ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「やはり、彼等の本質はザコという事でしょうか」
「君は物事を簡単に考えすぎる傾向があるよラビリーナ君。イケナイよ。本質は我々の身の安全に在るのだ。精神的にも肉体的にも、優位に立つのさ。
フフフフフフフ。
第二パーティ「モンスターレイジ」には第八パーティ「黒鷹」を当てる。二強の潰し合いは観客も望むだろうからね。そして、その後で第八パーティ「黒鷹」が上手く「モンスターレイジ」のメンバーを殺せなかったらドーちゃん達を使う。彼等は危険だよ。危険だから万全の対策で臨むのさ」
ダンジョニアン男爵は銀色のスプーンをぺろぺろと舐めていた。
「ほう、ドーちゃん達を使うとは、瞬殺で決める、おつもりの、ご様子」
「ガチだよガチ。私は自分の身の安全の為にガチになっている。第二パーティ「モンスターレイジ」の実力は、侮れないからね。我々の身の安全と保身の為にはドーちゃん達が必要となるのさ。私は自分の命が無茶苦茶可愛くて惜しいからね。あと最低でも一万年は生きていたいね」
「第7パーティ「ザ・ワイドハート」はどういたしましょうか。我々も手を焼く問題児達の集まりです。ザコの筈なのに順位を上げてきています」
「そうだな。第三パーティ「戦斧隊」を使うとしよう。私の予想では彼等戦斧戦士の筋肉と戦斧の雨嵐で即死かな。でも戦斧隊は優勝させないからね。彼等はエントリーして敗北し続ける、負け組キャラに価値が在るんだよ。丁度、今、第7パーティと遭遇しようとしている」
「またまた、ご謙遜を、わざとでしょ」
ラビリーナが言った。
「何、少しばかりダンジョンの形を私の望むように動かしただけだよ。彼等は自分の意志で進んでいる」
「自分の意志と思って、ですか」
「飛んで火にいる夏の虫の心境は火を焚く者は考える必要はないのだよ。火を焚く目的に沿っていればいいのだ。第3パーティ「戦斧隊」と第7パーティ「ザ・ワイドハート」は遭遇する。この動かし難い事実のみがあれば良いのだよ。この第三迷宮ゾーンは、私が自在に迷宮の形を変えることが出来るのさ」
ダンジョニアン男爵は移動されている、ダンジョンマップの駒を見ながら笑った。
「その事実が夏の虫が飛んで火に入ることでもですか?」
ラビリーナは笑みを浮かべて慇懃に言った。
「当然だとも」
ダンジョニアン男爵は笑った。
「おや?レリキ君が死にましたよ」
ラビリーナが言った。
「楚宇那様は死んだ方がよかったです」
シー老師の隣に座っていた。若い女が言った。頭の後ろで黒髪を結んで馬の尻尾のような髪型をしている。エプロンの付いた長いスカートを履いている。
「む、何なのだ、お前は。同じ東方人なのか。国は十八カ国に分裂した夏周夏国の、どの国の者だ」
「いえ、私は、ただの旅のフラクター選帝国ヤマト領の薬売りです。コンソメ味のポテトチップスが好きです」
フラクターの娘はポテトチップスを食べていた。
「ああっ美味しい。でも楚宇那様が死んだら、もっと美味しくポテトチップスが食べられたのに」
フラクターの娘は頬に手を当てて言った。
涙が目に滲んでいる。
「フラクター選帝国のヤマト人なのだな。何故に同じ国の娘が死んだ方が良いなどと言うのだ。人の生き死にを軽々と口にするでない。そもそもこんなダンジョンゲームは間違っているのだ」
シー老師は説教を開始した。
「口が滑っただけです。ただのフラクターの薬売りの独り言です。でも、ああっ、死んだ方が良かったのに。レリキ・ヨツという殺人鬼にバラバラにされたら、どんなに良かった事でしょうか」
フラクターの娘はポテトチップスを食べながら更に物騒な事を言った。
「シグレさま、スズメとツバメっス。ソーセージ九本とフライドポテトのウルトラサイズを3箱買って来たッス。試合は最後の所だけ見ていたッスよ。楚宇那様、対戦相手がワイヤーの凶器で自滅してKO勝ちッスね」
「ツバメは、焼き鳥三十本と、焼きそばを六個、買ってきました。このダンジョン競技は楽しいですね」
フラクターの娘の隣に二人の少女がやってきた。そして買ってきた食べ物をシグレと呼んだフラクターの娘に渡した。
「悲しいから、私ヤケ食いします」
シグレと呼ばれた娘は焼きそばを食べ始めた。
そして涙を流して焼きそばと共に、すすって食べていた。
「ああっ美味しい」
シグレと呼ばれた娘は言った。
「貸してあげる」
ウロンが丈の短いマントを外して楚宇那に渡した。レリキに楚宇那の服はそこら中が切られたからだ。だが服は切られても、身体の方は何処も切られなかったようだ。血は流れていなかった。
メルプルは何て声を掛けたら良いかの判らなかった。
「ありがとう」
楚宇那がボソリと言った。
そしてウロンの丈の短いマントを肩から羽織った。
「楚宇那。人を殺すことは、人殺しの罪を背負うことなのよ。レリキは自滅したけれど。あなたは殺そうとしたでしょう」
サファお姉さんが言った。
楚宇那は答えなかった。
バニーガール達がレリキ・ヨツの死体とナイフ・ストリングを片づけていた。
「楚宇那に続いて勝つムニィ」
ニャコは両足でジャンプして武闘台に上がった。
そして両腕のナックル・ガードに仕込まれた鉤爪を伸ばした。
禿頭の大男、ゴフ・ハベは腕を組んで既に武闘台に上っていた。
「君は、何故戦う」
「メルプルの為ムニィ」
「僕はサシシ・ラーキ様に出会って、僕がやっていた毒殺が実は正しいことであったと確信を持つに至ったのだ。これからも多くの人間を毒殺して善行を積んで行かねばならない。その為に僕は自由になるんだ。僕は今まで毒殺する事に迷いがあって、背筋がゾクゾクするイケナイ事を、やっている背徳感が大好きだったのだが。今は有り難い「殺しの秘文字教」の信者として堂々と胸を張って毒殺をしていきたいんだ」
ゴフ・ハベはサシシ・ラーキに向かって頭を下げた。サシシ・ラーキは神秘的な微笑みを浮かべていた。
「ふん、バカ、ムニィ。毒なんか人に盛ってはいけないに決まっているムニィ。そんな簡単な事も判らないか?毒なんか食べるとルルになるムニィ」
ニャコは左手を腰に当てて右手を振りながら言った。
「酷いよニャコちゃん」
メルプルの横でルルが青い顔をしてフラフラしていた。
「君も死ねば判るさ」
ゴフ・ハベは上着の中から銃の様な形をした物を取りだした。
「ムニィ!銃ムニィ!」
ニャコはバック転をしながら空中で両拳をぶつけるようにして鉤爪をしまった。そして連続してバック転をして距離を取って構えた。
「僕は、サシシ・ラーキ様と出会うことによって、毒殺を通して少しの間苦しませる事で自由の極致である死を与える事が最高の慈善だと確信するにいたったのだ。これが有り難い「殺しの秘文字」教の教えなのだよ」
ゴフ・ハベは上着から更に緑色の液体が入った試験管のような物体を取りだした。
「お前の頭が死んでるムニィ!ニャコには関係ないムニィ!ニャコはキャス様を信じているムニィ!おかしな宗教は要らないムニィ!」
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道