ダンジョニアン男爵の迷宮競技
第四パーティ「ワイズメン」のスコアは1。
第五パーティ「悪人同盟」のスコアは1。
第六パーティ「借金隊」のスコアは0。
第七パーティ「ザ・ワイドハート」のスコアは0。
第八パーティ「黒鷹」のスコアは2。
「まだ。この第二迷宮ゾーンをクリアーしたパーティは居ないようだな」
マグギャランが言った。
「ああ、そうだ。まだ、俺達にも一位になるチャンスは在るって事だ」
スカイは言った。
「そう言うことだぞスカイ」
マグギャランは言った。
「ひぃっく。おい、このヤロウ共。さっさとルーレットを回しやがれ。ここに。ルーレット回転ボタンと停止ボタンが付いているぞ」
コロンはルーレットの下に付いている赤と青のボタンを指で示した。
「コロンが、やれば良いのではないのか」
マグギャランは言った。
「あちゃしは、こういうのは苦手なのだ。グルグル回る物は、見ていると目が回るから。吐きそうになるんだ。ひぃぃっく」
コロンが言った。
コロンは昔から回転する物が苦手だった。
「まあ、仕方がねぇな。それじゃ、俺がルーレットを回すよ」
スカイは言った。
「確かに、この手の物は、お前は得意だからなスカイ」
マグギャランは言った。
「よし。行くぞ」
スカイは回転の青ボタンを押した。
ルーレットがグルグルと回転を開始した。
「スカイ。熱帯魚を狙え。軽い方が良いに決まっている。本マグロは駄目だ」
マグギャランが言った。
「ひっく。酒だ。酒樽を狙え。あちゃしが全部飲むから軽くなるぞ」
コロンが言った。
「だが、一回目じゃ、このルーレットの癖が判らないから。正確に当てられないぞ」
スカイは言った。
「スカイ。絶対、一トンのバーベルやタンス、ダンジョニアン男爵のブロンズ像などの重量級は避けるのだ」
マグギャランが言った。
「ええい。押すぞ!おりゃ!」
スカイは停止の赤いボタンを押した。
ぐるぐると、回っていた。ルーレットが、ゆっくりと止まり始めた。一トンのバーベルをゆっくりと通り過ぎて、軽そうな菓子パンを通り過ぎて、重そうな柱時計で止まりかかって、次の安眠枕で止まった。これ以上ルーレットは動かなかった。
「でかしたぞスカイ!」
マグギャランがスカイの肩を、ひっぱたいた。
「ひっく。さすが、あちゃしの弟だな。ひっく」
コロンも大きく頷いた。
「第七パーティの一回目の借り物アイテムは安眠枕に決定です」
バニーガールが言った。
「ひっく。よし、行くぞ。お前達、コノヤロウ共!」
コロンが駆けだした。
「ひぃっく。早く来い!」
そして曲がり角の所で足を動かしながらスカイ達を待った。
「行くぞ。スカイ。ここはダッシュで時間を短縮するのだ」
マグギャランは駆け出しながら言った。
「おうよ」
スカイも駆けだした。
「ダンジョニアン様、第七パーティ「ザ・ワイドハート」も第二迷宮ゾーンに入りました」
ラビリーナが言った。
「ふむ。第七パーティには安眠枕を当てさせたが。これで、賭の行方は判らなくなるのだろうね。私も、どのパーティを優勝させるか、まだ決めていないのだよ。迷宮競技は芸術家の私のインスピレーションとイマジネーションが織りなす一大アートだからね。ゲームは常に混沌とした方が良いのだよ。だから私は時にはゲームに介入することも辞さないのだ。予定調和は、面白くないからね。何しろ私はダンジョン競技の神なのだから」
ダンジョニアン男爵は手元のダイヤルを見ながら言った。そこにはルーレットと同じ、借り物のアイテムの名前が記されていた。そして矢印は安眠枕を示していた。
「ジーウー。さすがに一トンのバーベルは重いな」
戦士のトトン・マーレーが言った。
「仕方が無いですよ」
ジーウーは言った。
一番非力なスカウトのクア・フルトがキュピンさんを背負っていて、黒鷹、トトン、フラー、ジーウーの合計四人で一トンのバーベルを転がして運んでいた。
「ううっ。トイレはどこなのウロンちゃん」
ルルは腹を押さえながら、よたりながら言った。
「在るわけないでしょ。ダンジョンを出るまで我慢するの」
先頭に居るウロンがレーザー・ブラスターを構えながら言った。
「ダンジョンに落ちている物、拾って食べれば、お腹を壊すのは当然ムニィ。バカだルルは」
ニャコが頭の後ろに両手組んで歩きながら言った。
「落ちて何かいないよ。ちゃんと冷蔵庫に入っていたもん。それにバカじゃないよ」
ルルは青い顔で言った。
「何でメルプルは役に立たないのよ。何時も色々な薬や植物や魔術の道具を作っているでしょ」
楚宇那が壁に手を、ついているルルを支えて言った。
「あれは趣味だし。確かに腹痛止めは持っているけど、余り効かなかったじゃない。腹痛止めばかり何種類も持っているわけないでしょ」
メルプルは自作の革のポシェットの中を見ながら言った。
このポシェットは中が1メートル四方の空間湾曲魔術で出来ている。物置カバンなのだ色々な物が入っている。そして重さはゼロなのだ。メルプルの母親が教えてくれた森人族の魔術で作ったポシェットなのだ。
「ルル。このダンジョンの中にあるカメラに私達は監視されているのよね」
楚宇那が思い詰めた声で言った。
「そうだろうね…」
ルルは苦しそうな声を出した。
「わたしだったら恥ずかしくて生きていられないから。もし限界に達したら言って。首を刀で刎ねて上げる。私は腕が良いから苦しまない筈よ」
魔亜那が腰の赤い鞘の刀の鯉口を切って真剣な顔でルルに言った。
「ええっ?楚宇那ちゃん首刎ねないでよ。まだ死にたくないよ。殺さないでよ」
ルルは青い顔でヨロヨロと壁を伝って逃げながら言った。
だが、楚宇那は、首を刎ねる事は本当にやりそうだった。
楚宇那は、そういう性格なのだ。
「私達が次に見つけるのは、百科事典全巻だから、でも幸いだったわね。メルプルの物置カバンに入れれば重さはゼロになるから」
ウロンが言った。
「でも、百科事典は大きい本だから、このポシェットの入り口じゃ入らないと思う」
メルプルは言った。
「どのぐらいの冊数なのかが問題ね。私達だけじゃ運べない可能性が在るから。百科事典って沢山在るんでしょ?」
楚宇那が言った。
メルプルは気が滅入った。メルプルの腕の力では大量の本を運ぶことなど不可能だった。
「2回目は柱時計か」
スカイは止まった、ルーレットを見ていった。安眠枕は簡単に見つかった。スカイ達が、角を曲がったら次の十字路の左側が安眠枕の配布場所だった。実際軽かったし。スカイ達は走って戻ってきた。
「確かに重たい物の部類には入るが。決して運べぬ重さでもない。さあ気合いを入れて柱時計を捜しに行くぞ」
マグギャランは言った。
「ひぃっく、オマエ等、運べ、運べ」
コロンがニヤニヤ笑いながら言った。
「仕方が無いな。捜しに行くぞ」
スカイは言った。
「そうだ。何となく、俺達が一位取っているビジョンが浮かんできたぞスカイ」
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道