ダンジョニアン男爵の迷宮競技
ルル・ガーテンがケロリとした顔で言った。そして腕をブンブンと振り回して足を伸ばして体操を始めた。
「たっぷり眠って起きた時みたいに気持ちがいいよ」
ルルは両腕をグルグルと回していた。
「さっきまで調子の悪さがウソみたいピロピロピロピロ」
ルル・ガーテンはケロリとした顔で言った。爪先立ちで立って、鳥の真似をして両腕を振っていた。
そしてコロンは、もう一個の薬も調合を終えた。
コロンは薬の瓶らしい物をルル・ガーテンに渡した。
「これがバタリの解毒剤なの」
ルル・ガーテンは言った。
コロンは頷いた。
「なかなかやるじゃない。たった3人で、この第三ゾーンまで来るなんて。私達のようにダンジョニアンは手加減をしていないのでしょ」
眼鏡を掛けた娘が腕を組んで前に出てきて言った。そして続けた。
「あんた気に入ったわ。頭が切れる様ね」
何故か余裕こいている顔で言った。
「御免、俺はロリコンではないのだ。いきなり愛の告白をされても…」
マグギャランが手を出して謝りながら言った。
「しっ!お前じゃない。お前は頭を使わずに下半身で考えている!さっきサファお姉さんにナンパしようとして怒られただろう」
眼鏡を掛けた娘がマグギャランを手で追い払った。
「えっ、俺じゃないの?」
マグギャランは、しょぼくれた声で言った。
「…あちゃしはダメ…」
コロンは顔を赤らめて首を振っていた。
「そこの魔術師コロン!お前は何を考えている!私がレズに見えるか!」
コロンに怒って、コロンの肩を持ってぐりぐりと揺する眼鏡娘。コロンより背は高いようだ。
コロン姉ちゃん小さいからな。
クネクネと揺れるコロン。
「このコンニャク魔術師め!」
眼鏡娘はグリグリとコロンの頭の両側を拳骨で押さえて、更に拳骨をねじ込んでいた。
コロンはキョロキョロと第一パーティ「ルルと仲間達」を見ている。そして顔を赤らめて俯いた。
ヤマト人の娘が、ルルの手を握っていた。
確かにコロンの懸念も若干当たっているよな。女しか居ないのが怪しいよな。
とスカイは思った。
「あなたよ、スカイ・ザ・ワイドハート」
眼鏡娘が指をスカイに突きつけた。
えっ?俺か?
確かに消去法で考えたら俺しかいないよな。
横を向いていたスカイは指を突きつけられて動揺した。
「私の名前はウロン・ケサン、フラクター選帝国の一級市民の娘。この迷宮競技が終わったら私と付き合いなさい!」
ウロンは腰に手を当てて指を突きつけてスカイに言った。
は?
「どうやら、いきなりの愛の告白で驚いているようね。でも、私、かなりの美人だから」
ウロンは、眼鏡を取ってグルグルと巻いている茶色に近い金髪の巻き毛を解いた。
「どう?」
ウロンは言った。
うえっ。女は化けるモノだ。
確かに目が少し大きいが美人顔だった。
「やっぱり俺ではないのかね…あと5年後と言うことで先物取引をしよう」
手を挙げて呆然としているマグギャラン。
ウロンは見向きもせずに、しっしっと手でマグギャランを追いやっていた。
「ところで、コロンとか言ったわね。あなたスカイの何なの」
ウロンがコロンを指さしながら言った。
コロンはキョロキョロして赤くなった。
「コロンは俺の姉ちゃんだ。コロンは話すのが苦手なんだ」
スカイは言った。
「何だ。お姉さんなんだ。確かにそう言われれば斜め後ろから見た顔の輪郭が似ているわね。お姉さんに許可貰った方が良いのかな。さっきの絆創膏は効いたわよ。直ぐに傷口が塞がったわ」
コロンと握手をするウロン。
コロンは顔を赤くしてキョロキョロしている。
「すごーい。ウロンちゃんって何時も腕組んでカッコつけている所しか見たこと無いのに今日は変だよ」
ルル・ガーテンが言った。
「ウロン。何やっているの。恥ずかしい。切るわよ」
東方人の娘が顔を赤くして、腰の赤い鞘の剣を抜きはなって言った。
「なんだよ刃物女が友達かよ」
スカイは東方人の娘を見ながら言った。
「楚宇那、服の切れ目が見えるわよ」
ウロンが眼鏡を上げて位置を直しながら意地の悪そうな顔で言った。
「えっ」
東方人の娘は慌ててマントを合わせた。
手に持っていた剣が落ちた。
「何処かで見たこと在るんだけど誰だっけ。そこの、お兄さん…確かに見たことがあるんだけどな」
ルル・ガーテンが天井を見ながら顎に人差し指を当てて言った。
やっぱりマグギャランの存在感とは、その程度の物なのかもしれない。
マグギャランはスカーフで口元を隠しながら手を振って、見ないでとルル・ガーテンにリアクションをやっていた。
コロンはリュックサックに荷物をしまった。
そして歩いていった。
「コロン、医者でも薬剤師でも無いのに非合法の薬を作るなよ。最近は医薬分業だし違法なんだろ」
スカイは言った。
コロンがムッとした顔をして、ボケットから赤い財布を取りだして金属製のカードを二枚、取り出した。
スカイとマグギャランは見た。
そこには、ミドルン王国が発行した薬剤師の免許が在った。コロナ・プロミネンスと刻印されている。もう一枚も見てみた。錬金術師組合が発行しているコモン共通の魔術の薬製造免許だ。それも一番位が高い第一種だ。
「薬剤師免許?なんで薬屋にならないんだよ。魔術の薬を製造する為の錬金術士免許まで持っているじゃないか」
スカイは怪訝な顔で言った。
「確かに、冒険屋よりは安定しているし儲かるかもしれないな」
マグギャランは顎に手を当てながら考えていた。
コロンは前を向いて無言のまま歩いていた。
「ムニィ」
ニャコが目を開けた。
「あっ、ニャコちゃん大丈夫?」
ルルが言った。
「ムニィ、さっきまでの苦しさがウソみたいムニィ」
ニャコは目を開けると、そう言った。目の下に出来ていた隈が見る見るうちに消えていった。肌の色も、いつもの様に戻っていった。
「薬が効いたのね」
ウロンが言った。
メルプルは涙が、溢れてきた。
よかった。
「なんじゃコレは」
スカイは広間を見ていた。
それは激しい戦闘の後であった。
鳥人は全身がバラバラの方向へ向いていた。
忍者が全身に穴が開いていた。
狼男は両腕両足が無くなって首が無くなって胴体が半分になっていた。だが狼男の生命力なのか、胴体が、まだピクピクと動いていた。
竜人は首が無かった。
「うむ、何らかの激しい戦闘が在ったようではある」
マグギャランも頷いて言った。
「いやあ、危なかったね。第七パーティが来る直前に始末できたよ」
ダンジョニアン男爵はアイスを食べながら言った。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道