ダンジョニアン男爵の迷宮競技
このブルーリーフ町はコモンの交易路ツルッペリン街道から外れた寂れた田舎町だった。それなのに、今は、そこら中にカジノがあるし酒場、料理屋、クラブなどが沢山あった。町には景気の、いい軍隊の行進曲や音楽が流れて町の喧噪と一体となっていた。
「任せてくれ」
マグギャランが宿屋の受付の女性に声を掛けた。途端に受付の女性の顔が、うっとりとした。
女だけじゃなくて男も顔だよな。
スカイは、しみったれた事を考えた。
「え!ダンジョン競技に出るんですか!」 宿屋の受付の女性が大声で叫んだ。
途端に宿屋の中に居る客達が拍手を開始した。
「勇気在るな」
「でも、お前みたいな優男には賭けないぞ」 「いやあ明日のオッズに、どう影響するかな。最近は参加パーティが集まらないんだよ」
口々に言い始めた。
スカイは怪訝に思った。
マグギャランがスカイとコロンの所へ戻ってきた。
「場所は判ったが、どうも、変だぞコレは賭けをやっているらしい。お前の言う金ダライと着グルミのモンスターとは大分違うじゃないか。優勝商品は小麦粉一ヶ月分だとか言っていなかったか」
マグギャランが言った。
「まあ、取りあえず受付に行こうか。借金している身だが。賭を、やっているならカネをオレ達の優勝にでも掛けようぜ」
スカイは冗談半分で言った。
だが、スカイが知っている迷宮競技ではカネを賭けたりはしなかった。
おかしいな?何が、どう変わってしまったんだ?
スカイは、そう思った。
だが、冒険屋稼業に足を突っ込もうとしているコロンを、思いとどまらせる為には丁度良いことは間違いがなかった。大した迷宮競技じゃないのだ。木の枠で作られた迷路に入ってヌイグルミのモンスターの相手をして出口を捜して出る簡単なゲームだ。雑誌に載っていた殺人ゲームという話は今の時代にありがちな出任せだろう。
「なんつう人混みだ」
マグギャランが後を振り向いてスカイに言った。
大通りは酷い雑踏だった。
前に進むたびに人と肩がぶつかるような凄い雑踏だ。スカイは雑踏の人の塊を両腕で押しのけながら前へと進んでいった。
コロンは背が小さいが魔術の杖が1メートル八十センチぐらい在るので良く見えた。
スカイは歩いていった。そして後ろを向いている男に肩がぶつかった。
「うおっ」
男が若い声で言った。
スカイはダンジョン競技の参加者の受付場所を探していた。マグギャランの聞き込みによれば、この道を真っ直ぐ行けば受付場所に着くはずだ。実際スタジアムのような建物が見えている。スカイは人混みを、かき分けながら前に進んでいった。
「おい待てよ。ぶつかったら謝れよ。最後の一つの、たこ焼きを落とし掛かったじゃないか」
男が言った。
振り向くとスカイと同じぐらいの年齢のトンガリ頭の少年だ。百九十センチぐらい在る。マグギャランよりも背が高い。
「何だ、お前は」
スカイは言った。
「何だは無いだろう。ぶつかって来たのは、お前の方だろう。お前は行儀が悪いな」
トンガリ頭の少年が言った。
この近辺では珍しい顔立ちだった。異邦人の様だった。スカイが前に会ったことのあるフラクター選帝国のヤマト領の人間のような顔立ちだ。
「うるせえな。何ケチ付けてきて居るんだよ」
スカイは言った。
「ガラの悪い奴だな。もう少し言葉使いに気を付けろよ」
トンガリ頭の少年が言った。
「俺は俺だ、お前に指図される覚えは、これっぽっちもねぇよ」
スカイとトンガリ頭の少年の回りは、もめ事の気配で大きく囲むように人が退いていた。
「決めた。お前を殴って俺が教育をしてやる。そうすれば、もっと、まともな人間になるだろう」
トンガリ頭の少年が笑いながら言った。
そして紙の箱から一つだけ残っている、たこ焼きを取り出して食べた。
たこ焼きの箱を持っていた手を離して落とした、だがいつの間にか振り上げられている脚の爪先に、たこ焼きの箱がバランスを取って立っていた。
そして脚で箱を蹴り上げた。口から爪楊枝を吹き出すと箱に突き刺さった。トンガリ頭の顔の高さまで箱が上がると脚を振り回した。
たこ焼きの箱に脚が当たり。たこ焼きの箱が飛んでいった。
そして屋台の隣のゴミ箱に入った。
取り巻いている群衆から、どよめきと拍手が上がった。
何だ、コイツは格闘家なのか。
おかしな技を使いやがって。
スカイは目を細めた。
「掛かって来いよ。お前は剣を使っても構わない。俺は素手で十分強い」
トンガリ頭の少年が言った。腕を開いて、こっちに来いと言うかのようにあおいだ。
畜生なめていやがる。
どうやら、相当自分の腕っ節に自信が在るようだった。
「おい止めろよスカイ、町中でケンカは不味いぞ。留置場に入るのは、もう沢山だ」
マグギャランがキョロキョロしながら言った。
コロンは腕で×を作って首を横に振っている。
「うるせぇなマグギャラン。しっかり見張ってろよ」
スカイは両腕を挙げて構えた。トンガリ頭の少年がニヤっと満面に笑みを浮かべた。
「格闘家なんか大したことねぇ。こちとらモンスター相手に命張っている冒険屋だ」
スカイは啖呵を切った。
「なんだよ、冒険屋なんかザコだ。武術家が一番強いに決まっている。お前は頭が悪いな」
トンガリ頭の少年が言った。
そして両手を腰に当てた。
「かかって来いよ」
スカイは拳を構えながら言った。
「お前に言われるまでもない。殴って教育してやるって言っただろう。行くぞ!」
トンガリ頭の少年が言った。
脚が飛んできた。
スカイは大きく後ろに飛んでかわした。
「何だよビビって居るのか?」
トンガリ頭の少年が、しなる蹴りを連続して繰り出した。
「うるせぇ、こっちには、こっちの、やり方が在るんだよ」
スカイは横に飛んで地面を回転して避けた。
「俺の流派、武覇山流は、近間も遠間も得意な究極の拳術なんだ。お前なんかザコだよ。ホラどうした。お前なんか手を使うまでもない。右脚一本で十分だ」
トンガリ頭の少年の脚がムチのようにしなってスカイを追い込んでいく。確かに右足ばかりを使って連続して攻撃をしてきている。
「なめるなよ!」
スカイは拳をフック気味に振るうのを止めて短くジャブでフェイントをかけながら連続して放った。
「甘い」
トンガリ頭の少年は、いつの間にかスカイの右横に脚を交差させて背中を向けながら移動していた。
スカイは本命のストレートを出して完全に腕が伸びきっていた。
トンガリ頭の少年は、そのまま回転して上段の後ろ回し蹴りを放ってきた。
スカイは右の肩からぶつかっていきながら肩と上腕でブロックした。
だが蹴りの凄い威力で吹き飛ばされた。
スカイは見ている野次馬達にぶつかりながら尻餅を付いた。野次馬達が文句を言いながら退いていった。
「オイどうした。口ほどにも無いな。俺の後ろ回し蹴りをクリーンヒットさせなかった事は誉めてやる。だが完成された格闘技の動きの前では、お前の動きは雑なんだよ。手に取るように次の動きが判る」
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道