ダンジョニアン男爵の迷宮競技
だが、キキロ・ハーゾは走ってきてウロンが持ち上げようとしたレーザー・ブラスターを蹴飛ばした。だがレーザー・ブラスターは
コードがウロンの腰に付いていた。それが引っ張られた。
「何だ、このコードは?」
キキロ・ハーゾはコードを見た。
ウロンの腰に付いているレーザー・ブラスターと電池であるバッテリーを繋ぐエネルギーコードだった。
ウロンは後ろに飛び退こうとした。
そしてコードを持ってレーザー・ブラスターを引っ張ろうとした。だがキキロ・ハーゾはウロンの足の甲を踏んだ。ウロンは転んだ。
そしてウロンは白いショート・ブーツで覆われた足首を押さえた。
捻ったか捻挫でもしたに違いない。
「ハハハハハだらしねぇな。ケンカの場数が違うんだよ。シャブメロ一家のケンカは負けねぇんだよ。何してでも勝つんだ。良い格好で転んでいるじゃねぇか。どうした俺のイロになる決心は付いたか?」
キキロ・ハーゾはウロンのレーザー・ブラスターを用心深く踏んだまま言った。
ウロンは腰から銀色の爆弾を取りだした。
アレは高性能爆弾らしいが、どれ程の破壊力が在るのかメルプルは知らなかった。まだウロンが使った所を見たことが無いのだ。
「降参しないと、爆弾を爆発させる」
ウロンは横になったまま言った。
「脅しのつもりか?」
キキロ・ハーゾはコートから刃が波うって居る刃渡り三十センチもあるような巨大なナイフを取りだした。
「脅しってのは、こうやってするんだ」
キキロ・ハーゾはウロンの喉元にナイフを突きつけた。
「脅しじゃない。お前もろとも自爆するぞ゜」
ウロンは言った。
「覚悟が出来ているならやれよ。俺のナイフが喉をカッ切る前に」
キキロ・ハーゾはウロンの喉元にナイフを近づけながら言った。
「ギブアップ」
そしてウロンはギブアップを宣言した。
「第1バトル!キキロ・ハーゾWON!」
シキールの絶叫が入ってきた。
ウロンは右足を引きずったまま武闘台を降りた。
「ごめんなさい、負けた」
ウロンはボソリと言った。
「わたしの番ね」
楚宇那が白い上着の上からタスキを両肩に巻きながら言った。
ウロンは床にへたり込んで座っていた。負けた事がショックだったようだ。ウロンは自信家なのだ。メルプルには声の掛けようが無かった。ウロンは自分で右手首に刺さった細い刃のナイフを引き抜いて捨てた。
見ていて無茶苦茶痛そうだった。
メルプルは血の気が引きそうだった。
血を見るのは嫌いだった。
レリキ・ヨツに殺されたバニーガールも酷かったが。友達のウロンにナイフが刺さるなんて考えたくもなかった。
それも自分のせいで。
「ごめんなさい、私のせいで怪我させた」
メルプルは血止めを取りだしてウロンに渡した。
「別に。私は私の考えでやっているのよ。メルプルが気にすることは無いのよ。これは私の責任」
ウロンはナイフの刺さっていた手首に血止めを塗った。フラクターの紋章が入ったハンカチで応急処置のように巻き付けた。
「レリキはかなりの強敵よ。直ぐにギブ・アップしなさい。この馬鹿げたバトルは全員がギブ・アップした方が利口よ。時間の遅れは後の迷宮ゾーンで補いなさい」
サファお姉さんが楚宇那に言った。
「いいえ、わたしは戦います」
楚宇那が言った。
「やめた方がいいよ、楚宇那ちゃん」
ルルはフラフラしながら言った。
「ルルは腹痛を我慢しながら待っていて」
楚宇那は腰の赤い鞘の刀に手を掛けた。
そして武闘台に上っていった。
「ヤマト人か。ヤマト人の娘を切ることは初めてだ」
レリキ・ヨツが束ねたナイフ・ストリングを伸ばしながら言った。
「楚宇那。この勝負に命掛けます」
楚宇那は腰の赤い鞘の刀に手を掛けて腰を低く落とした。
「判るぞ、判る、俺の敏感お肌がビリビリと殺気を感じる。お前は俺の左肩から斜めに斬ろうとしているだろう。敏感お肌が察知するには、お前は一瞬で間合いを詰める動きが出来るんだな」
レリキ・ヨツは言った。
「そうよ」
楚宇那は、しっかりした声で言った。
さっきみたいに動揺していなかった。
楚宇那は強いのだ。だが、レリキ・ヨツはウロンのレーザー・ブラスターを避けられる反射神経を持っている怪物だった。
大丈夫かな。
楚宇那の性格では降参なんて絶対にしないはずだ。
メルプルは心配になった。
「バラバラにナイフストリングで切り刻んでやる。どこがいい。右腕からか、それとも左足からか」
「どこも切られるずに勝つわ」
楚宇那が間合いを、ゆっくりと詰めていった。
「その細くて肉付きの良い、格好の良い脚から切り飛ばすかヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!切った脚と添い寝してやる!」
レリキはナイフストリングを持った手を開いた。ナイフストリングが、ばらけて弾かれたように広がっていった。銀色のナイフストリングの線が武闘台の上に広がった。
「どうだ、このナイフストリングは?城の回りの堀のように、俺を囲んで守っている」
レリキは笑いながら言った。
だが、楚宇那は何も答えなかった。
「レリキ・ヨツさんは自分の世界に入ってしまったようなので、強引に試合を開始します。それでは、それではバトル・クジ第二回戦のスタートです。掛け率は東方人の美少女、楚宇那1に切り裂き魔のレリキ・ヨツ9です。それではバトル2!ファイト!」
シキールの掛け声と共にゴングが鳴らされた。
「約束どおり、お前の脚を切り裂く」
レリキは手を銀色の線に沿わせるように動かした。ナイフストリングの銀色の線が生き物のように波を打って一斉に楚宇那の脚へ殺到した。
「はいっ!」
楚宇那は後ろへ飛び退きながら掛け声と共に居合い抜きで剣を抜いた。
ブチンと金属が切れる音がした。
レリキのナイフストリングを楚宇那の剣が切ったようだ。
だが、楚宇那の膝下まである赤いスカートも少し切れていた。
「ヒャヒャヒャヒャ。切れたスカートから見える脚もなかなか良い眺めじゃねぇか」
レリキは手元に持ったナイフの刃を舌で舐めながら言った。
楚宇那は黙って剣を得意の八相に構えた。
「さてと観客の目は、美少女君達の演じる武闘会に目が向いている。今のうちに第二パーティ「モンスター・レイジ」を殺す算段を立てるとしよう」
ダンジョニアン男爵はダンジョン采配人が動かす迷宮図を見ながら言った。
「彼等は強いですからね。手当たり次第にモンスターを殺してトラップを解除して順位を上げて進んでいます。現在一位です」
ラビリーナが言った。
「やれやれ、彼等は、モンスターの人権とやらを保護する事が目的ではなかったのかね?本末転倒だね」
「今日日よくいる金と名声目当ての偽善者達の主義主張ですよ。売名行為というヤツです」
「やはり、そうだろうね。いけないね偽善者達は、やはり私の迷宮芸術は人間の本質に迫る哲学の世界だからね。彼等の偽善を剥ぎ取って本質を暴かないといけないね。これは社会正義でもあるのだよ」
ダンジョニアン男爵は言った。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道