ダンジョニアン男爵の迷宮競技
のキャラが良いんだよ。所属している、おかしな宗教団体は、お呼びじゃないんだ。コモンでは、何処ででも全面的に禁止だよ」
ダンジョニアン男爵は言った。
「さあ、うら若き美少女達と凶悪な犯罪者達が今、遭遇しようとしています。第一パーティ「ルルと仲間達」と第五パーティ「悪人同盟」の遭遇です。どんなドラマが生まれるのでしょう。レリキ・ヨツは若い女性ばかりを狙う連続殺人鬼です。危険です。恐いですねぇ」
シキールは笑いながら言った。
おおっ、と同情する声がスタジアムに溢れた。
「フフフフ。さあ、バトルクジだ。バトルクジが始まるぞ」
シー老師の隣で、ギャンブラーYが腕を組んで笑い始めた。
「ああっ、トイレが逃げていく。待ってよ」
ルルは白い水洗便器の方へと、フラフラした足取りで、寄っていった。
「こんなトイレ、絶対仕掛けがあるムニィー」
ニャコが口を尖らせてトイレに近づいていった。ニャコがトイレを蹴飛ばそうとすると。トイレの移動速度が上がってニャコの蹴りはスカった。
「ムニィ!」
ニャコは怒って追いかけていった。トイレは角を曲がった。
その時何かが光った。
メルプルの隣を風が通りすぎた。
目の前でサファお姉さんがニャコの前にいた。いつの間にか移動して立っていた。
「誰、出てきなさい」
サファお姉さんが言った。
「ひゃひゃひゃひゃ!俺様のナイフストリングを素手で受けるとは何者だい」
ダンジョンの曲がり角の影から水洗便器に乗っかった線の細い男が出てきた。
「俺様はレリキ・ヨツ。こんにちは、お嬢ちゃん達」
線の細い男が顔中をクシャクシャにしてニマッと笑った。メルプルは背筋に悪寒が走った。今までに感じたことのない異質な恐怖を感じた。
線の細い男は黒い鎖で出来た手袋で覆われた長い指を動かした。
サファお姉さんが手を離した。
銀色のワイヤーが線の細い男に、たぐり寄せられた。先端には変な形の刃物が付いている。
「この子達には手を出させないわよレリキ・ヨツ」
サファお姉さんが怖いぐらいの厳しい声で言った。こんなサファお姉さんを見たことは無かった。
「監獄から出されてみれば、選り取り、みどりじゃ無いか。何が命を懸けたダンジョン競技だ。お楽しみだ。おっと!」
レリキは身をかわした。
かわした所を一条の光が走っていった。
メルプルは首を後ろに向けた。
ウロンが、レーザー・ブラスターを抜いて撃っていた。
「残念だったね、眼鏡の、お嬢ちゃん。アンタの攻撃しようという意識はピリピリと、俺の敏感お肌に感じるのだよ。どこを狙っているのかまで判る。そして発射しようと言う考えまでピリピリと敏感お肌がキャッチするのさ。そこのヤマト人の、お嬢ちゃんも、俺の首を刎ねようと狙っているだろう?猫耳人の、お嬢ちゃんは俺の顔を右拳で狙っている。気配を消して居るつもりだろうが、俺の敏感お肌には手に取るように判るんだよ。ひゃひゃひゃひゃひゃ!」
腰の剣に手を掛けていた楚宇那は驚いた顔をしていた。滅多に動揺した顔を見せない楚宇那にしては珍しかった。ウロンもレーザー・ブラスターを構えたまま硬直している。ウロンのレーザー・ブラスターは撃てる回数が限られているのだから使いどころを迷っているのだろうか。
メルプルは母親の残した森人の魔術の本で作った錬金術の道具が、このダンジョンでは全然役に立たないことに自信を失っていた。
その時、角の影から白い生地にヒラヒラとドレープと銀色の刺繍がされた服を着て、赤い宝石と銀色のネックレスを胸に付けた女性が現れた。黒髪で繊細な顔立ちをしている美しい女性だ。メルプルは思わずドキッとしてハッとした。
なんて綺麗な人なんだろう。
殺人宗教の邪神官サシシ・ラーキだ。
背後にはゴッツイ髯男と禿頭の大男がいる。
あとは、スーツを着て葉巻をくわえた顔に傷が沢山ある男だ。
「ダンジョニアン男爵は提案を出しています。私達、五人のパーティ「悪人同盟」と、あなた達六人のパーティ「ルルと仲間達」を団体戦形式の戦いで戦わせて勝った方に、第三エリアと第四エリアを楽に通過させる権利を与えるとの事です。この先には武闘場が用意されています」
サシシ・ラーキは曲がり角の先を白く細く長い指でゆっくり綺麗な動きで動かして指し示した。そして目を細めていた。
え、わたしも?
メルプルは動揺した。
そして目の前が真っ暗になりかけた。
メルプルは、運動神経が鈍かったのだ。森人は弓が得意な筈なのに四分の一の血を引いているはずのメルプルは下手だったし。身のこなしは剣の達人であるルルや楚宇那とは比べるべくもなかった。空中で三回転出来るニャコは別世界の住人だった。
その時シキールの声が響いた。
「いやあ、第一パーティ「ルルと仲間達」と、第五パーティー「悪人同盟」の諸君。君達には、コレから「バトル・クジ」の選手として参加して貰うよ」
司会のシキールの声が響いてきた。
「断る」
サファお姉さんが言った。
「君達の意志は関係ないのだよ。ダンジョン競技運営委員会の委員長であるダンジョニアン男爵様の、ご命令なのだ。ほうらね」
シキールが言うと、今までメルプル達が歩いてきた通路に壁が降りてきた。
そして前に真っ直ぐ伸びた通路にも壁が降りてきた。
道は塞がれて、レリキ・ヨツやサシシ・ラーキが出てきた通路のみが残った。
「私達に選択肢は無いと言うことか」
サファお姉さんが言った。
「選択肢は在るよ。君達が、ダンジョンに毒ガスが充満するゲームオーバーの三時間のタイムリミットまで、ごねているか。バトル・クジに参加するかの、どちらかだ。ダンジョン競技運営委員会は極めて公平なのだよ」
シキールが言った。
「勝ち抜き戦でしょ」
サファお姉さんが言った。
「残念、五人が一人ずつ出て、個人戦を行う形式の団体戦だ。強い人間が一人で勝ち抜いたらゲームが面白くないだろう?勝ち点が多い方が第三エリアの第三チェックポイントで足止めになる時間が十五分であり、負けた方は足止めになる時間が四十五分のペナルティを受ける、この三十分の時間を賭けた格闘ゲームなわけだ。これは上位入賞を狙うパーティには重要な三十分間だよ」
シキールが言った。
「従うしか無いというのか」
サファお姉さんが言った。
「人聞きが悪いね。自由意志だよ。個人の自由意志を尊重しているのだよ」
シキールが言った。
大ウソだ。個人の自由意志を尊重していたらメルプルは、すぐさま逃げ出していた。
でも逃げることは出来なかった。
逃げられない理由が在ったのだ。
「バトル・クジの闘技場の用意は出来ています」
赤い水着のバニーガールが出てきた。頭から何故かアンテナが生えている。
第五パーティ「悪人同盟」の先頭にバニーガールが先導して歩いていった。
「たしか、宝箱を管理するバニーガールは殺してはいけなかったのだろ」
レリキが言った。
「はい、そうです」
赤い水着のバニーガールの右腕が返事と共に落ちた。
え?
「えっ?これわたしの腕?」
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道