ダンジョニアン男爵の迷宮競技
「良いことだと?そうだな。やっぱり美女だな。美女と出会える事は良いことだ」
「そうだ!女のことでも何でもいいから、ここを渡るんだよ!その先に…」
「その先には美女が待っている!よし、何となく、それなりに気分が出てきたぞスカイ!俺は、この橋を渡れるような気がしてきたのだ!美女達が俺を待っている!ここは一つ、やってやるか!」
マグギャランは立ち上がって一気に叫んだ。
「いやあ、何か、勝手に盛り上がっているけれど、司会的には、ここで一人、脱落して欲しいから、振り子のリズムを変えてみるね」
シキールは言った。
振れていた振り子が止まった。
そして、振り子が一列に並ぼうとしていた。
不味い。一列に並ばれては、避けることが出来なくなる。
スカイは焦った。
「マグギャラン!橋を走って渡れ!渡れなくなるぞ!」
マグギャランも気が付いたようだった。
振り子は一つに纏まって、振り出そうとしていた。
「うおりゃあああああああああ!」
マグギャランは叫び声を上げて橋を全力ダッシュして駆けてスカイの方へ走ってきた。
一つになった振り子がマグギャランを突き飛ばそうとして殺到したが、何とか突き飛ばされる寸前でマグギャランは渡りきった。
「スカイ。感謝する」
マグギャランは肩で息をしながら言った。
「おうよ」
スカイは言った。
ジーウーはダンジョンの迷路の中を歩いていた。何の変哲もない一本道の少し薄暗い通路だ。ただ、分岐が何回か在って、道を選び直すことが何回か在った。
「扉に何か書いてある。これはルールのようだ」
先頭で罠を捜していたクア・フルトが突き当たりの扉の前で言った。
「ルールか。どんなルールだ」
黒鷹が言った。
「この先にある「3本の鍵の迷宮」で赤、緑、青の3本の鍵を捜さなければならない」
クア・フルトが言った。
「さあ、アンラッキー・セブンの数々の罠をくぐり抜けてきた第7パーティ「ザ・ワイドハート」だ。だが、彼等は、この先のフリーバトルエリアには入ることが出来ない。何故なら。最強の番人が居るからだ。そのモンスターの名は「百眼魔」だ!」
シキールは声高々に叫んだ。
スタジアムに、どよめきが広がった。
「何じゃコレは!まさか、あの伝説の魔術生物、百眼魔が何でこんな所にいるのだ」
スカイは丸い空中に浮いている魔物を見ていた。
それは紛れもなく、百眼魔であった。
巨大な目が付いた球状の胴体に、小さい目の生えた触手が幾つも付いている。スカイの記憶に間違いが無ければ、その数十本も生えた触手の目の一つ一つから魔術を打ち出すことが出来る強敵のモンスターであった。
「コロンは懐中電灯の魔術とライターの魔術が使えるだけの低レベル魔術師だ。魔術の撃ち合いなんか、できっこない」
スカイはコロンが使えるという魔術を見て絶句した事を思い出した。コロンは実用的な戦闘向きの魔術はダメなのだ。後、錬金術が出来るらしかったが。アテにはならなかった。
百眼魔が眼球の付いた無数の触手の先端に炎の火球と氷の槍と雷の塊を幾つも発していた。
「ここで死ぬのか」
マグギャランが、うわずった声で言った。
「取りあえず逃げ回れ!マグギャラン!剣で殺せ!俺もナイフで急所を狙う!あの馬鹿でかい巨大な目が弱点だ!」
スカイは出任せを口にしながら叫んだ。
「判った!」
マグギャランは剣を抜いて右側から回り込んで走っていった。
スカイはナイフを抜いて左側から走っていった。
百眼魔が触手に付いた目から氷の槍を飛ばしてきた。
「うおっと!」
スカイは跳ね飛んで避けた。
スカイの足下に突き刺さって氷が広がった。
だがスカイの予想していた範囲より広がった。
スカイの右足のブーツが凍った。
慌てて氷から右足を引き離す。
そのまま放って置いたら足ごと凍る威力だ。
これが氷の攻撃魔術だ。
不味いな。
スカイが七年間の冒険屋生活で見てきた魔術師やモンスター達の魔術と比べても、百眼魔の使う魔術は、かなり強力な部類に入るようだった。
スカイが足を退けた場所に閃光と共に太い稲光が走った。
雷光の魔術だ。
感電したら即死は間違いない威力に違いない。
右側のマグギャランをチラッと見た。
火の玉を屈んでかわしている。
マグギャランの頭の上を火の玉が飛んで行った。
だが。
空中で爆発した。
普通の火球じゃなかった。爆裂火球だった。
「うわぁあああああああああ!」
そしてマグギャランは背中を爆風で押されて6メートルぐらいの距離を空中で手足をバタバタさせて吹き飛ばされた。
不味いぞ。
これじゃ近づけねぇ!
近づく前に、あのバケモノに殺される!
スカイは飛んできた氷の槍を避けながら焦っていた。
何故、魔術しか使えない百眼魔が高レベルなモンスターと言われるのかよく判った。魔術の手数が圧倒的に多いのだ。
これでは近づく前に殺されるのがオチだ。
火の玉の一つがコロンの方へ飛んでいった。
不味い!
だがスカイは振り向く前に自分の方へ飛んできた火球が腹に直撃しそうになった事に気が付いた。
慌てて横に跳んで転がって避けた。だが爆発が起きスカイは床を回転したまま5メートルぐらい吹き飛ばされた。
コロン姉ちゃん!
スカイは空中で後ろを見た。
コロンはまだ、ボケーッとした姿勢で突っ立っている。
良かったコロン姉ちゃん、まだ生きていた。
ああ見えて、意外に、すばしっこいからな。
火の玉を上手く避けたに違いない。だが、さっき突っ立っていた場所から動いていなかった。何故だ?どうやって避けたんだ?
「スカイ!死ぬぞ!これは!」
マグギャランがスカイに叫んだ。
また、火の玉で、今度は7メートルぐらい吹き飛ばされていた。
だが百眼魔の様子がおかしかった。
突然逃げ出したのだ。
目を全部つむって突然地面に降りて、眼の付いた触手で這って逃げ出していった。
そして床の一部がせり上がってきて、その穴の中に百眼魔は入っていった。
そして、せり上がってきた床は元の位置に納まった。
「な、何が起きた!スカイ!」
マグギャランが叫びながら言った。
「いや、俺の方が聞きたいぐらいだ」
スカイはマグギャランに答えながら言った。
だが、取りあえず危機は通り過ぎていったようであった。
「何?何故百眼魔が逃げたのだ」
ダンジョニアン男爵は第七パーティがいる位置を確認するために、眼球にテレビモニターを仕込んだタキシード姿のダンジョン采配人達が黙々とパーティを示す駒を動かす、ダンジョンマップを見ながら言った。
「私にも判りません。ですがカメラの映像では百眼魔が逃げたことは事実です」
ラビリーナは真面目な顔で言った。
作品名:ダンジョニアン男爵の迷宮競技 作家名:針屋忠道