ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「いやあ、爺さん、何渋い顔して居るんだよ。アイツ等は悪人だよ。ああやって極悪人の死刑囚を、さらし者にして殺すことによって。社会に対して見せしめを行って居るんだ。ダンジョン競技の全てが悪いわけでは、ないんだよ。こうやって社会に貢献しているのさ。ダンジョニアン男爵は慈善団体「世界人権保護および貧民救済および環境保護会議」というボランティア団体をヒマージ王国貴族の連名で設立していてダンジョン競技の収益の一部を寄付しているし、賛同者には青と緑と赤の指輪を売って居るんだ。ホラ僕も付けているよ。付けているだけで何もしなくても、人権問題と貧困問題と環境保護に参加しているというアピールが出来て気分が良くなるわけさ。ただの道徳で威嚇するファッションでも在るんだけどね。君も買ったらどうかな?見た人間に罪悪感を負わせることが出来るよ」
ギャンブラーYがヘラヘラと笑いながら青と緑と赤の指輪を見せながら言った。
シー老師は、そっぽを向いた。
「赤と、青と、緑色の扉がある。どれが良いんだ。なんか、この色に深い訳が在るように思うんだが」
スカイは三つの扉を前にして考え込んでいた。
「第三チェックポイントから、迷路を歩き回って漸く辿り着いたのだからな。慎重に選んだ方が良いな」
マグギャランは言った。
「あー判んねぇ。コロンはどれが良いんだよ」
スカイは言った。
コロンは赤い色の扉を杖で差した。
「赤が良いのかコロン」
スカイは言った。
コロンは頷いた。
「まあ、どの扉も怪しいし、適当で良いんじゃないのか」
マグギャランは言った。
「おっしゃ、コロンの選んだ扉を開けるぞ」
スカイは赤い扉を蹴飛ばして開けた。
赤い扉を開けた。そして右に傾いた通路を歩いていった。そうすると、赤い扉が目の前に再び在った。
「おし、罠はねぇ。開けるぞ」
スカイは言った。
そして扉を蹴飛ばして開けた。
中から声が聞こえてきた。
それも酷く、やる気の無さそうな声だった。
「俺の名前はダンジョンストーカーズ、キリング・ランキング4位のラメゲ・ボルコだ。暗黒王国タビヲンのボルコ男爵家の長男だ」
広い空間にクリーム色のソファが一個置いてあり。そこには派手なスーツ姿の剣士が一人居た。ノコギリ襟の白いスーツにはピンストライプの線が縦に入っている。シャツは赤色でネクタイは白かった。そして白いエナメル靴を素足に履いていた。頭はラッキョウみたいな髪型をしている。きっと超強力なワックスかジェルを使って金髪を固めているに違いない。耳には黒い宝石のデカイ、ピアスがついている。
ソファーに腕を伸ばして寄りかかってコキコキと首を鳴らしている。そしてソファには沢山の剣が立てかけてある。スカイは数えてみた。様々な形の十本もの剣がある。
「ほう。暗黒王国と言えば剣の達人を輩出することで有名だ。手合わせ願おうか」
マグギャランが真面目な顔で言いながら前に出て剣を抜いた。
「おい大丈夫かよ。暗黒王国と言えば悪名高い場所だぞ」
スカイは言った。暗黒王国では人間とは呼べないような、酷いバケモノ達が貴族を、やっているらしい。スカイも無情騎士団のミスター無情とかの酷い奴等の噂を聞いていた。ミスター無情が来ると言うだけでコモンの子供はビビるのだ。出来の悪い子供はミスター無情は自分の子供でも平気で殺してしまうのだ。そして強い子供を拉致してまで集めて残虐非道の無情騎士団の一員にするのだ。
その他、身長が2メートル五十センチ以上在る人間(?)だけで構成されている、馬鹿でかい混沌悍馬に引かせた戦車軍団とか、人間を捨てている怪物の寄せ集めなのだ。タビヲンの周りの四カ国は何時もタビヲン王国が不作になるとタビヲン王国の軍勢に略奪され蹂躙されることで有名で「負け癖四王国」と呼ばれていた。
その他、タビヲンの王様は魔族と契約しているという噂が、まことしやかに伝えられていた。いや、他にも在った。様々な悪い噂が常に付きまとう国なのだ。
「俺は、これでも正式な剣術を正式な師について学んだのだ。お前のような度胸任せのケンカ剣術と一緒にするなよスカイ」
マグギャランはスカイに言った。
「コモンの常識は、オレ達暗黒王国の剣士には通用しない。本当の剣術をオレ達は使う。難しい事は無い。戦わせて最後に生き残った奴の剣術が最強だ。うざい試合とかは、やらない。命の取り合いだけだ」
ラメゲはポンポンと十本ある剣の柄を叩いた。
「剣には精神が宿る。騎士道とは剣と表裏一体。剣には魂と愛が籠もっているのだ。お互いにルールを決めて試合うことによって、良き友と共に剣を磨き上げ高みへと昇っていくのだ。軍鶏の闘鶏の如き戦いなど笑止千万」
マグギャランは近寄りながら言った。
「ごたくはいい。俺はもう少しソファで、のんびりしていたい。お前等を倒せば、のんびり出来るだろう」
ラメゲはサイド・テーブルの横にあるガラス細工の水差しを取ってガラスのコップに水を差した。水差しはアヒルの顔が付いており、口から水が出る仕組みのようだ。
ラメゲはポケットから何かを取り出して、コップに入れた。
コップの水の色が急激に泡立ちながら緑色になった。
そして飲み干した。
「何だよアイツ、ジャンキーかよ。あれはゼッテー、クスリだよ麻薬でドラッグで脱法だよ」
スカイは言った。コロンは首を傾げている。
「ふむ、見損なったぞ、ラメゲ。イケナイクスリでパワーアップして俺を倒そうとしても無駄だ。こっちは健康優良男児で、コモン共通国家資格の騎士試験に合格している騎士なのだハハハハハハハ」
マグギャランはラメゲに剣を突きつけて言った。
「これは睡眠薬だ。オマエ等は弱いからこのぐらいで丁度良い。俺は起きて立っていることが嫌いなんだ。どうせ起きるならハンデを与えた方が良い。あー何か気分がアンダーになってきた。かったるいな。でも、アンダーな気分が良いんだよな」
ラメゲが言った。そして起きあがった。
「それはゼッテー、不味いクスリだよ。おまえ、それは睡眠薬じゃねぇよ。ちゃんとした医者に相談しろよ」
スカイはフラついているラメゲに言った。
ラメゲは口に手を当てて吐きそうな顔をしながらソファに手をやって剣を探った。
ラメゲは剣を束ねているベルトを引っ張った。
十本ある剣は全て一つのベルトで結びつけられていた。
そして背中に背負った。そしてベルトのバックルで留めた。そして背筋を伸ばした。
「俺は、今はオヤジに舎弟として仕えているが。いずれボルコ男爵家の家督を譲られる男だ。逃げるなら今の内だぞ。うー気分悪いー。あー効いてきた」
だが直ぐに背中を曲げて、ラメゲは口を押さえてフラついた。
「不味いよアイツ。何か別の意味で不味そうだよ」
スカイはマグギャランに言った。
「スカイ。ここは俺に任せろ。俺の剣術の真の力を見せてやる」
マグギャランは剣を振りかぶって構えた。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道