ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「まさか第七パーティー「ザ・ワイドハート」がアンラッキー・セブンを突破するとは、私の予想外の出来事だよ。いかんね。気にくわないね。許せないね。ムカツクね。マジギレするね。私は自分の思い通りにいかないことが一番嫌いなのだよ。何故なら私はダンジョンゲームの神なのだ」
ダンジョニアン男爵はダンジョン・マップを見ながら言った。そして巨大なソフトクリームに貪るように横から噛みつき口の回りにソフトクリームを付けながら猛然と食べ始めた。
「死ぬかと思ったが、まだ生きているぞスカイ。どうした扉に罠は在るか?」
マグギャランがハンカチで顔を拭いていた。爆発で顔が煤けていた。
「いや、扉にはルールが書かれている。これから先にある迷宮は「3本の鍵の迷宮」と呼ばれる迷宮ゾーンだ。イベントアイテムと呼ばれる赤、緑、青の3本の鍵を集めなくてはならない」
スカイは扉に彫ってあるルールを見ながら言った。
「ふむ、ここから先は、他のパーティとの遭遇も在るのだな」
マグギャランは真面目な顔で言った。
だが、ポケットから鏡を出した。
仕方がねぇ奴だな。
「ああ、そうだよ」
スカイは判っているが言った。
「この、ダンジョン競技には妙齢の女性の参加者達がいる。金髪、赤毛、インテリ、その中に運命の出会いが在るかもしれん。騎士道的には身だしなみが重要だ。いかんな百眼魔の爆風のせいで髪型が乱れている、しっかりとキメて置かなければなるまい」
マグギャランは鏡で髪型をチェックし始めて銀製のコームをコートから取りだして髪を撫でつけ始めた。
現在一位は第一チェックポイントの迷宮の鍵を二つ手に入れた第8パーティの「黒鷹」であった。シキールは、ニヤリと笑った。
「さあ、現在一位は第8パーティの「黒鷹」です。第一チェックポイント通過の為に必要な三つの迷宮の鍵の内二つを既に手に入れています。だが、ただでは終わらないのがダンジョニアン男爵の迷宮競技だ。「黒鷹」に賭けていない人達が、一杯居るよね?そうだ、多数決だ。みんなの期待に答えよう。少しゲームを面白くしよう」
観客席から歓声と拍手と口笛が上がった。
ブーイングも混じっている。
「彼を呼びます。ダンジョンストーカーズの中でも人気ベスト8に入るダンジョンストーカー・キリング・ランキング十六位の「沈黙の暗殺者ポイズン・ガン」を!」
司会のシキールが言った。
「おおおおおおおっ!」
どよめきがスタジアムに起こった。
「ポイズン・ガンは皆さんも知っての通り、彼しか解毒できない特殊な合成毒薬ポイズン・カクテルを使います。ポイズン・カクテルを塗った毒針を発射する3連空気銃ニードル・ガンを両手に持っています。そして、これからポイズン・ガンを呼びます。見ていて下さい」
司会のシキールがピンク色の燕尾服のポケットから金色の携帯電話を取り出した。そしてステージの上でボタンを押して操作した。
巨大なテレビにはマッサージ・チェアに座っている、全身を身体にぴったりとしたゴムの様な服で覆った痩せた男が黒い携帯電話を耳に当てている姿が映し出された。マッサージ・チェアに付いている八本の腕が動いて肩や腕を揉んでいる。
「はい。ポイズン・ガン?あーそうそう君の出番だよ。今、控え室でマッサージ・チェアーに座っているって?ここからも見えるよ。今、君はスタジアムのモニターに映って居るんだからね。これから、今一位のパーティ「黒鷹」から一人脱落させて欲しいんだ。だれだって?そうだな。今、大画面モニターに写っている女が良いな。赤い髪の胸のデカイ女キュピン・パーキスだ。それじゃ頼むよ」
シキールが携帯を掛けながらマイクに喋りかけて言った。
「ポイズン・ガン!ポイズン・ガン!ポイズン・ガン!」
観客席から歓声と連呼する声が上がった。
「何て事だ。これは反則ではないのか?」
シー老師は思わず口から言葉が出た。
「甘いね。これがダンジョンゲームなのだよ。一番のパーティーといえども油断は出来ない仕組みになっている。そうさ。一番のパーティーといえども、いつ司会のシキールがゲームに介入するか判らない。いやが上にも賭のスリルは増すのさ」
隣の男ギャンブラーYが言った。
なんて卑劣なのだ。シー老師は怒りで拳を握っていた。
ジーウーは雪巨人に延髄蹴りを食らわせた。3メートル近くある身長の雪巨人が床に崩れ落ちた。
黒鷹がシールドで雪巨人の棍棒を受け流した。そして右手のロングソードで雪巨人を切り倒した。
「片づいたな」
黒鷹が言った。
「きゃっ!」
突然、キュピンさんが悲鳴を上げた。
キュピンさんの肌が見る見るうちに灰色になっていった。
「天井に何か居るぞ」
スカウトのクア・フルトが言った。
天井には逆さまに張り付いた両腕に機械の様な武器を構えた怪人が居た。
ジーウーは怪人が自分に殺気も感じさせずに近づいた事に怒りを覚えた。ジーウーは天井に軽身功で壁を蹴り飛ばして三角飛びに跳ね、天井の怪人を蹴飛ばそうとした。だが、怪人は四つん這いになると高速で天井を移動していった。
ジーウーの蹴りはスカった。
逃げた?
ジーウーは自分が殺気を感知出来なかった事が悔やまれた。
「さあ、ここらで第8パーティーに連絡を入れましょう」
シキールが金色の携帯電話を取り出した。
観客席から口笛が鳴った。
「はい。こちら司会のシキール。第8パーティーに繋いでくれないかな」
シキールは笑いと共に携帯電話に話かけ始めた。
「はーい。第8パーティーだね。ボクは司会のシキールだよ。君達は頑張って居るみたいだけどアクシデントが起きたね。不幸は突然襲うモノだからね。回復系のメンバーが毒にやられたそうじゃないか」
突然ダンジョンの中から声が聞こえてきた。
ジーウーは辺りを見回した。天井の一角が開いてラッパ型のスピーカーが出ている。
「お前達の差し金と言うことは判る。何のつもりで連絡を入れてきた」
黒鷹は言った。
「良いことを教えてあげようと思うんだ。聞かないと、後で後悔するよ。いまキュピン・パーキスに打ち込まれた毒はポイズン・カクテルという特殊な毒で二十四時間かっきり苦しんでから絶命する致死性の猛毒なんだ」
シキールは言った。
「何だと」
黒鷹は押し殺した声で言った。
「解毒するためにはダンジョン・ストーカーズのポイズン・ガンが持っている解毒剤を使わなくてはならない。その辺の治療魔術や錬金術の薬なんかが通用しない特殊な毒なんだ」
シキールが言った。
「何の、つもりで教えるのだ。いや、何のつもりで、こんな真似をするのだ」
黒鷹は言った。
「コレから君達「黒鷹」がポイズン・ガンを、どの迷宮ゾーンで捕まえられるかの賭けを行うからだ。これから賭の券を販売する。さあ、用意ドンだ。スタートだよ」
シキールが言った。
「卑劣な。人の命を使って、賭けを盛り上げさせるとは」
黒鷹は言った。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道