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ダンジョニアン男爵の迷宮競技

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そして姿勢を低くして片手で身体を支えながらゴフ・ハベの踵目がけて低い蹴りを放った。
だが、ゴフ・ハベは足を挙げて、かわした。
「ムニィ!アキレス腱切りをかわしたムニィ!」
ニャコはフラフラしながら言った。
「どうやら君は体格の小ささをカバーするために足の急所である脛やアキレス腱を狙って攻めてくるようだね。でもね僕も格闘家なのだよ。一回掛かれば二度目は用心するから食らわないよ」
 ゴフ・ハベが言った。
 「ふん!これを食らうムニィ!」
 ニャコは駆けていってゴフ・ハベの前で後方へ回るように蹴りを出した。サマーソルトキックだ。だが、いつものような技のキレがなかった。動きが鈍くなっていた。きっとバタリを吸ってしまったからだ。
 ゴフ・ハベは顎を守るように両腕を組み合わせてニャコのサマーソルトキックを防御した。そしてニャコの右足を空中で掴んだ。
「ムニィ!」
 そして暴れるニャコの左足を掴んだ。
 ニャコはゴフ・ハベに両足を掴まれて宙吊りになった。
「捕まえたよ。さあウォリャ殺投術の殺人三連投げコンボ「血だらみ」のスタートだ。第1段はパワーボムから始まるが、今回は両足を持っているから強引にパワーボムを掛ける。君はボクが片腕の筋トレに使うダンベルよりも軽いじゃないか。ボクはベンチプレスで401・25キロを上げることが出来るんだ」
 ニャコの両足を持ったままニャコの身体をゴフ・ハベは自分の頭より高く振り上げた。
そのままパワーボムで頭から石畳で覆われた武闘台にたたきつけるつもりだ。
ニャコ危ない!
 殺される!
 メルプルは心の中で叫んだ。
あんなに振りかぶって石畳の武闘台に頭から叩き付けられたらニャコは死んでしまう。
「ムニィ!」
ニャコは身体がゴフ・ハベの頭より高角度で持ち上げられた時に、身体を空中で前に曲げながら足を曲げてナックル・ガードから鉤爪を出してゴフ・ハベの背中に引っかけた。
 ゴフ・ハベはニャコの身体を振り下ろした。その時にゴフ・ハベの背中から鮮血が迸った。
 「ぎゃあっ!」
 ゴフ・ハベから悲鳴が上がった。
 血の色は赤かった。
 一応、毒殺魔でも人間なんだ。
 メルプルは思った。
ゴフ・ハベはパワーボムの途中で手を離した。ニャコは空中で回転して着地した。
ニャコはフラついて膝を付いた。
 「許さないよ!ボクはボウヤなんだよ!許さないよ!ボクは自分が痛い目に遭うことや血を流すことは大嫌いなんだ!ボクが凶器を使うことは良くても敵が使うことは許さないんだよ!君は、どうして、そんな簡単な事も判らないんだ!」
ゴフ・ハベは叫びながら言った。
「目が見えないムニィ…血の気が引いてきたムニィ…息が苦しいムニィ…ギブ・アップ、ムニィ…」
 ニャコは急に両膝を付いたまま前に倒れながら言った。
 ニャコの白い尻尾が力無く垂れた。
「どうやらニャコ選手には猛毒バタリが効いてきた様です。ギブ・アップを宣言しました。第三バトル!ゴフ・ハベWON!」
 シキールが叫んだ。
「ギブ・アップだと、そんなことを許すと思うのかい?殺るよ、殺って殺る!ボクはボウヤだからさ!」
ゴフ・ハベは背中から血を垂らしながら落ちている水鉄砲を拾ってニャコに向けた。
だが、その水鉄砲の銃身が傾いた。
 銀色のワイヤーのような物が絡まっている。
サファお姉さんが銀色のワイヤーの端を持っていた。
「試合は終わったわよゴフ・ハベ」
 サファお姉さんが言った。
「ボクの試合は終わっていないのさ!そこの猫耳娘にボウヤの怖さを教えてやる!」
ゴフ・ハベは叫んだ。
 サシシ・ラーキが、武闘台の上に昇ってきた。そしてゴフ・ハベの前に立った。
 途端に叫んで暴れていたゴフ・ハベが大人しくなった。そして水鉄砲を手放して、しずしずと武闘台の階段を降りていった。
「楚宇那、メルプル。ニャコを武闘台から降ろして安静にして」
 サファお姉さんは言った。サファお姉さんが銀色のワイヤーを手元で操るとゴフ・ハベの水鉄砲が反対の方へ飛んでいった。
「行くわよ」
 楚宇那がメルプルに言った。
 メルプルはゴフ・ハベがバタリの入った水鉄砲を持っていた武闘台には上りたくなかったが。楚宇那の言葉には有無を言わせない強制力があった。
メルプルはウロンのマントを肩から羽織った楚宇那と共に武闘台に上ってニャコの肩を両手で支えて持ち上げた。
 ニャコは息はしていたが目の下にクマが出来て息が荒かった。
「メルプル、バタリの解毒剤は持っているの?」
 楚宇那が言った。
 「バタリの解毒剤なんて持っているはず無い」
 メルプルは弁解がましく言った。
 バタリの化学式なんか知っているはずはなかった。メルプルの母親が教えてくれた森人の植物魔術の本にも書いてあるとは思えなかった。
ニャコを楚宇那と二人で運んで武闘台から降ろした。
 みんな、メルプルのために、このダンジョン競技に参加したのだ。
 なのに、みんなを酷い目に遭わせてしまった。
 ニャコは猛毒のバタリを盛られてしまった。
死ぬかもしれない。
 どうしよう。
私のせいで友達が死んでしまう。
 メルプルは気持ちが沈んだ。
サシシ・ラーキは白い、たっぷりとした服の組み合わされた袖を伸ばし、白く細い手を服のドレープの付いた袖の間に入れた。右手に五十センチぐらいの長さの剣を持っていた。
「神官のくせに剣を振るうのか?」
サファ、お姉さんは腰の剣を抜きながら言った。
 そして人差し指と中指を二本前に出して腰を低くして構えた。
だがサシシ・ラーキは答えずに笑いを浮かべた。
「あなたは何故戦うのです」
サシシ・ラーキは笑みを浮かべながら言った。歌うような綺麗な声だ。そして剣を手放した。スルスルと袖の中から剣に繋がった幾つもの節に分かれた棒が落ちてきた。
 そしてサシシ・ラーキは棒の端を持つと振り回した。
 音がしてバラバラに分かれた棒達が一本に組み合わさって大鎌と化した。
「私が戦う理由は、この子達を守るためだ」
 サファお姉さんが言った。
 「どの子をですか。貴族の子か平民の子か?オレンジ色の髪の毛のルル・ガーテンは貴族。金髪に近い茶色い髪のウロン・ケサンは平民。プラチナ色の髪のメルプル・シルフィードは貴族。ピンク色の髪のニャコは平民。黒い髪の楚宇那は貴族。そしてサファ・ナリック、あなたは平民。どう、当たっているはずです。そしてあなたは、本当は社会階級という物に対して疑問があるのに自分に嘘を付いているのでしょう」
サシシ・ラーキは笑みを浮かべながら言った。
凄い…全部当たっている。メルプルは動揺した。何で判るのだろう。だが、微妙に変な気もした。ルルや楚宇那は、貴族といえば貴族なのだけど、実家が変わった家だったからだ。
「全部だ。そういう仕事だからだ」
「なんで、その仕事を受けたのですか。あなたは亡くした夫の事を忘れようとしているのでしょう。過去の思い出に浸りたかったのでしょう、もっと若い頃の華やいだ時代の思い出に」
サシシ・ラーキは笑みを浮かべて言った。