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ダンジョニアン男爵の迷宮競技

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そしてゴフ・ハベは試験管のようなガラスの器具を銃のような形をした機械に接続した。
 「殺してあげよう「殺しの秘文字」教の愛の世界へ飛び込んでおいで」
 ゴフ・ハベは憑かれたような顔をしていた。銃に付いているポンプの様な物をシュッシュッとしごいていた。
「それではトークバトルを戦わせた後に、バトル・クジ第三回戦のスタートです。掛け率はニャコ5にゴフ・ハベ4です。それではバトル3!ファイト!」
 シキールがゴングを鳴らした。
 ゴフ・ハベは、まだ銃に付いたポンプをシュッシュッとやっていた。
「チャンス、ムニィ!」
 ニャコは目を輝かせて片手を付いて前方に回転しながらゴフ・ハベの懐へ飛び込んだ。
 それは確かにチャンスだった。ゴフ・ハベは憑かれた顔でポンプをシュッシュッと、やっていたのだから。
姿勢を低くして回転しながら足払いを掛けてた。ゴフ・ハベの身体が傾いた。
 そしてニャコは更に低い姿勢からジャンプしながら胴回し回転蹴りをゴフ・ハベの顔面に放った。ニャコの踵がゴフ・ハベの顔面に突き刺さるように決まった。猫耳人は人間を越えた反射神経と筋肉を持っているのだ。
 メルプルはニャコの勝ちを確信した。
ゴフ・ハベは巨体を震わせて倒れたからだ。
「勝ったムニィ!」
 ニャコは両手を上げてジャンプしながら叫んだ。
 ゴフ・ハベの上着から何故かパンが幾つも落ちていた。ニャコは怪訝な顔をしてパンを一つ拾った。そして匂いを嗅いでいた。
「ムニィ?何故パンが落ちているムニィ?
キャス様は拾い食いを猫耳人の二十一条修正条項百五で禁じているムニィ。でも美味しそうなパンだ…ムニィ」
ニャコはパンを捨てて両足でジャンプして後ろを向いた。
「まだ、ゴフ・ハベは生きているわよ!注意してニャコ!」
 楚宇那が武闘台の端を叩いて言った。
「君は自分では気が付いていないけれど、生きている事が辛いから、他人に暴力を振るって言葉で傷つけているのだね。可哀想に、だったら僕が殺してあげよう。そうすれば君は誰も傷つけずに、君は幸せな、いい人になれる」
 ゴフ・ハベが横たわったまま言った。
 「ムニィ!ニャコは、いじめっ子じゃ無いムニィ!」
ニャコは振り向いた。
 「ムニィ!実にタフな奴ムニィ!ニャコの胴回し回転蹴りの直撃を受けて、まだ喋れるのか…」
だが、ゴフ・ハベは横たわったまま銃のような物を構えていた。
「ニャコ避けなさい!」
 サファお姉さんが叫んだ。
 「美味しいジュースだよ、お飲み。楽になれる万病を癒す神秘の薬だよ。死ねば、どんな病気でも治るんだ」
 ゴフ・ハベは引き金を引いた。
 銃のような形の物体から緑色の水が発射された。
「ムニィ!」
ニャコは飛んで避けた。
 だが水はニャコを追いかけて捕らえた。
 そう、水だった。
 あれは水鉄砲だったのだ。
しかも普通の水鉄砲より飛ぶ距離が長かった。十メートル近くも飛んでいった。
 きっと、あのポンプのような物で空気の圧力を上げて飛距離を伸ばしたに違いない。
「ムニィ!ムニィ!これは何ムニィ!ニャコの服がビショ!ビショ!ムニィ!」
ニャコは濡れたベストと半ズボンの服を見て叫んだ。
ゴフ・ハベは、ゆっくりと立ち上がり水鉄砲をニャコに向けた。
「それはね、猛毒のバタリなんだよ。僕はね、通り魔方式の毒殺で百三人を、この水鉄砲で殺したんだ。君は百四人目になる」
 ゴフ・ハベはニャコに毒入り水鉄砲を向けた。
「ムニィ!卑怯ムニィ!KOされたフリして不意打ちなんて許さない…ムニィ?」
 ニャコがフラフラし始めた。
「バタリはね。口から飲むと五秒で神経がやられて息が止まって死ぬ程の猛毒なんだ。でも肌からは吸収はしない。でもね、このバタリは直ぐに液体から状態変化を起こして気化するんだよ。その時、吸い込むと神経系がやられて身体がフラついたりするのさ。実は僕はパン職人なんだ。消化器系のガンが発生する発ガン潰瘍酵母をガン細胞から分離する事に成功して発明したんだ。そしてヒマージ王国の首都タイダーに、ある大規模チェーン店「パンナミーラ」という店でパンを作って売っていたんだね。でもね幾ら発ガン潰瘍酵母でパンを作って客をガンで殺しても手応えが感じられないんだよ。確かにウザイ客はガンで死んでいなくなる。でも、僕の焼くパンは美味しいからリピーターと口コミでやって来る新規のバカな客達には事欠かない。でも、手応えが無いんだよ。何かが足りなかったんだ。だからバタリを使った水鉄砲で闇討ちをして殺していたのさ。そして僕は満たされていた。これは今朝ボクが焼いたパンだけどね、普通のイースト菌しか使っていない自分達用の安全なパンさ」
 ゴフ・ハベは上着からパンを取りだして食べながら言った。
 「そんな話聞くとパンが食べられないムニィ。ク、クリームパンが怖いムニィ」
ニャコはフラフラしていた。
 ニャコはクリームパンが大好きなのだ。
 家庭科の実習でウロンが作った所えらく気に入ったらしい。
メルプルが作った森人の薬草パンは評判は悪かった。健康に良い食材は沢山入っていたのに。でもメルプルの舌には美味しく感じるのだが。ウロンのクリームパンは余りにも甘すぎるように思えた。
 「良いことを教えてあげよう。腕の良いパン職人は実は、みんな格闘家なんだよ」
ゴフ・ハベは言った。
 上着を脱ぐと筋肉が盛り上がった逆三角形の身体をしていた。そしてパンの入った裂けた紙袋が床に落ちた。
「お前、聞いていると無茶苦茶恵まれているムニィ。腕の良いパン職人で、お客さんが沢山いて何が不満で毒殺するかムニィ」
「僕がボウヤだからさ」
「意味不明ムニィ。でも楚宇那の勝ち点を加えればニャコが勝てば次のサファお姉さんの勝ちで三たて出来るムニィ」
 ニャコはフラつきながら言った。
 「僕は実は投げ系格闘技ウオリャ殺投術の使い手なんだ。君の流派なんだい?」
 ゴフ・ハベは筋肉を波うたせながら言った。
「ニャコは猫耳人の伝統的民族格闘技「猫拳」の使い手ムニィ。おかしな他流派には負けられないムニィ。お兄ちゃん、お姉ちゃん、弟に妹たちも、みんな猫拳の使い手ムニィ」
「投げ殺しがいいか、関節技で靱帯を破壊されたいか選ばせて上げよう。そして動けなくなったところにボクの特製、バタリジュースを飲ませて上げよう。五秒で死ねるよ」
ゴフ・ハベはポージングを取り始めた。筋肉が波うった。
「ふん、体重差だけで勝てると思ったらバカ、ムニィ。猫耳人を、なめると痛い目に遭うムニィ。小さくても瞬発力と筋肉の質が違う…ムニィ…目、目の焦点が合わないムニィ」
 「どうやら、気化バタリの吸入第二段階の症状、視野狭さくが出たようだね。僕は用心深いんだ。百二十パーセント勝てる算段が付いてから格闘家として戦うのさ。では正々堂々と正面から行くよ!」
ゴフ・ハベは突進してきた。
 なんて卑劣な男なんだ。
 メルプルは思った。だが怒りよりもニャコの方が心配だった。
ニャコ!
 「ムニィ!」
 ニャコはジャンプした。ゴフ・ハベの頭の上に手をついて挟み飛びで飛んでいって後ろに回った。