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ダンジョニアン男爵の迷宮競技

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ダンジョニアン男爵の迷宮競技
              針屋 忠道

















オレの名前はスカイ。今日は、どんな話をしようか。そうだな、このコモンに携帯電話が普及し始めた頃の話でもしようか。フラクター選帝国の魔術師達がコモンにテレビや携帯電話を売り出して世の中が科学という新しい魔術で一色になった時代があったんだよ。貴族もオレ達平民もみんな科学って奴にイチコロになって大フィーバーが起きたんだ。俺も携帯電話を買ったんだぜ。あの頃はクーポン前払い制だったんだが。今じゃ考えられないくらいに面倒だったな。スマート・フォンが出る前で性能が悪くて直ぐに圏外になるんだ。
この話は、オレの相棒のマグギャランと組んでいたときから始まる。コイツは騎士の出なんだが女癖が悪くて女運が悪くて何時も酷い女ばかりに手を出すような変な奴だ。
 そしてオレの姉貴のコロン姉ちゃんが、何をトチ狂ったかいきなり、冒険屋稼業に入ろうとしたんだ。おれは、その頃マグギャランとコンビを組んでいた冒険屋だった。この商売はガラの悪いことは間違いない。オレは姉貴を思いとどまらせようとした。だって姉貴はド近眼で頭でっかちで、子供の頃から何時も、どっかを向いて、何を言っても上の空の、ただの変わり者の町娘だったんだ。それも最初はムチャ低レベルな魔術師だった。オレが姉貴を思い、とどまらせるために、子供の遊びの迷宮競技への参加を思いつく事は、おかしくないだろう?簡単な話だ。冒険屋稼業の気分を味合わせて、お引き取り願う。単純な話じゃないか。そういう大人から子供まで参加できる迷路ゲームがブルーリーフ町には、あったんだよ。
 そしてオレは姉貴のコロンを連れて、子供の頃、迷路ゲームに参加したヒマージ王国のブルーリーフ町に行ったんだ。だが、そこは昔のブルーリーフ町ではなかった。ダンジョニアン男爵の迷宮競技で有名なダンジョニアン男爵のトラップシティって名前に変わっていた。だが、オレは、そんなに変わっているとは思えなかったんだ。そこの領主のブルーリーフ男爵は、いい人だったからだ。最近のメディアに、ありがちな誇大広告や悪い噂だと思っていた。だが、ブルーリーフ町はマジで陰謀と膨大な賭の収益で潤う一大ギャンブル街と化していた。そして子供の頃ダンジョン競技に一緒に参加したトンガリ耳の女の子メルプルと俺は再び出会ったんだ……
(聞き手ノベラーY)











冒険屋組合の待合室でスカイとマグギャランは椅子に、もたれかかって仕事が来るのを待っていた。この組合の良いところは、仕事の稼ぎの10%を組合への加入料として取られる反面仕事が回って来やすいことであった。スカイ達の様なモンスター退治その他を請け負う冒険屋には、ある程度の安定性は魅力的であった。
 待合室の長椅子に腰を掛けているのは、仕事を持ってきた依頼人を、その場で口説き落として仕事を指名して貰うためであった。
 このミドルン王国のニーコ街の冒険屋組合では他にも同じ事を考えている冒険屋のグループ達が居る。刃物恐怖症の戦士にラリ公の魔術師に新興宗教の僧侶のグループだ。こんな奴等と仕事を取り合うような商売だった。
相棒のマグギャランは「夜遊びナイト倶楽部」というエロ雑誌を真剣な顔で読んでいた。写真機という物が最近は普及してエロ雑誌にもカラー写真が使われて刷られている時代だ。マグギャランは体面を重んじる割には女癖が悪いのだ。スカイとマグギャランが横並びで借りている集合住宅のマグギャランの部屋の前には部屋から溢れ出たエロ本が積み上げられていた。
スカイは黒い半袖のシャツと黒いズボンを履いてマガジンラックの「冒険生活」を見ていた。愛用のロングソードは腰に差したままだ。腰には戦士に転職する前のスカウト時代から使っているナイフが、くくりつけてある。 「冒険生活」は怪物退治の依頼や護衛などの仕事の求人情報誌で、たまに大金をせしめた冒険屋が成功体験談を載せたりする。ここ十数年で一番大金をせしめたのは有名な冒険家シュド・マーチャーセンだ。冒険屋も一山当てると名前が冒険家と呼ばれてセレブの仲間入りが出来るのだ。それまでは、ただの与太者扱いだ。
スカイは「冒険生活」を、めくって見ていた。大した仕事は無かったし、適当な仕事は、みんなイシサ聖王国やハーベス王国と言った外国だった。最近はモンスター退治にもモンスターの人権擁護やモンスター愛護が叫ばれて大っぴらに殺して回れない時代だ。
 多くの亜人類(人間に近い姿と知能を持った種族)や、コモンで抑圧されていた少数民族達は自分達の人権を求めて人間界と袂を判ってフラクター選帝国を魔術師達の主導で設立したのだ。大分、昔の話だ。百年ぐらい前の話だ。そして人間の住むコモンとフラクター選帝国は睨み合いながら暮らしているのだ。まあ沿海岸州連合王国にある内陸海を隔てた向こうにも人が住んでいるらしいがスカイは行ったことは無かった。
 交易路ツルッペリン街道の中継地点に位置するミドルン王国のニーコ街は、冒険屋稼業をするには、ちょうど良い環境だった。ミドルン王国の大都市の一つであるニーコ街は総人口が多い分もめ事や、トラブルの種が尽きないからだ。それでスカイとマグギャランは飯を食っているのだ。
マグギャランはエロ本を読みながら興奮して鼻息が荒くなっていた。こんな奴だがマグギャランは一応貴族の出でも在るらしい。色々な事情が在るらしいがスカイには関係がなかったしマグギャランも話さなかった。
奴は赤と黒の薄いレザーのコートを羽織っているが内側は白いスカーフを首に巻いてシャツを着てベストを着ている。そして乗馬ズボンを履いて膝まであるロングブーツを履いていた。そして姉の形見だという女物の剣を持っていた。どこぞの刀匠が作った業物の剣らしい。
だが剣なんて使えば、いずれは折れる消耗品だし、スカイには剣の銘とかには興味は無かった。
その時、冒険屋組合のドアのベルが鳴った。
 スカイはパッと身を起こした。
 鉄の棍棒を磨いていた刃物恐怖症の戦士も身を起こした。
 そしてドアが開いた。
 スカイはマグギャランのエロ本を奪ってテーブルに置いた。
 「何するんだスカイ?」
マグギャランが怒った声で言った。
 「お前は顔と育ちは良いから交渉は得意だろう。お前がやれ。俺だと客に信用されない」 スカイが言った。
スカイは目つきが悪いのだ。それで何時も割りの悪い目に遭っている。
マグギャランは顔の出来が良かった。
 「まあ、それもそうだな」
 マグギャランが言った。
 そしてドアの方をスカイは見た。
はあ?
 スカイは内心絶句した。
 白い縁なし帽に赤い縁の付いた青いコートを着て、最近流行遅れの魔術の杖を持った17の娘が居た。背は小さい。それに左脇には馬鹿でかい皮表紙の本を抱えていた。
 スカイは身長が百六十四センチしか無いが。更に輪を掛けて低い。百五十センチぐらいしかない。当然といえば当然だが。
 そして眼鏡を掛けて黒髪を背中に一本の三つ編みにして結んでいる。