ダンジョニアン男爵の迷宮競技
嘘だ。絶対嘘だ。
仕方がない。どこまでバーリー・ゾーダー相手に通用するか判らないが、イガ玉植物や、バカ豆や眠り草を使って戦うしかない。
メルプルは強力液化、化学肥料の入った噴霧器を物置カバンの中から取りだした。そして試験管の中に入れたバカ豆の種を取りだした。
試合開始の前だが仕方がない。レリキ・ヨツやゴフ・ハベと同じように先に有利な状況を仕込んで作るしか、勝つための道は無かった。
あんな悪党達と同じ事をしている自分が悲しかった。
バカ豆の種を、こっそりと武闘台の床に落とした。一個、二個…さてと六個ぐらい植えれば良いかな。黒いブーツの尖った爪先でバカ豆の種を転がした。そして噴霧器でシュッと一吹きした。そして試験管に入った眠り草の種にも強力液化、化学肥料を噴霧器で一吹きした。
試験管から急速に眠り草が成長を開始する。
メルプルは育って二メートル近くに育ったバカ豆を数えた。六個全部が上手く育った。本当は、この植物魔術の強力液化,化学肥料「デカナル」を使うと植物が大きくなる代わりに次の世代に奇形化が進むため使ってはいけないんだけど。あと種が巨大化し過ぎる為、発芽能力が無くなってしまう場合も、あるのだ。でも今は戦闘用に使わなくてはならない。コレは森人族秘伝の戦いに使う植物魔術の薬なのだ。
「あーっとメルプル選手、試合開始前に何か、おかしな植物を育てています。ルール違反です」
シキールが、押し殺した笑い声で言った。
「ルール違反じゃないわよ。コレは武器なのよ、武器を用意しているだけじゃない。私の武器は植物なのよ。武器の持ち込みは許可されるのでしょ」
メルプルは言った。
「メルプル選手は屁理屈を、こねました。
でも、試合を面白く、しそうだからレフリーの権限で許可します」
シキールは笑いながら言った。
これはウソだ。
後はバカ豆を弾けさせて発射するだけだ。
つまり罠を仕掛けたのだ。
「おい、そこの尖った耳の娘」
バーリー・ゾーダーは巨大な金棒を突きつけて言った。
「はい、なんでしょうか」
メルプルは、取りあえず卑屈に出た。
バーリー・ゾーダーは無茶苦茶危険に見える。単純に怖かった。
「サシシ・ラーキー様の、言葉によれば、お前は貴族なんだな。貴族は、この暴走山賊団「闇の腕」の首領。バーリー・ゾーダーが殺す。バーリー・ゾーダーは貴族や偽善的な大人達を金棒で殴り殺す正義の味方!義賊なのだ!頭蓋骨を、この金棒で、かち割って、やる。女だからって容赦はしないぞ!小娘だからと言って見逃しもせん!挽肉になるまで金棒で殴りまくる!」
バーリー・ゾーダーは金棒でフル・スイングを始めた。
まずい、殺す気だ!
どうしよう!
あせって後ろを見た。
楚宇那とウロンが、じーっとメルプルを見ている。
サファお姉さんは頭を押さえて居る。
楚宇那とウロンに何か言って!
ルルは情けない顔をして、お腹を押さえてこっちを見ている。
駄目だ。
誰も助けてくれない。
「メルプル!何、戦おうとしているの!あなたは降参しなくちゃ駄目よ!弱いんだから!」
楚宇那が叫び声が耳に入ってきた。
ウソだ、絶対ウソだ。
「それではバトル・クジ第五回戦のスタートです。掛け率はメルプル・シルフィード1にバーリー・ゾーダー20です。それではバトル5!ファイト!」
シキールが叫んだ。
「暴走特急金棒雨霰!」
バーリー・ゾーダーが鉄の金棒をブンブンと振り回して突進してきた。
「いけぇ!」
メルプルはバカ豆を発射した。鞘から弾けて八十センチぐらい在るバカ豆が三つバーリー・ゾーダーに向かって飛んでいった。
1つがバーリー・ゾーダーの顔面に命中した。バカ豆はバーリー・ゾーダーの突進を止めた。
「ええい、猪口才な!」
バーリー・ゾーダーが鼻血を垂らして顔を押さえて叫んだ。なんて頑丈なの!バカ豆の直撃を食らったのに!
「メルプル!何、戦っているの!早く今のうちに場外に逃げなさい!」
楚宇那が叫んだ。
「早く降参しろ!」
ウロンが叫んだ。
メルプルは「眠り草」の入った試験管を取りだした。そして「眠りの香り」をバーリー・ゾーダーに向けて吹き付けた。
「何だ、この匂いは、眠くなってきた」
バーリー・ゾーダーの凶暴そうな顔がトロンとしてきた。
メルプルはイガ玉植物が入った試験管を取りだした。そしてコルク栓を開けてバーリー・ゾーダーに向かって投げつけた。
イガ玉植物は空中で水分を吸ってドンドンと大きくなっていった。そして直径が3メートルぐらいの巨大な塊となった。
よし!直撃させれば場外に吹き飛ばせる!
メルプルは勝機を感じた。
「闇の腕!」
トロンとしているバーリー・ゾーダーが叫ぶと左腕から歯が沢山生えた巨大な口が出てきた。
な、何コレ?
メルプルは硬直した。
バーリー・ゾーダーの左腕から出てきた巨大な口を持った奇怪な生き物がイガ玉植物に噛みついた。直径3メートルのイガ玉植物より更に巨大な口だった。
「ヒマージの一部を奪った暴走山賊団「闇の腕」の、闇の腕を見くびるなよ」
バーリー・ゾーダーは言った。そしてメルプルのイガ玉植物を巨大な怪物の顎で、かみ砕いた。
メルプルは硬直したまま身体が動かなかった。
バーリー・ゾーダーは他にも巨大なミミズの様な生き物を背中から出して自分の身体を噛みつかせている。
どうしょう!
「小細工を、しやがって。金棒で殴りまくって挽肉にしてやると言っているだろう」
バーリー・ゾーダーは右腕一本で金棒を振り上げた。
動けない!
メルプルは目の前が真っ暗になった。
「バーリー・ゾーダー!動くと心臓を撃つわよ!」
ウロンの声が聞こえた。
動けないメルプルの肩に後ろから手が掛かった。
「こっちに来なさいメルプル」
楚宇那が言った。そして楚宇那に抱えられて固まったまま引きずられていった。
「ルール違反だぞ!その貴族女は暴走山賊団「闇の腕」のボスが、金棒で殴って挽肉に変える!」
バーリー・ゾーダーが叫んだ。
「構わないわよ。どうせ私達の負けだから」
ウロンが言った。
「乱入です。乱入をしてます。えげつない反則です。美少女達なのにルール違反をしています。観衆達の夢を壊しています。でも、このシチュエーションは、美味しいので試合を続行します。ルールは今、私が決めます。メルプル・シルフィードが場外に脱出できれば敗北を認めましょうか」
シキールの笑い声が入ってきた。
「武闘台から降りるわよメルプル」
楚宇那が固まったままのメルプルを引きずりながら言った。
「逃がすか!纏めて、かみ砕く!」
そしてバーリー・ゾーダーの指が伸びて五本のムチのようになった。それぞれの指が蛇の様に動いていた。
人間じゃない!
そして生き物の様にしなった。
そして途中から固まって槍のように尖って伸びてきた。
刺さる!
メルプルの前にサファお姉さんが立っていた。
そして剣を振るった。
五本の槍は止められたみたいだった。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道