ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「おい、人間。死にたくなければ試合開始と共に降参しろ。そうすれば命までは奪わん」
ギガテラが無表情のまま言った。
「断る。オレも闇賭博専門のチャンネルとはいえテレビに映っている以上、体裁というモノがあるのだ。しかも、このゲームには知り合いが二人も参加しているし、体裁的には負けるわけにはいかん」
マグギャランは、うろたえた顔でチラチラと赤い水着のバニーガールが肩に担いでいるテレビカメラの方を見ながら言った。
「ならば、貴様は、ここで死ぬ」
ギガテラは無表情のまま言った。
「双方がトークバトルを戦わせた後に、バトル・クジ第1回戦のスタートです。掛け率はギガテラ8にマグギャラン3です。それではバトル1!ファイト!」
シキールの声と共にゴングが鳴らされた。
マグギャランは剣を構えたまま巨人族のギガテラと向かい合っていた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!戦斧技!乱れサザンカ!」
ギガテラが絶叫しながら戦斧を滅茶苦茶に振り回した。
いや、よく見ると巨大な戦斧を身体の回りでグルグルと高速回転させているのだ。
コレではマグギャランは戦斧をどっかで受けてしまう。
どうするマグギャラン。
コイツは外見以上に素早い攻撃を繰り出して来るぜ。
しかも3メートル近くの筋肉粒々の巨体から繰り出す巨大な戦斧の攻撃は一発でも当たれば即死は間違いない威力だ。
マグギャランは剣で受けるわけにもいけないし、避けきれる速さでもない。
マグギャランは後ろに跳んだ。
ギガテラが戦斧を回転させながら前に出た。
そして、マグギャランは前に飛び込みながら、剣の突きを繰り出した。
ギガテラの右手から戦斧が飛んでいった。
そして戦斧は場外に飛んでいって石の壁をえぐって石片を撒き散らして落ちた。
ギガテラは右手の手首を押さえた。
ギガテラの右手首からは血が噴き出していた。
マグギャランはギガテラの戦斧の打ち込む攻撃線を先読みしてギガテラの手首に突きを当てたのだ。
「降参するか。命までは奪わないぞ」
マグギャランはギガテラに剣を突きつけて言った。
「知っているか戦斧隊の戦斧戦士には降参など、あり得ない。突撃突貫し、戦えなくなれば自決在るのみだ。たとえ、四肢が無くなろうとも噛みつく歯が残っていれば敵に食らいつき一矢報いるのが戦斧隊の戦斧戦士の在り方であり生き様だ」
ギガテラが無表情のまま頭のバンダナを取り外して言った。
「バカじゃないのか。生きていればこそ美人の、お姉ちゃんと出会えるというのにな。根性で何とかなるなら、混沌の大地はタビヲン王国に併合なんかされんだろう。お前等は安っぽい根性だけは筋肉と同じぐらいに沢山持っているみたいだからな」
マグギャランは動揺した顔で言った。
何、動揺して居るんだよ。
スカイは思った。
ギガテラはバンダナで自分の右手首を縛った。そして止血をした。
「素手でも貴様を倒し、戦斧隊の栄光の為に一勝を勝ち取る。この二トンをジャークで揚げる腕力と筋肉で貴様を粉砕してくれる」
ギガテラは両腕の拳を振りかぶった。
「ふん、武器が無くては勝てないな。どんなに筋肉を固めても刃物で切れば切れるんだよ」
マグギャランは剣を構えた。
「うおりゃああああああああ!」
ギガテラが叫んでマグギャランに突進していった。
「死に急ぐバカが!」
マグギャランは突きを繰り出した。
ギガテラは右腕でマグギャランの突きを受けた。
そして、ギガテラは巨大な左拳でマグギャランを殴りつけた。
マグギャランは剣をギガテラの腕から引き抜いて後ろに跳んでしゃがみ込みながら、かわした。
ギガテラは両腕で突進しながら連続して殴りつけた。
だが、マグギャランは後ろに跳び続けて逃げ続けながらカウンターの剣の突きを出した。ギガテラの腕や下半身が傷だらけになった。だが、どれも致命傷にはならなかった。
「おい!マグギャラン!後ろ!後ろだよ!場外に追い込まれて居るぞ!」
スカイはマグギャランに叫んだ。
マグギャランは、いつの間にか武闘台の端に追い込まれていた。
「うおおおおおおおおお!」
ギガテラは腕を広げて前屈みになって突進してきた。
あの体格で、ぶちかましを食らわせてマグギャランを場外に吹き飛ばすつもりだ。
あの巨体で両腕を広げられたら避けようが無い。
マグギャランは横に跳びながら剣の突きを連続して打ち込んだ。
「何ぬ!」
ギガテラが叫びながら身体が前のめりになった。
マグギャランはギガテラの両膝に剣の突きを打ち込んだのだ。
靱帯を切られてバランスを崩したギガテラの腕を避けてマグギャランはギガテラの後ろに回り込んだ。
そして片腕でギガテラを押した。
だが押すまでもなかった。ギガテラは膝からガクンと前のめりになって武闘台から落ちていった。靱帯を破壊された両膝では、あの三メートルある巨大な体格を支えられなかったのだ。
「これで良いんだろスカイ。お前は人殺しが嫌いだからな。あいつはモンスターではあるが」
マグギャランは剣の血糊を、ハンカチで拭きながら武闘台の上を歩いてスカイとコロンの前まで来て言った。
「何だよ、ヒヤヒヤさせるなよ」
スカイは言った。
「ギガテラ選手は場外に出てしまいました!第一バトル!マグギャランWON!」
シキールの絶叫が響いた。
「オレは両膝が動かなくて戦えない!オレを殺してくれテホー!」
ギガテラが叫び声を上げた。
「判った今、楽にしてやる」
人間の戦斧戦士のテホーが六十九キロぐらいある巨大な戦斧を持って言った。その後を残りの戦斧戦士達が続いて歩いていく。
そしてギガテラの回りに集まった。
「やめろ!テメェ等の仲間だろ!」
スカイは叫んだ。
正気か?コイツ等自分達の仲間を殺すのか?
「戦斧天国どうぞ」
戦斧隊の戦斧戦士達が一斉に斧を振り上げて言った。
「戦斧天国ラジャー」
ギガテラが言った。
「戦斧殺!」
そして掲げられた戦斧は叫び声と共に一斉に振り下ろされた。
血が飛び散った。
スカイは飛び出して武闘台の中程まで走って行ったが戦斧隊の連中はギガテラの首を戦斧で刎ねて殺してしまった。
「戦斧〜♪戦斧〜♪戦斧天国へ強者は旅立つ〜♪戦斧天国良いところ〜♪」
そして、戦斧隊の奴等は、おかしな歌を歌い始めた。
そして血染めの戦斧を振り上げている。
イカレている。
コイツラまともじゃねぇ。
スカイは武闘台の上で呆然とした。
「これが暗黒王国タビヲンと戦う戦斧隊の戦い方なのだ。残虐非道な暗黒王国タビヲンに捕まれば、死ぬより酷い拷問に掛けられてから殺される。だから戦えなくなった兵士には安楽死を与えるのが戦斧隊の情けだ。このダンジョンの中は戦斧隊の戦う戦場なのだ」
血の付いた戦斧を持って人間の戦斧戦士テホーが武闘台に上がってきて言った。白い腰布には飛び散った鮮血が付いている。
「そんな情けなんか在る物かよ!」
スカイは叫んだ。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道