ダンジョニアン男爵の迷宮競技
バニーガールが落ちた右腕を見ながら言った。
「ウソ」
そしてバニーガールの首が落ちた。
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。バカ受け。最高!」
死んだの?
メルプルは今、何が起きたかハッキリと判らなかった。
レリキはバニーガールを殺した。ようやく、そう理解できた。バニーガールの身体が石造りの床に倒れて血が噴き出して辺り一面が血の海となった。
メルプルは恐怖の余り、身体が動かなくなった。
「バニーガールを殺してはいけないはずよ」
サファお姉さんが言った。
「宝箱を管理しているバニーガールは殺してはいけないと言うことは他のバニーガールは殺しても良いという事だろう」
レリキ・ヨツは笑みを浮かべて笑った。
シキールの声がした。
「いや、禁止だよレリキ君。これ以上、スタッフを殺されたらゲームが成立しなくなるじゃないか。それにレリキ君もウロン君も、攻撃をしたけれど、パーティ同士の戦いは武闘台の上以外では禁止だよ。今回は司会の権限でペナルティを与えないけれど以後注意するように。それに、レリキ君。無抵抗のバニーガールよりも、もう少し生きの、いい獲物と戦えるのだからね」
「それは、そうだな」
レリキ・ヨツは顔をクシャクシャにしてメルプル達を見ながら笑った。
メルプルの背筋に悪寒が走った。
「参加者は自由に武器やアイテムを使って結構です。参加者はバトルの舞台となる、武闘台から落ちると敗北となります。勝敗はギブ・アップを宣言するか死亡で決着が付きます」
シキールは言った。
「メルプルは弱いから、わたしが出るよ」
ルルは青い顔でフラフラしながら言った。
同感だった。
メルプルは錬金術で魔術のアイテムを作る事は出来ても戦う能力は極めて低いのだ。
でもルルは酷い腹痛の筈だ。
「今のルルじゃ駄目じゃない」
ウロンが眼鏡を上げながら言った。
「メルプルが出るムニィ」
ニャコが言った。
「メルプル、あなたが戦うときは、直ぐに降参して。武闘台から降りて構わないから。私達だけで三たてで勝つから」
楚宇那が言った。
「だめよ、みんなも聞きなさい。このバトルゲームは全員降参した方が利口よ」
サファお姉さんが言った。
確かにそうだった。
メルプルは死にそうだった。
クジの結果はこうなったのだ。
一回戦、ウロン・ケサンVSキキロ・ハーゾ。
二回戦、楚宇那VSレリキ・ヨツ。
三回戦、ニャコVSゴフ・ハベ。
四回戦、サファ・ナリックVSサシシ・ラーキ。
5回戦、メルプル・シルフィードVSバーリー・ゾーダ。
メルプルは目を合わせないように下を向いたまま上目遣いで対戦相手を見ていた。
メルプルが戦う相手のバーリー・ゾーダはヒマージ王国の一部を奪った山賊団「闇の腕」のボスだった。筋肉隆々の髯男だった。腕に力が無くて、運動神経の低いメルプルが敵うはずはなかった。バーリ・ゾーダは筋肉を剥き出しにしたヘソが出ている革の黒いベストを着て鋲を沢山打った革のピッチリした黒いスボンを履いて背中には野球のバットを大きくしたような巨大な銀色に輝いている鉄の金棒を背負っていた。
メルプルが、あんな金棒を振り回す人間相手に勝てるはずは無かった。どう考えてもあの鉄の棒は三十キロ以上は在りそうだった。
「ウロン大丈夫か。ウロンは銃と爆弾を使う以外は大して強くないムニィ」
ニャコがウロンの前で左手を口に当てながら踵を上げたり下げたりしながら言った。
「ふん、銃の一発でカタを付けてくるわよ。銃を抜いて心臓を撃つ。それだけよ」
ウロンが丈の短いマントを跳ね上げて左腰にぶら下げた銀色のレーザブラスターを叩いた。
キキロ・ハーゾは黒い革のコートとスーツと帽子を着ている。
「ウロン、人殺しは止めなさい」
サファお姉さんが言った。
「どうせ、人を何人も殺していたり泣かしているような様な悪党でしょ。私が処刑してやるまでよ」
ウロンは言った。
シキールのアナウンスが始まった。
「さあ、ダンジョン競技恒例のバトル・クジの一回戦スタートです。第一パーティ「ルルと仲間達」からはフラクター製の光線銃を使う少女ウロン・ケサンが出場します。眼鏡を取ると結構な美少女のようです。第五パーティ「悪人同盟」からはヒマージ王国の犯罪組織シャブメロ一家の麻薬製造工場の番頭キキロ・ハーゾの登場です」
キキロ・ハーゾは頭の帽子を押さえながら
武闘台に上った。顔には無数の傷がある。典型的な悪党の顔をしている。
こんな悪党と戦うウロンも可哀想だが、ウロンのレーザー・ブラスターは強力な武器だ。
一発で勝負が付くに違いない。ウロンは冷酷だから心臓を一撃で撃ち抜くに違いなかった。
この勝負はウロンの勝ちで動かないはずだ。
「こんな小娘を、このシャブメロ一家のキキロ・ハーゾ様がタイマンの相手にするとは情けない話だな。お前みたいな小娘はエロ本屋か売春小屋にでも売り飛ばすぐらいしか使い道がねぇんだよ。それとも俺に這いつくばってイロにでもなるか?ガハハハハハハハ!」
キキロ・ハーゾはゴツゴツした顔に下卑た笑いを浮かべていた。ポケットから葉巻を取り出して両端を噛んで切って吐き出して、左手に持ったオイルライターで火を付けた。そして右手をポケットに入れた。
「コモンはダメね。ろくな男が居ないようじゃない。ゲスはレーザー・ブラスターで撃って殺す」
ウロンは腕を組んだまま右の手を上げて眼鏡を直しながら言った。
「さあ、双方が舌戦を戦わせました。それではバトル・クジ第一回戦のスタートです。掛け率はウロン・ケサン3にキキロ・ハーゾ5です。それでは、わたくし司会のシキールがレフリーとアナウンサーを兼業して実況をします。それではバトル1!ファイト!」
ゴングの音が武闘場に響いた。
ウロンはレーザー・ブラスターをホルスターから抜いた。
その時、先にウロン目がけて火炎が走った。
ウロンはハッとした顔で横に走って避けた。
「ご大層な武器を持っているようだが。所詮はガキだ。飛び道具を持っているのが自分だけだと思うなよ」
キキロ・ハーゾは火が吹き出たライターの蓋をカチッと音を立てて弄りながら言った。あのライターは火が吹き出るようであった。
火炎放射器なのだ。
ウロンはレーザー・ブラスターを構えようとした。
だが先にキキロ・ハーゾの火炎が再びウロンを襲った。
ウロンは右横に逃げながらレーザー・ブラスターを構えようとした。
その時ウロンのレーザー・ブラスターが右手から落ちた。
ウロンは自分の右手を見た。ウロンの右手首には細い銀色のナイフが突き刺さっていた。
え?
メルプルは目を疑った。
「どんなに良い武器を持っていても使う奴がショボくちゃ話にならんな」
キキロ・ハーゾはナイフを投げた姿勢のままで笑いながら言った。
「ゲスめ!」
ウロンはしゃがんで左手で落ちたレーザー・ブラスターを握ろうとした。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道