ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「ひっく。あちゃしは魔術師だぞ。自前で何とかする!ひぃっく」
コロンは、背中のリュックサックを開けて、中から小瓶を沢山取りだした。
「何だそれは」
マグギャランは言った。
「ひいっく。マイクロ・アルケミー・キットだ」
コロンは時々、しゃっくりをしながら、何かを調合し始めた。
スカイ達は黙って見ていた。
「ひいっく。出来たぞ。このヤロウ共。これが、コロン特製の酔い止めだ」
コロンが小瓶に入れた。オレンジ色の物体をスカイ達に見せた。
「大丈夫なのかよ。酔っぱらって調合した薬だぞ」
スカイは言った。
「ひっく。あちゃしが、そんな失敗をすると思うのか。ひっく。それじゃ飲むぞ」
コロンは、小瓶の中身を一気に飲み干した。
「うぅぅぅぅぅぅ不味い。何だ、この味は、ううっ。不味い。不味すぎる」
コロンは顔をしかめて舌を出していた。
「何だよ、自分で飲んだ事ないのかよ」
スカイが言った。
「うぅぅぅぅぅ…」
コロンの様子が変わった。
「どうした」
マグギャランが言った。
「…」
コロンは黙ったままだった。
そして顔を赤くしてキョロキョロと回りを見ていた。
「元に、もどったんじゃないのか」
スカイは言った。
「ふむ、そうか。それじゃ、先へ進むぞ」
マグギャランが言った。
「第三エリアは、動く床と背信の迷宮だ。常にダンジョンが形を変え続ける。このエリアではパーティ同士の戦闘が司会のシキールの権限で許可されるらしいな」
スカイは第二チェックポイントの扉に掛けられた第七パーティ用のルールブックを読んでいた。
「あのシキールが関わる以上、真っ当なモノとは思えないな」
マグギャランは言った。
「まあ、いいさ、俺達は順調に順位を上げてきている。第一チェックポイントでは八位だったが。現在は六位だ。メンバーの欠落は無いし、順調かな」
スカイは言った。
「そうだな、アイツ等は既に三人が死亡したようだ」
マグギャランがスカイに首を振って、ソファーに座っている三人を見ながら言った。
第二チェックポイントには第四パーティ「
ワイズメン」が先に居た。さっき見たときよりもメンバーの数が減っていた。ロイド眼鏡を掛けた顎髭の中年の男と二十台の女が居なくなっていた。メンバーの数は3人にまで減っていた。そして、スカイ達が到着してから、ずっと内輪もめをしていた。
「あなたが、いけないんですよメドラ教授!ゴンレー教授を、あなたが突き飛ばしたから、ゴンレー教授は暴れ人食いワニに食べられてしまったんです!」
男の魔術師がキレた顔で言った。
「黙りなさいホレー。我々は、一位通過をしてエターナルの栄光を示す必要が在るのです」
メドラは言った。
「そうよ、黙りなさい。私たちは犠牲が出てもエターナルの栄光を示せれば、それで良いのよ」
メンソールを吸いながら眼鏡の女が腕と足を組んでいた。
「あれは内部崩壊だな」
マグギャランは笑いながらスカイに囁いた。
「まあ、そうだろうな」
スカイも笑いながらマグギャランに囁いた。
「これで、アイツ等より順位を上げるのは楽勝だなスカイ。魔術は使える回数が限られているから人数が減れば、それだけ魔術を使える回数が減る。アイツ等は首位争いのレースから脱落という訳だ」
マグギャランは親指を立てて囁いた。
「見て下さいよ、このザコ達を!こんなザコな、パーティが誰一人犠牲者を出していないのに。クリーンで理知的でスマートな筈の魔術師の我々がですよ。三人も犠牲者を出しているのは大問題ですよ!ザコなのに!」
ホレーがスカイ達を見ながら言った。
「ザコ、ザコって、うるせぇよ」
スカイは振り向いて言った。
「そうだ。ザコとは酷い言い方だな。もっと言葉を選べ、そこの魔術師」
マグギャランも言った。
「どう見たって、オマエ達はザコだ!」
ホレーが、どっか行った顔で指さして叫んだ。
「てめぇ!この野郎!何、指さして居るんだよ!」
スカイは叫び返した。
「ザコなのは間違いないでしょ。三白眼の子供に、二枚目崩れに、頭の悪そうな魔術師じゃ最初から話にならないわよ」
メンソール女がメンソールの灰を落としながら言った。
「うるせぇよメンソール女。俺達は、俺達の、やり方で一位を取るんだよ」
スカイは言った。
「ああ、そうだ。俺達は一位を取る。だが、オマエ達はメンバーが減った現在の状況では一位を取れないようだな」
マグギャランが言った。
「へへっ、そう言うことだ」
スカイは言った。
緊張が走った。
暫く、無言のギスギスした時間が過ぎていった。
「第四パーティ「ワイズメン」の皆さんは、十五分間のインターバルが終了です。次の迷宮エリアに進んで下さい」
女の声がラッパ型のスピーカーから聞こえてきた。
第四パーティの三人は立ち上がって扉を潜っていった。
「何でトイレが在るの?」
メルプルは思わず口走った。
ダンジョンに突然、白い腰掛け型の水洗便器が置いてあった。
「ああっ、トイレだ。トイレがある…」
フラフラと青い顔をしてルルは近寄っていく。
だが、ルルが近寄るとトイレが逃げていった。
「えっ?トイレが逃げていく。待ってよ」
ルルはフラフラしながらトイレを追いかけていった。
「ルル!罠よ!絶対罠よ!」
ウロンが叫んだ。
「ヒマージ王国の王都タイダーで起きた連続猟奇殺人事件では、身分に関わらずに若い女が手当たり次第に殺された。その殺人鬼の名前はレリキ・ヨツ。凶器は刃の付いた殺人ピアノ線と、その先端に付いた鋭利な刃物だ。コイツは多分レリキの殺人ピアノ線だな」
スカイは扉に張ってあるピアノ線を見ながら言った。
スカイは髪の毛を一本抜いて、殺人ピアノ線に近づけた。髪の毛が真っ二つに切れた。
凄い切れ味だ。
「ふむ、どうやら、この扉の殺人ピアノ線を解除しなければ先へ進めないようではないかね。出来るかスカイ」
マグギャランは言った。
「難しいな。下手すると指が落ちるぐらいに危険な殺人ピアノ線だ。どうやってレリキの奴は操っているんだ」
スカイは、殺人ピアノ線を見ながら言った。
うっかり解除しようとすると、巻いてある殺人ピアノ線が巻いたゼンマイのように弾けて切りつけるように仕掛けを作っている、実に陰険で手先の器用な奴だ。
ダンジョニアン男爵は無数の小粒のダイヤモンドで覆われたゴージャス携帯電話をラビリーナが耳と口元に当てて支えさせて掛けていた。その手にはリモコンが握られていた。そして素早く動かしていた。
「あー、サシシ・ラーキ君だね。君達も自由になりたかったら、私に素直に協力してくれ。何?君の宗教を布教させるために土地を貸せだって?ダメだよダメ。カルトはダメなんだから。悪い評判が立つと地価が下がるだろ。わたしは、このトラップシティの市長でも在るんだよ。判ってくれよ。君はダンジョン・ゲームを君のフェロモンで盛り上げてくれれば良いんだよ。君のサイコ系の電波美人
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道