ダンジョニアン男爵の迷宮競技
コロン姉ちゃん?
スカイは怪訝な顔でコロンを見ていた。
コロンは子供の頃にスカイと別れて親類に引き取られた姉だ。
コロンは子供の頃から砂地に文字や図形を木の端で書いて難しい本ばかり読んでいる変わり者だった。スカイは心配だった。それでコロンが引き取られたニーコ街で冒険屋稼業を七、八歳頃から営んでいたのだ。
たまに様子を見ていた。
コロンは魔術の勉強をしているらしい。
いきなりコロンは立ち止まっていた。
スカイは見ていた。
「何だ冴えない娘だな。金を持っていないようだし依頼人じゃないだろう」
マグギャランの声が聞こえた。
コロンは受付の近くまで行くと急に頭を抱えて身体をクネクネと動かし始めた。
急にハッと気が付いて顔を赤くして慌てて扉まで駆け足で出ていこうとして突然立ち止まった。
「おい、コロン何で、こんな所に居るんだよ」
スカイはコロンに言った。
「わちゃしはですね…」
コロンは弟のスカイと気が付かないのか余所を向いて顔を真っ赤にして喋りだした。
コロンは内気だったのだ。
「あんたね。コロンみたいな頭の足りない子が狡っ辛い冒険屋稼業を出来ると思うの。ボーっと、している間にモンスターに噛みつかれて死ぬのがオチよ」
ロザが携帯電話の向こうのフラクター選帝国で怒っていた。
ロザはスカイの生き別れた両親が、預けた先の親戚の従姉だ。現在、二十五歳だ。だが携帯電話の普及がスカイ達の距離を近い物にしていた。
「それが、どうも変な話なんだよ。コロン姉ちゃんの魔術の教師であるフレイア・プロミネンスが、卒業課題として白紙の魔術書を渡して全部自分で作ったオリジナル魔術で埋めて来いって話らしい。フレイア・プロミネンスの話では創造性を喚起してオリジナル魔術を編み出すためには冒険屋が良いらしいんだ」
スカイは冒険屋組合でコロンから聞き出した内容を確かめながら言った。
「以前は私の給料からも、その怪しい先生の授業料が出ていたのよ。フラクター帝国銀行の信用手形を使って支払いをしていたの。でも魔術都市エターナルの分校のように資格が付いて無いんでしょ。コロンの物好きにも困った話ね。私みたいにフラクター選帝国の国家公務員になれる学校を出ればいいのに。そんな才覚も無いのね。頭は悪くは無いのに。要領が悪いのね」
ロザがスカイに言った。
「それでは俺は、コロン姉ちゃんを、説得してみる。何か、大昔のようにダンジョンに潜ってモンスターを倒すと言い張って居るんだ。簡単なダンジョン、ゲームにでも参加すれば、コロン姉ちゃんも自分が冒険屋に向いていないことが判るだろう。組合の女職員が聞き出したところによると、魔術がライターの魔術と懐中電灯の魔術ぐらいしか使えないんだ」
スカイはコロンが使える魔術を見て絶句した事を思い出しながら言った。
つまり低レベルも低レベルな魔術師だった。
「まあ、説得を頼むわね。私は、これから一ヶ月の間、橋梁工事の現場監督として出張の仕事に、でるから忙しくて連絡は取れないからね。それから、この電話は盗聴されているから、あまり紛らわしい事言わないでよ。あたしが怪しまれるから。フラクター選帝国は一級市民になるとコモンより住み易いけれど、こういうことは、うるさいのよ。馴れると楽だけど」
ロザが言った。
「それじゃ、国際電話は高いから切るよ。クーポンが直ぐに無くなっちまう。ロザ姉ちゃんも病気や怪我に気を付けてくれよ」
スカイは言った。
「あんたも早く真っ当な仕事に就きなさいよ、だからコロンが冒険屋を始めるなんて言い始めるのよ、じゃあね」
ロザは電話を切った。
「ほう、姉と電話とは、お前はシスコンだな」
マグギャランがエロ雑誌「ドギマギ」を読みながら廊下に出てきた。
「うるせぇな。部屋に入って携帯掛けると圏外になるんだよ。これからヒマージ王国のブルーリーフ町に行くが、お前も付いてくるか?」
スカイは言った。
「夜逃げでもするのか。やっぱり借金の金額が多すぎるしな。期限も近づいてきている」
マグギャランは溜息を付きながら言った。
そして、部屋の外に積み上げたエロ本を見ると更に溜息を付いた。
確かに借金は多額だった。だが踏み倒すのは少し気がひけた。訳有りなのだ。それに早いところ返さなくては意味はないという期限まで付いていた。期限を守らないと、領主と対立しているトマス神父の土地改良事業が失敗してしまうことになる。
「違うんだよ。ダンジョンゲームに参加するんだ。子供の遊びだよ。大人も参加できるが大したモノじゃないんだよ」
スカイはマグギャランに説明して言った。
「ここがヒマージ王国のブルーリーフ町だと?お前の話とは全然違うではないか。まず町の名前が違う」
マグギャランが両手をコートのポケットに突っ込んだまま言った。
「おかしいな、俺が子供の頃は、こんな派手な繁華街みたいな町じゃなかったんだがな」 スカイは怪訝に思いながら町の入り口を見た。
町の入り口の門の上には右腕を揚げている裸の男性の巨像が建っており、その台座には巨大な文字のネオンがきらめき「ダンジョニアン男爵のトラップシティ」と書いてあった。
確かにマグギャランの言うとおりだ。
そしてスカイが見たことのあるブルーリーフ男爵がステロイドでも使ったのかマッチョの筋肉男になって腕を振り上げた巨大な裸像と化していた。
股間の部分はネオンで隠されていた。
コロンは歩き疲れていて魔術の杖につかまってへばっていた。
「ダンジョニアン男爵のトラップシティ」はカジノで有名な場所で在ることはスカイも噂やテレビや雑誌で知っていたが、まさかブルーリーフ町の事であったとは意外だった。スカイが子供の頃に来たブルーリーフ町はツルッペリン街道から外れた寂れた町だった。
「まあ、とりあえず中に入ろう。それにしても馬車が次々と通って行くな、かなりの金持ちか大貴族が乗っている馬車だぞ。俺でも知っている紋章を付けている」
マグギャランが回りを見回しながら言った。
冷蔵庫を電池に繋いだ冷凍馬車が早足で掛けていった。そしてフラクター選帝国製の空中に浮かぶバスが通り過ぎていった。最近の科学技術の進歩は凄いものだった。スカイ達は乗合馬車を使って、ミドルン王国からブルーリーフ町に来たのだ。
「馬車だけでは無いだろう」
スカイは顎をしゃくった。
確かに街道沿いには乗り合い馬車や旅人が数多くいた。
みんな目つきが悪い。新聞を持って赤鉛筆をみんな持っている。まるで競馬場の前のようだ。
「コロン迷子になるなよ」
スカイは言った。
コロンは杖に寄りかかったまま頷いた。
スカイ達は手頃な値段の宿屋を捜して宿屋に入った。
宿屋の「バカラバカラ」は宿泊客で一杯だった。
「取りあえず、ダンジョン競技に参加しよう。何処に行けば良いのか聞いて来いよマグギャラン。俺じゃ信用されねぇ。俺が前に来たときと町の形まで変わっていやがる。こりゃ大都会の繁華街だけで出来ているような、酷い町だ」
スカイはマグギャランに言った。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道