ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「コロンは懐中電灯の魔術と、ライターの魔術以外に魔術は使えないはずだ。どうなっているんだ。魔術師は魔術を一つ覚えるのに長い時間を掛けなくてはならない」
マグギャランが言った。
「ガキの頃から何を考えているのか、イマイチ判らん姉貴だったが。取りあえず勝ったんだから文句ねぇだろうマグギャラン」
スカイは言った。
「まあ、それもそうだな。俺達は、ここで順位を大幅に上げることが出来て、上位4グループに入ることが出来る訳だ。一位を狙って借金の全額返済を考えている以上、文句無しの結果だな」
マグギャランは言った。
寝そべっていたシキールは立ち上がった。
「はい、前座試合は終わりました。退屈でしたね。盛り上がりに欠けましたね。ですが、皆さん。今度は楽しめる試合を用意しています。なんと、皆様が賭けている一番人気の「モンスターレイジ」と二番人気の「黒鷹」が激突するのです!ガチンコ頂上決戦の始まりです!これは負けた方は30分という大きなタイムロスを被ってしまう重要な戦いです!このバトルで順位が決まると言っても過言ではない重要なバトルとなります!皆さんの賭け券がクズになるかプラチナペーパーと化すかの分かれ道なのです!盛り上がって下さい!燃えて下さい!さあ、幸運の女神が微笑むのはどっちだ!」
シキールは叫びながら司会を開始した。今まで寝そべって司会をやっていたのだ。
観客席から拍手とブーイングが入り混じってスタジアムに鳴り響いている。
シキールの頭上の巨大テレビではクジを引いている「黒鷹」達とフラクターの怪物達が映し出されている。
「おー我らのフラクター元老院専属特殊任務班の、ご登場ッスね。今度は余裕で読める試合ッス。フラクターの勝ちッスね」
「相手は山脈と少しの平地しかない貧乏国スロプ王国のパーティのようです。身内びいきじゃなくてもフラクターの勝ちですよ」
隣の娘達は胡乱な事を言っていた。
「それでは、作戦を説明する。我々は、この試合は全員、負ける事にする」
黒鷹が言った。
「嫌ですよ」
ジーウーは言った。
そんなこと嫌に決まっていた。
武覇山は最強の武術で負けることは許され無いのだ。
「フラクター選帝国の相手達は高レベルのパーティのようだ。我々は一対一で戦っては勝ち目に乏しい。我々は、素早く負けることによってタイムロスの時間を出来る限り短くする」
黒鷹は言った。
「確かに、あんな巨大な剣を持っている怪力の竜人族の相手はゴメンだ。俺のハルバード(斧槍)では勝てないな」
戦士のトトン・マーレーが言った。
「こっちも同じだ。二連クロスボウがメインウェポンの俺では、あの怪物達の相手は無理だ」
スカウトのクア・フルトが言った。
「ジーウー、納得してくれ」
黒鷹は言った。
「俺は、戦いますよ」
ジーウーは言った。
「ジーウー、常識で考えて下さい。彼等はフラクター選帝国からの選りすぐりの戦闘のプロ達です。まともに一対一で戦って勝てる相手では在りませんよ」
フラーが言った。
「武覇山の拳術家は負ける事は許されないんです」
ジーウーは言った。
これは絶対だった。昨日のスカイとの立ち回りは、じっちゃんが止めに入ったから、止めたのだ。決して引き分けではなかった。
試合は進んでいった。だが、黒鷹側のトトン、フラー、クア・フルトは全て、降参していた。毒で動く事の出来ないキュピンさんも参加しなければならなかったが、相手の竜人族の騎士がキュピンさんを運んで階段の上に置いてくれた。これでキュピンさんは場外負けとなった。
ジーウーは武闘台の上に昇っていった。
ジーウーは、こんな試合は嫌だった。仮にも神聖な武闘台に上るので在れば、全力で戦わなければならなかった。
それが武覇山の拳士の証だった。
ジーウーはフラクター選帝国の狼男メレール・パレと対峙した。
メレール・パレは黙っていた。
ジーウーは構えた。
「それでは、第五試合です。今度は、どうなるのでしょうか。バトルが在るのでしょうか。既に「モンスターレイジ」の勝ち越しは決まり消化試合となってしまいましたが、余りにも盛り上がりません。バトル・クジ第5回戦のスタートです。掛け率はメレール・パレ6、シー・ジーウー3です。それではバトル5!ファイト!」
シキールの絶叫と共にゴングが鳴らされた。
「降参する」
メレール・パレは言った。
「ああっと、今度はフラクター選帝国のメレール・パレが降参しました!シー・ジーウーWON!」
シキールが叫んだ。
「何故、戦わないんだ!」
ジーウーは叫んだ。
「オマエ達の作戦は判っている。俺が戦っても意味は無い、既に四たてで我々「モンスターレイジ」の勝ち越しは決定している」
メレール・パレは言った。
「逃げるのか」
ジーウーはメレール・パレに言った。
「そうだ。我々は一位通過によって、フラクター選帝国の威信をコモン全土に知らしめ、ダンジョニアン男爵を殺すことが目的だ」
メレール・パレは言った。
「その為には、ここで負けるのは、まずいんじゃないか」
ジーウーは試合は終わっていたが挑発した。
こんな勝ち方はジーウーの望みではなかった。
「言ったはずだ。我々は一位通過が出来れば良い。過程は関係ない」
メレール・パレは武闘台から降りていった。
スカイ達が奇妙な作りのダンジョンで迷っていると第一パーティと遭遇した。
「あのう、薬を持っていませんか」
第一パーティのルル・ガーテンがフラフラと近寄ってきて言った。
「おい、オレ達、薬なんか持っているか?」
スカイはマグギャランを見た。
「いや、お前のサプリメントと酒ぐらいだろう。俺は剣一本と水筒しか持っていない」
マグギャランは言った。
ドンドンと鈍い音がした。
スカイは振り向くと、コロンが杖を持った右手で胸を叩いている。
「何だコロン?唾を飲み込み損なって気管支にでも入ったか?あれは苦しいからな。それともゴリラの真似か?」
マグギャランが言った。
コロンは首を横に振っていた。
「え、薬を持って居るんですか?」
ルル・ガーテンは青い顔をしながら近寄って来てコロンの両手を握って振って言った。
コロンは、しゃがみ込んで赤い巾着袋を赤いDパックから取りだした。ジャラ・ジャラと振っている。
「何だ、それは?二日酔いの酔い止めは薬じゃないだろう?酔っ払いの常備品だ」
スカイは言った。
コロンは、二十センチぐらいの小さい黒板をDパックから取りだして白墨で書いた。
『全部、コロンが作った薬』
コロンは小さい黒板をスカイ達に見せた。
「何、低レベル魔術師のコロンが作った薬か。信用できないな。魔術師は魔術の薬を作れる奴も居るがコロンは専門じゃないだろう」
マグギャランは腕を組んでいた。
コロンは頷いていた。
さすがコロン姉ちゃんだ、どっか外れている。専門じゃないのに薬作って渡すなよ。ゼッテー薬事法違反だよ。
スカイは思った。
「薬を持っているのですか」
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道