーティ「黒鷹」は緑色の扉に入っていった。緑色の扉は自動的に閉まった。
「奴等は、順位を上げている。不味いなオレ達の暫定二位が消し飛んでしまう。マグレでも起きなければ、このままでは一位にはなれんぞ」
マグギャランは言った。
「だが、あのポイズン・ガンが消えていった緑色の扉は、明らかに罠の一つだろう。ミス・リードじゃないのか。オレ達は避けた方が良いだろう。強いダンジョン・ストーカーが待ち構えている可能性が高い」
スカイは言った。
「それでは、オレ達には青い扉しか残されていないな」
マグギャランは言った。
コロンも頷いた。
「それじゃ、青い扉に賭けるぞ」
スカイは言った。
そして青い扉を開けた。
「何だコイツラは」
ジーウーは部屋の中を見た。
クア・フルトが緑色の扉を開けた。
広い空間には所狭しとバーベルやマシン・トレーニングのマシンが置いてあった。
真鍮色の機械達の間では筋肉質の男達がトレーニングに励んでいた。だが、皆、異形の身体の持ち主であった。身体のバランスが滅茶苦茶なのだ。縫い目のような入れ墨で繋がれた部分から先が肥大化していたり、剛毛が生えていたりと身体が継ぎ接ぎのように滅茶苦茶に、くっついているのだ。
その時、バラバラになっている肉片を見つけた。革のコートを着ている男だ。いや、他にもいる。筋肉質の大男が丸めるように背中がくの字になって首と頭が引きちぎれて倒れている。何故かパンが転がっている。
ヒゲの生えた筋骨粒々の男は頭から股まで一直線に切り下ろされ真っ二つになって転がっていた。顔は何故か平に潰れていた。巨大な金棒も中程で真っ二つになって転がっている。いや、金棒の先端は幾つも小間切れになって転がっていた。
そして、滅茶苦茶に身体が繋ぎ合わされた
怪物の首が刎ねられて倒れていた。
「我等は、ダンジョン競技のボディ・ビルダー邪戦斧隊だ。皆、ジャークで二・五トンを上げることが出来る。それでは、この部屋を通るために我等と戦え。一対一の五回勝負が良いか?それとも我々は十三人居るが総攻撃で全面戦争でバトリ合うかね。だが我々は強いぞ。かつて戦斧隊としてダンジョン競技に参加した前世の我等の肉体はダンジョニアン様の再生手術によって繋ぎ合わされ最強の戦士集団邪戦斧隊へと生まれ変わったのだ。我等の黒い腰布はよく見れば赤黒い事が判る。これは殺したダンジョン競技のプレイヤー達の血で染め上げられた血染めの腰布なのだ。お前達も首を切って鉤に引っ掛けて逆さ吊りにして血を搾り出し腰布の染料としてくれよう」
3メートル近くある巨人が戦斧を持ったまま言った。だが腕にある縫い目の様な入れ墨に沿って腕の毛が別の腕に変わっていた。そして背中にも腕が生えていた。
「どうする黒鷹」
戦士のトトン・マーレが言った。
「そうだな、ここで時間を費やすわけにはいかない。別のルートも考慮しよう」
黒鷹が言った。
「俺に任せて下さい」
ジーウは言った。
願ってもないチャンスだ。こういうシチュエーションは俺の為に用意されているようなものだ。しかもスタジアムの観衆が見ているに違いない。さっきの武闘台での戦いは狼男が自ら降伏したせいで不完全燃焼だった。
「どうするつもりだジーウー」
黒鷹が聞いた。
「代表を一人づつ出して一回の戦いで勝敗を付けましょう。オレ達が負ければ、このルートは通らないという事にします。そして俺が代表で出ます」
ジーウーは言った。
「確かに格闘家の、お前なら一対一の戦いに向いているだろう。正直なところ、十三人全員と戦う訳にはいかない。このトレーニング器具の山を障害物にしても戦う事は難しいだろう。勝っても回復のために時間が掛かってしまう。やってくれるか?」
黒鷹は言った。
「任せて下さい」
ジーウーは言った。
相手はデカイ巨人族や牛頭人族や鬼人族達を改造したバケモノ達だ。だが誰が出てこようと勝ってやる。
何故なら武覇山流は最強だからだ。
「お前達の代表を一人出せ。代表者を双方が一人出し、一回のバトルで通過できるか通過できないかを決める。この条件を飲めるか」
黒鷹が邪戦斧隊に言った。
「良いだろう」
邪戦斧隊の鬼人と岩巨人と小人族の顔が三つも付いている奴が言った。同時に喋っている。
邪戦斧隊は酷いバケモノの集まりだった。
「勝てなければ降参しろジーウー」
黒鷹は言った。
「俺には負けはありませんよ」
ジーウーは言った。
そして前に出ていって走ってトレーニング・マシンを飛び越えた。
「出てこい!俺は武覇山のシー・ジーウーだ!」
ジーウーは名乗りを上げた。
「それではポゴン行け。邪戦斧隊の恐ろしさを、人間の小僧に教えてやれ。戦斧で殺してから手足を引きちぎってバラバラにしてやれ」
三つの頭が付いた巨漢の男が言った。
「ガゥゥゥゥウウウウウ」
顔の下半分が岩巨人で、顔の上半分が人間の怪物が奥の方から現れた。腕には戦斧が握られている。
黒い腰布を履いている。そして腕は全て色が違った。右腕は鱗が生えている腕。左腕は剛毛の腕。
「わざわざ、二本腕の奴を用意してやった。だが、身長差は埋めがたいな」
三つの頭が付いた巨漢が言った。
「構わない。俺は3メートルあろうと負けることはない」
ジーウーは邪戦斧隊のポゴンを見ながら言った。足で八陣を踏んで回転して低く構えた。
さあどの門派で戦うか?武覇山には様々な流派の拳術が集まってきている。そしてジーウーは四つの門派を完全にマスターしていた。
だが、三メートル在るような巨漢の筋肉の塊の怪物には強烈な打撃力を誇る八剛門の轟雷掌を使わねばならないだろう。
相打ち覚悟の一撃で決める。
ポゴンは戦斧を振り上げた。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道