ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「おい、スカイ、オレが勝ったんだから、お前も勝てよ。奴等が仲間を殺したことは気にするな、奴等は自分達で勝手に殺し合っているだけだ。キレれば強くなると思っているだけの連中だ」
マグギャランは剣に付いた血を拭って鞘にしまいながらスカイに言った。
テホーがスカイの前にやって来た。
「戦斧隊は混沌の大地の亜人類とコモンからの反タビヲン王国を支持する義勇兵から構成される戦士部隊だ。オレも沿海岸州連合王国の港町ボルートの戦斧隊募集所に行って入隊した。元はイシサ聖王国の人間だ」
よく見るとスカイと同じぐらいの身長のテホーが言った。それにしてもスゴイ筋肉の量だ。スカイは近くで見たテホーの筋肉量に圧倒されていた。背が低いが筋肉は全身に異常に付いていた。筋肉ダルマと言う感じであった。
「おい、あんちゃん。オレは今までの人生で人間を殺したことはねぇ。だから、あんちゃんも殺したくはねぇんだ。勝負方法は武器を使わずに素手で決着を付けようじゃねぇか?」
スカイはテホーに言った。
これはナイフしか持っていないスカイの考え出した苦肉の策でもあった。
「何だと、また場外で勝とうという気か」
テホーが言った。
「ああ、そうだよ」
スカイは言った。
他に勝てる見込みはねぇよな。
スカイは思った。
ナイフで隙を見てテホーの首を切れば勝てるかもしれないが。それはスカイの、やり方ではなかった。
「無理だな。戦斧隊は既に一敗を喫している。だから、この試合は百二十%勝たなくてはならない。負ける要因を自分から作ることは無い。俺は第13戦斧小隊の小隊長だ」
テホーが言った。
「何だよ、素手じゃ勝てる自信が無いのかよ」
スカイは挑発した。
「挑発には乗らん」
テホーが言った。
「面白くねぇな」
スカイは言った。
本当に面白くなかった。
テホーは場外負けを警戒し来るのは間違いない。だが、スカイは人殺しをしたくないから場外負けを狙わなくてはならない。
しかも相手はスカイを巨大な戦斧で殴り殺す気で居る。酷いハンデマッチだ。
まあいいや、バレているならバレているなりの、やり方を考えればいいや。スカイは思った。
「双方がトークバトルを戦わせた後に、バトル・クジ第2回戦のスタートです。掛け率はテホー5にスカイ1です。それではバトル2!ファイト!」
シキールがゴングを鳴らした。
「戦斧技!徒然カキツバタ!」
テホーが絶叫した。
そして戦斧をグルグルと振り回して身体を高速回転し始めた。戦斧の重みを利用した回転攻撃だ。砲丸投げやハンマー投げの投擲フォームにも似ている。
目が回るだろう普通。
スカイは横に飛び退きながら思った。
そして武闘台の端へと走っていった。
最初から相手が、こちらの狙いを判っている以上小細工は時間の無駄だった。堂々とこっちの狙い通りに動いた方が良いに決まっている。
テホーは戦斧の回転を止めた。
フラフラしている。
目回っているんじゃねぇよ。
スカイは思った。
「こっち来いよ!」
スカイは武闘台の端で両手で挑発しながら言った。
「その手に乗るか!武闘台の端に誘き寄せて場外負けを狙うのであろう!」
テホーが叫んだ。
「バーカ。俺が逃げ回っていると、時間ばかりが経過していく事になる。その無駄な時間は、お前達の第3パーティ「戦斧隊」のタイムロスに繋がるわけだ」
スカイは武闘台の端で笑いながら挑発した。
「何だと!だが!タイムロスは!お前達も同じだ!」
テホーが叫んだ。
「オレ達はタイムロスをしても構わねぇ。オレ達は間違えてダンジョン競技に参加してしまったんだ。クリアーさえ出来れば問題はねぇよ。だがオマエ達はタイムロスをすると一位にはなれねぇな」
スカイは腕を組んだまま言った。
本当はスカイ達も借金の全額返済の為に一位を狙っている以上タイムロスを、したくはなかったが他に方法が無かった。
「ええい!戦斧技!徒然カキツバタ!」
テホーが戦斧をグルグルと回してスカイに近づいてきた。
あの戦斧は当たれば一撃で死ぬ、危険な戦斧だ。
スカイはテホーが近づいてくるのを待った。
一撃で決めるぜ。
スカイは武闘台の端に足を置いたまま覚悟を決めた。テホーは筋肉の量が多い以外、スカイと同じぐらいの背丈だ。リーチは短い。だが、そのリーチの短さを補う為なのか、戦斧の端を持って回転している。戦斧がスカイに接触する距離まで来た。
「うおりゃぁ!」
スカイは足から飛び込んで、テホーの脛にスラディングしてカニばさみを掛けた。
テホーはスカイのカニばさみでグルグルと回転する軸足を挟まれてバランスを崩した。
「何だと!」
テホーはグルグルと回転したまま場外へとすっ飛んでいった。
「よっしゃぁ!」
スカイは腕を挙げて叫んだ。
「テホー選手は場外に出てしまいました!第二バトル!スカイ・ザ・ワイドハートWON!」
シキールのアナウンスが入ってきた。
「よし、スカイ。これで俺達の二勝で勝ち越しは決定だ。コロンが負けても俺達の勝ちで間違いない」
マグギャランは拍手して頷きながら言った。
「またなのか!何で俺達戦斧隊は勝てないんだ!負け組のままなんだ!何で混沌の大地はタビヲン王国に征服されたんだ!」
テホーの叫び声が上がった。
戦斧隊のメンバーは皆、泣き始めた。
「さあ、残っちゃいました。岩巨人VS眼鏡のチビ女の戦いです。もう第7パーティの勝ち越しは決定していますが。賭の行方は、まだ、判りません。この寂しいメンツに掛けている奇特な御仁達には感謝します」
シキールが言った。
「コロン、大声でギブ・アップと言えるか?」
スカイは言った。
コロンは顔を赤くして首を横に振った。どうやらテレビカメラに写されて上がっているようだった。
「不味いな、単純にギブ・アップをすれば。俺達の勝ち越しは間違い無いのだが。コロンには、それが難しいようだな。また酒でも飲ますか?」
マグギャランは言った。
「酒は切れて居るんだよ。とにかく走って場外に出て負けて来いよ」
スカイは言った。
コロンは、ぎこちない足取りで武闘台の上に昇っていった。
「大丈夫かコロン姉ちゃん」
だが、コロンは、ぎこちない足取りで武闘台の上を歩いて行った。
「双方がトークバトルを戦わせた後に、バトル・クジ第3回戦のスタートです。掛け率はウゴル30にコロン1です。それではバトル3!ファイト!」
シキールのアナウンスが入った。
「俯きヒナゲシ!」
ウゴルは戦斧を両腕で大上段に振りかぶった。
コロンが杖の柄で武闘台を叩いた。
するとウゴルは戦斧を構えた姿勢のまま武闘台の石畳が炎を吹き出して外れてそれに乗って飛んでいった。そして場外に落ちた。
なんだありゃ?
魔術なのか?
まあ、いいや。
「うっしゃ!三たてで勝ったぞ!」
スカイは腕を振り上げた。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道