ダンジョニアン男爵の迷宮競技
スカイはバニーガールから三十センチぐらい在る馬鹿でかい鍵を受け取った。鍵には7と刻印されている。
「お前は剣が無いから、それを武器にしたら良いんじゃないのか」
マグギャランは言った。
「こんな物で、どうやって戦うんだよ」
スカイは鍵に付いた穴に手を突っ込んで振り回しながら言った。アルミ製で結構軽かった。
スカイ達は立ち止まった。
「何だ、落とし穴か?」
マグギャランは底を見た。
落とし穴の底には無数の鉄製の槍が剣山のように突き出ている。
落とし穴の向こうには広い空間が広がっている。
だが落とし穴の向こうへは十メートルぐらいの幅がある。スカイが走り幅跳びをしても届くことは難しかった。ロープを投げて引っ掛けるような突起もなかった。
「別の道を探るか」
スカイは言った。
「仕方が無いな。だが、ここから見える、あの広間は百眼魔が居た場所と、よく似て居るぞ。もしかしたらチェック・ポイントが在るかもしれん」
マグギャランは言った。
「どきたまえ。庶民の君達。私は魔術都市エターナルの助手グド・ボーバーだ」
眼鏡を掛けた二十台中頃の黒髪の男がスカイ達に向かって、手で、しっしっとやっていた。
「何だよ、お前、何、仕切っているんだよ。オレ達が先に居るんだよ」
スカイは後ろを見て言った。
助手のグド・ボーバーの後ろからゾロゾロと黒いケープの下にスーツを着た魔術師達が五人もやって来た。第四パーティー「ワイズメン」だ。
「ふん、どうせ、あなた達は、この落とし穴を渡れないでしょう。だけど私達は渡れるのよ。私達エターナルの魔術師にはパラボラ・ジャンプ(弾道ミサイル跳び)の呪文があるから。これが魔術師の実力よ。馬鹿な罠なんか魔術で解除して先へ進めば良いのよ。マッピングした結果、あの広間が、第一チェックポイントに近いという事まで判っているのよ。判る?頭よ頭。頭の善し悪しが全てなのよ。私達は第一チェックポイントの扉の鍵を、もう二つ手に入れているの」
眼鏡を掛けた三十前後の女がメンソール煙草を吸いながら髪を、かき上げて言った。
メンソールの灰はダンジョンの床に落としている。
性格が無茶苦茶キツそうだ。
だが、それにしても良い情報を聞いた。
「おい、何色の鍵だよ。オレ達は鍵を一本手に入れた。青の鍵だ」
スカイは言った。
「私達が手に入れた鍵も青の鍵です。もう一つは緑の鍵です。緑の鍵の配布場所は第一ルートのフリー・バトル・ゾーンの扉の前に在ります。ですが我々は赤の鍵を捜す必要は在りません。マッピングの結果、この落とし穴を飛べば3本の鍵の迷宮の扉の向こうに繋がっている事が明らかになったからです。そうすれば時間を短縮して第一チェックポイントに到達する事が出来ます」
中年の女ゴトル・メドラ教授が言った。
第一チェックポイントへの道が、スカイの頭の中の地図で判った。
「あのう、お姉さん、お名前は…」
マグギャランがナンパを開始した。
「わたしは腰に剣を、ぶら下げているようなバカは嫌いなの。お呼びじゃないわけ。安っぽく見ないでよ」
三十前後の女はマグギャランの顔にメンソールの煙を吹き付けた。
「ああああっ!そっけ無さ過ぎる!」
掛けられた煙と共にマグギャランは、しおれるように、へたり込んで落ち込んだ。
「メンソール臭い女なんか気にするなよマグギャラン」
スカイは膝を付いて頭を抱えて落ち込んでいるマグギャランの背中を叩きながら言った。
「それではラジアンが判明しました。パラボラ・ジャンプの呪文で向こうへと渡りますメドラ教授」
グド・ボーバーが眼鏡を掛けた小太りの中年女性、メドラ教授に言った。
「それではエターナルの栄光を打ち上げてきなさい。これが魔術都市エターナルの実力です。大型スクリーンで見ている愚民共と、コモン各地の場外券売場の中継を見ている愚民共にエターナルの実力を見せるのです。あなたのジャンプは歴史を動かすのです」
メドラ教授が頷いて言った。
「仰角固定、発射」
身体を競泳の飛び込みの様な前傾姿勢で傾けて分度器を見ながらグド・ポーパーは言った。
身体がゆっくりと浮かび上がり向こうの広間へと跳んでいった。確かにパラボラの様な弾道を描いて飛んでいく。
「えらくダセェ、カッコで飛んでいくな」
スカイは言った。
プカプカと前傾した姿勢で、ゆっくり飛んで行くが後ろから見ると情けない格好だ。
「飛べない戦士風情が何を言う。魔術都市エターナルの魔術は伝統と格式のある魔術なのだ。お前達、愚民どもが伺い知ることの出来ない高度な知識を先人達が築き上げ、積み上げた深遠な内容を持っている。パラボラ・ジャンプの魔術は腰を曲げる角度によって飛べる距離の調整が出来る使い勝手のいい呪文なのだ」
眼鏡を掛けた二十台中頃の女が言った。
「コレがか?」
スカイはグド・ボーバーのケツを指さしながら言った。腰を曲げたままプカプカと飛んでいくのだ、それは、あまり見栄えが良い眺めではなかった。
「今言った内容が判ってないだろう」
二十台中頃の女が眼鏡の端を上げながら言った。
「さっぱり判らねぇよ。オマエの説明の仕方が悪いんじゃねぇのか。腰の角度を曲げれば飛べる距離が変わることは判ったがよ」
スカイは言った。
自慢話まで聞く必要は無かった。
マグギャランは立ち直って鏡を出して髪型のチェックをしていた。
コロンはボケーッとして杖を突いて見ていた。
何となく間延びした時間が過ぎていった。
グド・ボーバーの身体が向こうの広間へと到達し掛かった。
その時、いきなりスカイ達の目の前で落とし穴の底の槍の剣山が機械音と共に迫り上がってきた。
「オイ!アブねぇぞ!下を見ろ!」
スカイはグド・ボーバーに叫んだ。
グド・ボーバーは下を見た。
恐怖で顔が引きつった。
グド・ボーバーは空中で浮かびながら暴れ始めた。
だがグド・ボーバーが広間に到達する直前に槍が身体を捕らえた。
「うわああああああああああ!」
鋼鉄の槍は、そのまま迫り上がっていきグド・ボーバーの全身を串刺しにした。
そして落とし穴の天井まで槍は伸びていった。
皆呆然として見ていた。
「何て事でしょう。第四パーティ「ワイズメン」のグド・ボーバーは、哀れ、串刺しになりました。これがコモン中の優れた頭脳が集まるという魔術都市エターナルの実力なのでしょうか。残念ですねぇ」
葬送行進曲がスタジアムに流れる中、シキールはマイクに向かって俯きながら言った。ハンカチで涙を拭う仕草をしながら口元は笑っていた。
大画面のディスプレイにはグド・ボーバーの串刺しになった映像が映し出されている。
観客達が笑い声を上げている。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道